時計専門家「Apple Watch Ultra」をガチテスト。性能は圧倒的。ただし使い勝手は要改善

FEATUREインプレッション
2022.12.17

2022年9月に発表されたApple Watchの最新作が、タフさを強調した「Apple Watch Ultra」だ。バッテリーライフは最低1日半に延び、ケースは軽くて錆びにくいチタン製に、しかもスポーツで使える機能が付いた。そんなApple Watch Ultraを腕時計専門誌の編集長がガチテスト。ツールウォッチとしては文句なしだが、ただし使い勝手は悪くなった。とりわけ、アラームや緊急電話回りのインターフェイスは要改善だ。

広田雅将(クロノス日本版):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
2022年12月17日公開記事

Apple Watch Ultra

Apple Watch Ultra
2022年に発表されたアップルの「スポーツウォッチ」。堅牢なチタン製ケースに100m防水、EN13319認証に準拠した水深計と、IP6X認証の防塵性能、そして米国国防総省の定めたMIL-STD 810H準拠をクリアしている。水深40mまでのレクリエーションダイビングにも対応。またL1とL5のふたつのGPSで、位置表示の精度も向上した。手首に装着した際の動作温度は摂氏-20度から55度。通常使用時の駆動時間36時間、省電力時60時間。Tiケース(縦49mm×横44mm×厚さ14.4mm)。重量61.3g。12万4800円(税込み)。


Apple Watchが広げた時計市場

 時計専門メディアとして、私たちクロノス日本版およびwebChronosはApple Watchを高く評価してきた。薄くて使いやすいケースや、誰でも扱いやすいインターフェイスなどは、スマートウォッチを普及させるには十分だった。

Apple Watch Series 1

Apple Watch Series 1
2014年に発表された第1作。発売は2015年。16年のSeries 2からはSuicaに対応したほか、17年のSeries 3からはセルラー対応になった。通常使用時の駆動時間18時間、アルミニウムまたはSS(縦38×横33.3mm、厚さ10.5mmまたは縦42.5×横36.4mm、厚さ10.5mm)。時計本体の重さ(SS)25gまたは30g。価格は素材によって異なる。なお写真はアルミニウムケースのモデルである。

 今のところスマートウォッチ=Apple Watchといって間違いないだろう。調査会社のstatistaはスマートウォッチとApple Watchの出荷本数を次のように記す。

・2016年度のスマートウォッチ出荷本数:1970万本(うちApple Watchは1120万本)
・2022年度(予想値)のスマートウォッチ出荷本数:1億1300万個(うちApple Watchは4690万本)

 ちなみに2022年度のスイス時計産業の輸出量(予想値)はスマートウォッチの4分の1、Apple Watchの半分しかない。

・2015年の輸出量は2810万本。うち機械式は780万本
・2022年の輸出量は1570万本。うち機械式は630万本

 この7年でスイス時計の輸出量は半減したが、それ以上の伸びをスマートウォッチは示している。つまりApple Watchとそれに続くスマートウォッチの出現で時計の市場は大きく広がった、と言える。Appleが世界最大の時計メーカーと豪語したのも当然だろう。


Apple Watch、次の一手はガチなスポーツ時計

 簡単なインターフェイスに加えて、優れた音声入力機能や、Suicaに対応するApple Watchは、いきなり高い完成度を持っていた。さらに進化したのはApple Watch series 3以降からだ。セルラーに対応することで、Apple WatchはiPhoneが近くになくても使えるものとなったのである。

 また大きなケースにより、表示も読み取りやすくなった。しかし、初代からの弱点であるバッテリーのもちは改善されなかった。Appleは機能を増やしたにもかかわらずバッテリーのもちを従来同様に維持したが、丸1日はもたなかった。

Apple Watch Series 3

Apple Watch Series 3
セルラー対応になった初のスマートウォッチ。通常使用時の駆動時間18時間、アルミニウムまたはSSまたはセラミックケース(縦42.5×横36.4mm、厚さ11.4mmまたは縦38.6×横33.3mm、厚さ11.4mm。価格は素材によって異なる。なお写真はアルミニウムケースのモデルである。

 2022年9月のApple Watch Ultraはふたつの点でユニークなモデルだ。ひとつは、ハイスペックに全振りしたこと。その特徴だけを見ると、Ultraはスマートウォッチというより、ガチのツールウォッチだ。

 防水性能は100m、ヨーロッパのダイビング水深計基準であるEN13319認証に準拠した水深計に加えて、IP6X認証の防塵性能と、米国国防総省の定めたMIL-STD 810H準拠をクリアしている。また、ケースは軽くて丈夫なチタン製となり、強い衝撃でも傷付かないよう、風防はベゼル(ガラスの縁)で支えられる。

 ただ、このモデルは名前が示すとおりプロ向けではない。デジタルの世界では高性能=プロだが、時計の世界で使われるProfessionalとは、生死がかかった状態でも信頼に足るという、桁外れの頑強さを意味する。

SUUNTO 9 PEAK PRO

スント「SUUNTO 9 PEAK PRO」
Apple Watch Ultraのコンペティターが、2021年発表の「SUNNTO 9 PEAK」だ。写真のモデルは22年の最新作「9 PRO」。大きく重かった「9 BARO」よりはるかに軽く小さくなった。またMIL-STD 810Hにも準拠している。Apple Watchほどさまざまなことができるわけではないが、ツールとしての完成度は高い。水深計は10mまで。GPSモード時の最低駆動時間40時間、日常的な使用時21日間。樹脂×SSケース(直径43mm、厚さ10.8mm)。時計本体の重さ64g。100m防水。8万7790円。

