1963年の発売以降、その姿を大きく変えたセイコー5。68年の5スポーツとは、そんなコレクションを原点に返す試みと言えるだろう。1970年代には休止を余儀なくされた5スポーツだが、新しい自動巻きのCal.4Rにより、2011年にはリバイバル。19年のリブランディングにより、若者向けのデイリーウォッチとしての立ち位置を取り戻した。

セイコー 5スポーツ

星武志:写真
Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
広田雅将(本誌):文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2025年9月号掲載記事]


スポーツマチック 5から5スポーツへ
~デイリースポーツの原点に立つドメスティックスタンダード~

1970年発行のパンフレット

これは1970年発行のパンフレット。左側には、世界初の自動巻きクロノグラフである「5スポーツ スピードタイマー」が掲載されている。当初、マリンスポーツを意識していた本コレクションは、翌年以降、モータリゼーションやレジャーを意識したものに変容した。

 1950年代に総合時計メーカーとしての地歩を固めたセイコーは、続いて若い世代向けに「スポーツコレクション」を展開するようになった。以下列記してみたい。59年の「スポーツレディ」、60年の「スポーツマン」、61年の「スポーツマン・セブンティーン」と「スポーツレディ・セブンティーン」、そして62年の「スポーツマチック」。そしてその集大成が63年9月発表の通称「セイコー5」こと「スポーツマチック 5」(諏訪精工舎製)だった。セイコーは同年発表の高級版である「セイコーマチック」(諏訪精工舎製)と若者向けの本コレクションで、ラインナップの全面的な刷新を図ったのである。

 いわば社運を委ねられたセイコー5。そのユニークな名前の由来を「SEIKO NEWS No.63」では次のように記している。

  1. 高性能な自動巻き
  2. 優れた防水性
  3. 日付と曜日がひと目でわかるカレンダー装置
  4. 男性的魅力にあふれたデザイン
  5. 合理的に使用された21石

 もっとも諸説あるが、後に5の意味は次のようにも言われるようになった。

  1. 自動巻き
  2. 防水
  3. カレンダー
  4. 日付・曜日
  5. 優れたデザイン

 大きく変わった理由は、64年5月に第二精工舎製の「スポーツマチック 5 デラックス 23石」が加わったためだろう。もっとも、名付け親である田中廉はファイブという名前はダイナミックだから良い、という理由で採用したようだ。

セイコー5

これは非常に興味深いモデル。文字盤に「SPORTS」というロゴがないことが示すように、これは5スポーツではなく、セイコー5である。しかしユニークな形状のケースや70m防水などは、後の5スポーツを先取っている。2025年発表のSBSA313の祖となったモデル。参考商品。

 命名の由来はさておき、モダンな腕時計に必須の要素を高い水準で盛り込み、しかも8000円(レザーストラップ付き)からという戦略的かつ野心的な価格を実現したスポーツマチック 5は、まさに当時の人々が求めるものだった。これは海外も例外ではなく、65年以降、スポーツマチック 5の海外版は急増するようになった。66年の輸出数は、スイス全体が製造する自動巻き腕時計の総数を上回ったとされるから、セイコー5は想像以上の広がりを見せたのである。

 成功の理由は、言うまでもなく時計としての完成度が高かったためである。1959年、セイコーは諏訪精工舎のマジックレバー自動巻きにより、価格を抑えた自動巻きモデルの商品化に成功。加えて、田中太郎が主導して導入されたSEIKO外装ミリ規格により、セイコーはきちんとした防水ケースを持てるようになった。ちなみにこれ以前、セイコーが外装設計に採用していたのは、1リーニュ=2.256mmという単位だった。そのためミリ単位で設計していた外装では厳密に寸法を追い込めないという問題が生じた。対して田中は外装の規格をリーニュからミリに改めることでケース設計を一躍モダンなものとしたのである。その集大成と言うべきスポーツマチック 5を彼はこう記す。「無駄なすき間をぎりぎりまで詰めた寸法規格と、ちょうどその頃開発されたテンションリング方式(有機ガラスの内側に細いリングを入れ、樽の箍のようにケースとの間でガラスを締め付けて入水を防ぐ方式)のガラス構造のおかげで、それまでにないスマートな防水自動巻きデイデイト腕時計がまとまりました」(『国際時計通信』1996年2月号)。

初代5スポーツ 復刻デザイン限定モデル SBSA223

初代5スポーツ 復刻デザイン限定モデル SBSA223
ブランド誕生55周年を祝う、5スポーツの復刻版。直径39.5mmもオリジナルに同様だ。自動巻き(Cal.4R36)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約41時間。SSケース(直径39.5mm、厚さ12.5mm)。10気圧防水。世界限定1万5555本(うち国内1300本)。4万9500円(税込み)。

 テンションリングで防水を持たせる仕組みはオメガが採用したものだったが、セイコーはこの新機構を、63年以降の新作に採用し、ケースの気密性をさらに高めた。廉価版のためか、防水性能はセイコーが定義するところの実用防水(WP、10m相当)しかなかったが、当時の使い方では十分だった。

