『クロノス日本版』の編集部員がニバダ グレンヒェンの限定モデル「デプスマスター ピクセル アート」を好き勝手に論評する。アンダーンとのコラボレーションにより、1960年代の名作ダイバーズをポップに生まれ変わらせた同作。パックマンを連想させる見た目とは裏腹に、本格スペックを持った“時計にうるさい人”ほど関心する1本だった。遊び心を持ちながら、しっかりと作り込まれた時計が欲しい人にとってのベストバイだ。
阿形美子:文 Text by Yoshiko Agata
2023年3月16日掲載記事

ポップな見た目とは裏腹に、オタクが喜ぶ本格スペック
細田
今回着用した「デプスマスター・ピクセルアート」は、ニバダ グレンヒェンとアンダーンのコラボレーションモデルです。元々、デプスマスターはアラビア数字インデックスのフォントから“パックマン”と呼ばれてきたんですけど、今回、アンダーンとコラボして本当に“パックマン”モデルを作っちゃった(※)、というわけです。
※パックマン(=バンダイナムコ)との正式なコラボレーションではなく、あくまでパックマンからインスピレーションを受けたモデルとして販売
鈴木
インデックスはパックマンにさらに寄せてるんでしょ?

細田
いや、フォントは元々この形なんです。でも色を変え、加えてピクセルっぽい表現にしています。9時とか6時の数字がパックマンっぽいですよね。
土井
定番モデルのフォントはベージュっぽい色味です。

細田
一見するとネタっぽい時計ではあるんですが、実は1000m防水で、ソプロードの自動巻きを載せています。なのに、ケース厚は13.5mm、サイズも直径39mmということで、オタクがすごく喜びそうなスペック。その上、税込みで15万6200円なので、結構、ダイバーズとして買いなんじゃないかな、と思っています。
鈴木
これはもう、スペックから価格から結構無敵ですよね。オタクホイホイなうえに、パックマンも可愛いし。これは普通に買えるんだっけ?
広田
アンダーンのサイトから購入できます。もう発売されてますね。
細田
200本限定ですが、まだ売り切れてないですよ。
広田
これは買いだねぇ。
鈴木
ですねぇ。

自動巻き(Cal. Soprod P024)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SS+DLCケース(直径39mm、厚さ13.5mm)。1000m防水。世界限定200本。15万6200円(税込み)。
土井
この価格帯で同等のスペックのモデルを探してみましたが、やっぱり見つからなかったです。
細田
ケースのコーディングもPVDじゃなくてDLCで耐久性が高いし。バックルにもDLCされています。
広田
・鈴木
ちゃんとしてる!
鈴木
スペックが恐ろしくちゃんとしてるのに、パッと見はこんなに可愛いってスゴいよね。本格ダイバーって言っちゃっていいスペックなのに、遊び心いっぱい。
休眠から目覚めたニバダ グレンヒェンの魅力
広田
このニバダ グレンヒェンっていう会社は1879年に創業したんですけど、クォーツの普及によって休眠期間がありました。それを2019年にギョーム・ライデという若者が復活させたのが現在のブランドです。
広田
彼はエクセルシオパークの復興にも携わったりしていて、時計オタクでビジネスもデキるっていう男なんですね。彼も元々オタクだから、見るポイントは良いとこ突いています。
細田
ちなみにニバダ グレンヒェンは、基本的にはH°M'S" WatchStore(エイチエムエスウォッチストア)で購入できるんですけど、このモデルはアンダーンの公式サイトからでないと購入できません。

広田
アンダーンもカスタマイズ時計って面白いことをやっていますね。創始者のマイケル・ヤングと話したことがありますけど、良い男でした。
細田
彼も時計オタクで、クラウドファンディングのキャンプファイヤーでブランドを立ち上げたんですよね? そもそもはヴィンテージウォッチを最新の時計として手頃な価格で手に入れられるようにと始めたブランドなので、そういう意味でも親和性の高いコラボレーションかなとは思います。
広田
やっている内容は、昔のクロノスイスに近いですね。要は、ムーブメントは汎用のものを使って、面白いケースや文字盤を与えて、ユニークなものを手頃の値段で出す、と。クロノスイスは自社製ムーブメント路線に行っちゃいましたけど。
鈴木
うん、昔は手頃でしたもんね。ETA使ってね。
広田
それを今にやってくれているのがまた良いです。
蓄光はあくまでもデザイン重視か?
広田
そういう背景も独特ですが、プロダクトとして見ても、あんまり抜けがない。
細田
そうですね。まあ、強いて気になった点を挙げるなら、蓄光が全然光らないことくらいですかね。

鈴木
でも、結構あるあるだよね。意外と他のブランドでも光らないことあるし。
細田
蓄光塗料って、光らせる色とベースの色との掛け合わせによって光り方に差が出るから、きっと黄色いベースを緑に光らせるのはまだ難しいんだと思います。
土井
夜光の厚みがないのも、光りにくい理由かもしれないです。
広田
夜光をパンパンに入れちゃうと、ピクセルっぽさが失われそうですから。
細田
パックマンの見え方を重視したってことですよね。まぁ、本当に潜る用途なら、そもそも、ペゼルの目盛りに蓄光がないのは論外なので。そういう意味では、スゴいスペックは持っているけどネタに振り切ってます。
鈴木
陸ダイバーとしては十分ですよ。
1000m防水ながら、コンパクトかつ軽量なケース
細田
ヘッドとストラップとのバランスはどうでしたか? これは1000m防水にしては軽いですが。
広田
時計軽いは七難隠すだから、別に全然イケましたよね。

鈴木
ケース径も小さいから、全然気にならなかった。
細田
ダイバーズウォッチって、ひと昔前まで300m防水でもそこそこ分厚かったし、1000m防水となると20mm近いようなイメージでした。でもこれは13.5mmに仕上がっている。これってやっぱりケースの噛み合わせが良くなったからでしょうか。
広田
加工技術の進化が露骨に現れていると思います。
鈴木
ケースの切削とパッキンの改善の結果だよね。
広田
去年、タグ・ホイヤーが厚さ15.5mmの1000mダイバーを出してスゴいって言ってたのに、なぜかニバダ グレンヒェンがそれを上回ってくるっていう意外性(笑)。