 好例が、アポロ11号とともに月に降りたったオメガの「スピードマスター プロフェッショナル」だろう。Appleがこのハイスペックな時計をProではなくUltraと名付けたのは、そういう時計業界の「お約束」を踏まえたためではないか。

 もうひとつの特徴が、バッテリーの改善だ。アウトドアやスポーツシーンで使う前提のUltraは、前作のSeries 7や同時発表されたSeries 8よりもバッテリーライフが長くなった。そのスペックは最低36時間、省電力モードでは約60時間。睡眠記録に使うことも可能だろう。しかし、大きなバッテリーと液晶の代償として、ケースは縦49mm、横44mm、厚さ14.4mmとさらに大きくなった。これは既存の45mmサイズよりさらに大きい。

Apple Watch Ultra ケースサイド

GSA maniaの調べによると、Ultraのバッテリーは542mAhと、Series 8(308mAh)の約1.7倍、Series 1に比べると約2.6倍も容量が大きい。そこに100m防水の堅牢なケースを加えた結果、縦49mm、横44mm、厚さは14.4mmとG-SHOCK並のサイズとなった。ただしベルトを止めるラグが極端に短いため、腕にのせるとスペックよりは小さく感じる。


着けた感じはほぼメタルG-SHOCKに同じ

 直径49mmもあるUltraだが、サイズはG-SHOCKの通称「メタルモデル」と大きく変わらない。重さもほぼ同じだ。

・GW-5000U-1JF:縦48.9×横42.8×厚さ13.5 mm。時計本体の重さ(SSケース)74g。4万2900円(税込み)。

・Apple Watch Ultra:縦49mm×横44mm×厚さ14.4mm。時計本体の重さ(Tiケース)61.3g。12万4800円~。

GW-5000U-1JF

G-SHOCK「GW-5000U-1JF」
1983年に誕生したオリジナルG-SHOCKの現代版。メタル製のケース(外殻は樹脂)に、日本・北米・ヨーロッパ・中国の電波を受信するMULTIBAND6を採用する。またソーラー充電システムのタフソーラーを持つ。

 なお、同時期に発表されたSeries 8のサイズと重さは次の通り。

・Apple Watch Series 8(45mmモデル):縦45mm×横38mm×厚さ10.7mm。時計本体の重さ(SSケース)51.5g。価格は素材によって異なる。

・Apple Watch Series 8(45mmモデル):縦45mm×横38mm×厚さ10.7 mm。時計本体の重さ(SSケース):42.3g。価格は素材によって異なる。

 Apple Watchの着け心地が良い理由のひとつは、ユニークなバンド(ストラップ)にある。Ultraに標準装備される「アルパインループ」は、微調整が効くほか、簡単に取り外しができ、強いショックを受けても外れにくい優れものだ。

 フィルソンの「トギアックベルト」によく似たこのナイロン製バンドは、時計部分が大きく重いUltraにも、快適な着け心地をもたらした。もちろん軽いNikeや、Series 8の方が腕なじみは良い。しかし、サイズを考えればUltraは合格点だ。

アルパインループ Apple Watch Ultra

2層の生地をシームレスに織り込こんだアルパインループ。G字フックやケースに取り付けるアタッチメントもチタン製である。ある時計メーカーの開発者が「これはやられた」と言ったほどの優れもの。

 水に潜る人ならば「オーシャンバンド」はよりお勧めだ。タフに使われることを考慮して、素材は柔らかいシリコーンではなく硬いフルオロエラストマー。また11個の穴があるため、細い腕に太い腕にも対応する。

 ベルトを固定する尾錠と遊革もケースに同じくチタン製だ。ストラップに差し込む遊革(チタニウムアジャスタブルループ)の位置を簡単に変えられるため、細腕の人がバンドを巻いても、先端が不格好に飛び出すことはない。もっとも、このバンドは普段使いにはやや過剰で、個人的には柔らかいシリコーン製のソロループを合わせている。

オーシャンバンド

硬いフルオロエラストマーラバーで成形されたオーシャンバンド。バックルとスプリングを内蔵した遊革はチタン製だ。チューブを通して固定される遊革は外れにくく、位置の変更も簡単なため、腕のサイズを問わず使える。ケースに固定するアタッチメント側にはスティール製のプレートが内蔵されており、ラフに使っても壊れにくい。なお写真は、遊革をねじって外れる状態にしたもの。


大きな画面。実は文字入力が裏メリット

 縦49mm、横44mmとかなり大きなUltra。しかし、結果として文字入力が使えるものになった。筆者はApple Watchの音声入力機能を多用しており、その性能には満足している。固有名詞の判別は弱いが、タッチパネルによる文字入力を併用すれば、かなり改善される。

 日本語による文字入力はApple Watch7から使用できたが、高いレベルで使えると感じたのは本作からだ。液晶の明度も高いため、文字が小さくても読み取りやすい。なお、現在のApple Watchは表示フォントのサイズを9段階で変えられる。

 45mmサイズのSeries 8かUltraであれば、最大にしてもギリギリ使えると感じた。ただし、表示されるフォントのサイズを変えても、液晶に表示されるキーボードの大きさは変わらない。

Apple Watch Ultra 画面

ケースは大きくなったが、液晶のサイズはSeries 8とほぼ同じ。Series 8の396x484ピクセル(1143平方ミリメートル)の表示領域)に対してUltraは410x502ピクセル(1185平方ミリメートル)だ。しかし、常時表示Retinaディスプレイの輝度が2倍の2000ニトになったため、強い太陽光の下でも液晶は読み取りやすくなった。アウトドアでの使用を意識したチューンだろう。タッチパネルによるキーボードはギリギリ入力可能。