 デザインにも工夫が凝らされた。諏訪精工舎からセイコーに送られた新しい自動巻きムーブメントは、そもそも日付表示が3時位置に、そして曜日表示が6時位置にあった。対して田中太郎は、日付と曜日を一列に揃えるレイアウトを考案し、文字盤をシンプルにまとめ上げた。またこの新しい表示は、セイコー5に大きな未来を拓いた。デザイナーの田中は、このレイアウトを生かして、やがて2カ国語の曜日表示を実現したのである。

5スポーツ SKXシリーズ ヘリテージデザイン復刻 限定モデル SBSA311

5スポーツ SKXシリーズ ヘリテージデザイン復刻 限定モデル SBSA311
通称“ジーン・クランツ”と呼ばれたシルバー文字盤のモデル。モチーフとなったのは110ページのセイコー5だ。ボックス型のデュアルハードレックスガラスを採用し、10気圧防水を実現した。内容を考えると価格は驚異的だ。基本スペックは右モデルに同じ。SSケース(直径38.2mm、厚さ12.3mm)。世界限定9999本(うち国内1000本)。5万9400円(税込み)。

 そもそも、若者向けの時計として企画されたセイコー5。しかし、セイコーの輸出する時計の大半が5となった結果、自ずとコレクションの在り方は変わっていった。諏訪精工舎と第二精工舎というふたつの製造拠点を有するセイコーは、そもそもモデル数が増えがちなうえ、この時代に顕著だった高級化と、海外での大ヒットは変容に拍車をかけた。ではいかにして、このコレクションが広がっていったかを見ていきたい。

  • スポーツマチック 5 21石(63年9月発売:諏訪精工舎製)
  • スポーツマチック 5 デラックス 23石(64年5月発売:第二精工舎製)。プッシュボタンによる日付修正を採用。65年7月には76系キャリバーに変更
  • 新スポーツマチック 5(64年12月発売:諏訪精工舎製)。リュウズのプッシュによる日付修正を採用
  • スポーツマチック 5 デラックス 25石(66年8月発売:亀戸精工舎製)
  • ニュー5 デラックス 25石(67年7月発売:諏訪精工舎製)
  • ニュー5 デラックス 23石(67年7月発売:第二精工舎製)。いずれもリュウズのプッシュによる日付の早送りと、時針の2時間戻しによる曜日修正を採用
  • ニュー5 21石(67年10月発売:諏訪精工舎製)。石数を減らした廉価版
  • ニュー5 デラックス 27石(67年11月発売:第二精工舎製)。ニュー5の高級版
  • 5 アクタス(69年11月発売:諏訪精工舎、第二精工舎製)。リュウズの上下回転による曜日の修正と、曜日和英の切り替えを採用。ファイブの名前が付いた最終版

 わずか数年の間に一大勢力となったセイコー5。それを実現したのは、諏訪精工舎と第二精工舎のつば迫り合いだった。もっとも海外でもヒットした結果、セイコー5は保守化を余儀なくされたように思える。セイコー製の時計=セイコー5となれば、高価格版も作らざるを得ないし、上位機種を彷彿とさせるデザインの採用は当然だろう。対してセイコーは、若者向けという立ち位置を取り戻すべく、5 スポーツという新しいコレクションを打ち出したのではないか。事実、69年6月の『SEIKOセールス』には次のような記述がある。「最近のモータリゼーションの普及やレジャーブームは若い男性の行動半径をいっそう広くし、若者に冒険やスピードへのあこがれを、ますますいだかせています」「ファイブスポーツは、その購入客の70%以上が25歳以下の男性です」。若い男性を意識すべく、デザインは大きく改められた。スポーティーな回転リングや、あえて丸型ではないケースにカラフルな文字盤は、今までのファイブにはないものだった。加えて、マリンスポーツにも対応すべく防水性能は70mに引き上げられ、69年5月には、世界初の垂直クラッチ付き自動巻きクロノグラフモデルである「スピードタイマー」も追加された(これも70mの防水性能があった)。

セイコー5 SNXS77K1

セイコー5 SNXS77K1
5 スポーツの強みは、過去の膨大なアーカイブを使える点にある。これは、セイコー5のロングセラーであるSNXSシリーズ。セイコー5らしいラグと一体化されたケースとコンパクトなサイズを特徴とする。後にこのデザインは、2024年のSNXSシリーズでベースとされた。

 振り切ったデザインの背景を、『SEIKOセールス』はこう記す。「5スポーツを買われたお客様を調べてみますと、かなりの人が買い増し商品として購入されています。また、買い換え商品として買われたお客様の場合でも、買い換えのサイクルが極めて短い(約3年)のが特徴です」。つまりセイコーは商品サイクルが短いという前提で、全く新しいデザインを採用したわけだ。もっとも、5スポーツの寿命は長くはなかった。70年代以降、セイコーはクォーツに注力。それに伴い自動巻きのファイブは、海外向けの廉価版と位置付けられるようになったのである。

 この5スポーツが復活を遂げたのは98年のことである。搭載するのはセイコー5に同じ7Sキャリバーで、デザインも69年版の忠実な再現だった。もっとも5スポーツの本格的なリバイバルは、2011年を待たねばならない。

 従来までのセイコー5が採用してきたのは、基本設計を第二精工舎の70系にさかのぼる7Sキャリバーである。これは堅牢だが、手巻きを省いた、あくまでも廉価版の自動巻きだった。しかし機械式時計に注力するセイコーは、2011年に秒針停止機能を備えた手巻き付き自動巻きムーブメントの4Rをリリース。プレザージュなどが載せる高級版の6Rと、7Sの中間にあるこのムーブメントは、ミドルレンジの機械式時計にはうってつけだった。同年にはこのムーブメントを載せた5スポーツがリリース。19年の9月には、5スポーツがグローバルブランドにリニューアルされた。

5スポーツ フィールドシリーズ SBSC011、5スポーツ SKXシリーズ SBSC003

(右)5スポーツ フィールドシリーズ SBSC011
5スポーツの柱のひとつがフィールドシリーズである。新作は5スポーツのアイコンとなったGMT機能を搭載する。エンボスで立体感を持たせた文字盤は、金属文字盤に非凡なノウハウを持つセイコーならではだ。SSケース(直径39.4mm、厚さ13.6mm)。5万7200円(税込み)。
(左)5スポーツ SKXシリーズ SBSC003
こちらは大ヒット作のSKXシリーズに加わったGMT版。右モデルに同じく、インデックスはアプライドではなく、なんとエンボス仕上げ。文字盤の質感は、この価格帯とは思えないほど良好だ。加えて太い針を合わせて視認性を高めている。GMTウォッチながら、この価格は驚異的だ。SSケース(直径42.5mm、厚さ13.6mm)。6万6000円(税込み)。

 5スポーツがアイコンとなったのは、これ以降のことである。松榮純平が参画したプロジェクトチームは「若者のカルチャーを機械式時計を通じて体現する」というコンセプトをプロダクトで表現した。まずデザインソースに選ばれたのは、当時カルト的な人気を集めていた、ダイバーズウォッチのSKX。1978年からほぼデザインを変えていない本作は、新しい5スポーツにヒストリーという裏付けを与えるにはうってつけだった。その一方で、厳しい基準が要求されるダイバーズウォッチという枠組みから離れることで、デザインに幅を持たせることに成功した。合わせて、「5」の定義も改められた。新しい5を構成するのは「スポーツスタイル」「ストリートスタイル」「スーツスタイル」「スペシャリストスタイル」「センススタイル」という5つのS。加えて、セイコーがデザインに注力するようになった結果、デザイナーたちは5スポーツという素材を自在に扱えるようになった。

 またプロジェクトチームは、採算性も考慮した。ムーブメントに採用されたのは自動巻きの4Rのみ。さらにケースのバリエーションを減らすことで製造コストを抑えることに成功した。ちなみに1998年のリバイバル時に、セイコーは3つの形で9つのモデルを作った。一方、新しい5スポーツは、ひとつの形でなんと約200ものリファレンスを展開する。これは60年代の5スポーツとは真逆の在り方だった。

セイコーダイバー SKX007K2

セイコーダイバー SKX007K2
5 スポーツのデザインモチーフとなったのが、1978年にリリースされたダイバーズウォッチのSKXだ。これは1990年代から2000年代にかけて製造された007K2。5 スポーツのSKXシリーズは、このモデルの後継機にあたる。自動巻き(Cal.7S26)。参考商品。

 うまいのはバリエーションの持たせ方だ。セイコーは、お得意の金属文字盤に工夫を凝らすことで、同じように見えがちな時計の表情をさまざまに変えてみせた。幸いにも、セイコーとそのサプライヤーは金属文字盤の扱いに非凡なノウハウを持っており、さまざまな文字盤を作ることができた。加えて、セイコーの豊富なアーカイブが、ラインナップをいっそう充実させた。「歴史の長いブランドの特性を活かし、全く新しいデザインだけで挑んでいたら、今日の成功はなかっただろう」と松榮は推測している。

 若い世代でも買える価格で良質な機械式時計を作る、というプロジェクトチームの狙いは予想外の成功を収め、そのヒットはさまざまなコラボレーションの呼び水となった。「5スポーツのコラボレーションではいろいろやれる」という評価が定まるにつれて、プロジェクトには多くのデザイナーたちが加わるようになり、ホンダの「カブ限定」や「ブライアン・メイ限定」といったユニークな限定版が増えていったのである。もっとも、枠を広げられたのも、モノとしての良さと、できるだけ価格を抑えるという企業努力がもたらしたものだった。



Contact info:セイコーウオッチお客様相談室 Tel.0120-061-012


セイコーの「5スポーツ SKX」38mmモデルに新バリエーションが登場

FEATURES

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