ブライトリング/クロノマット

FEATUREアイコニックピースの肖像
2019.06.01

クロノマット・エボリューション

デザイナー、エディ・ショッフェルによる「クロノマット・エボリューション」のデザイン画。湾曲したラグや、フラットになったパイロット・ブレスレット、より丸みを帯びたケースなどのディテールが見て取れる。

リファレンスに見る、クロノマット小史

生産期間が長いだけでなく、豊富なサブ・バリエーションで知られるクロノマット。世界各国にクロノマットのコレクターが存在するのも納得だが、反面その全容はつかみにくい。そこで、主な8つのリファレンスに絞り、バリエーションと進化を大まかに整理してみたい。そこから見え隠れするのは、クロノマットの絶えざる「進化」である。

クロノマット

1942年の「クロノマット」。「“MAT”hematics(数学)」という名称の通り、世界初の回転計算尺付きクロノグラフであった。この広告にも「計算尺付きクロノグラフ」とある。その名称を受け継いだのが、現行モデルである。

 クロノマットの進化は、まず外装に始まり、続いてムーブメントに及んだ、と言える。クロノマット 44までの8つのリファレンスから、内外装の変化を、年を追ってたどってみよう。

 ●Ref.81950。1984~90年。最初期型は裏蓋に「アエルマッキMB339A」のモチーフと、ブライトリングロゴがある。また12時位置の夜光が、ミリタリーウォッチ風の3点表示であった。新しいロゴを持つモデルは、インダイアルが拡大し、夜光表示も異なる。86年にコンビモデルが「ビコロ」となる。ただしゴールド部分は20ミクロンのメッキ。なお同年まで、クロノマットはナビタイマーに分類されていた。

 ●Ref.13047。90~93年。スペックは前作に同じ。スチールモデルにはA、ビコロにはB、18KケースにはKの頭文字が付く。92年以降、両面無反射風防を採用。また92年モデル以降は、ライダータブが18K製となる。

 ●Ref.13048。93~94年。クロノグラフ針の端末に〝B〟ロゴが追加(13047以降との説もあり)。加えて文字盤に「1884」の文字が加わった。ここまでが第1世代と言ってよい。

 ●Ref.13050。94~99年。10周年記念モデル。これ以降、ギョーシェやラップ研磨といった試みが文字盤に取り入れられた。外観上の違いは、文字盤の見返しに「タキメーター表示」が追加され、カレンダー表示が拡大、ロゴが18K製のアプライドに変更された点である。ライダータブの夜光も拡大した。ムーブメントも17石のETA7750から、25石のブライトリングキャリバー13(ETA7750ベース)に変更された。また90年代半ば以降、エディ・ショッフェルの手がけたパイロット・ブレスレットが採用された。外観とムーブメントに大きく手の加わったRef.13050が、クロノマットの第2世代にあたると言えよう。

 ●Ref.13350。99~2000年。裏ブタがラウンドから多角形状に改められた。ラグ裏側の切り欠きが、ケースサイドに及んでいるのが、13050との違い(それ以前にもあったがすべてではなかった)。また、B13350とK13350は、クロノメーター仕様のキャリバー13を搭載していた。筆者の認識を言えば、ブライトリングが真に高品質なクロノグラフを作るようになった(それ以前も良質で堅牢な製品を作っていたが)のは13350以降である。少なくとも外装の質感は、それ以前と大きく異なる。

フレッチェ・トリコローリ

ブライトリングの手がけた、1983年の「フレッチェ・トリコローリ」。10Gの加重に耐えられるという条件をクリアし、20Gの耐衝撃性能を誇った。翌年のカタログモデルとは、カレンダー窓とインダイアルのサイズ、そしてケースの仕上げが異なる。

 ●Ref.13352。00~04年。「クロノマット2000」。以降、すべてクロノメーター規格をクリアしたキャリバー13を搭載する。なお2002年には、初めて「ブラックバード」が固有のリファレンスを与えられた。

防水性を高める、セキュリティ・プッシュボタン。ねじ込むと2枚のガスケットが圧縮される。

ケース鍛造のプロセス。「クロノマット44」では、合計15回、延べ875トンの圧力で鍛造されている。

アーネスト・シュナイダーによる、1982年前後のデザイン画。あえて低く埋め込んだ風防(パッキンと見返しで保持されている)や、直線状のラグ、取り外し可能なライダータブなど、大きな特徴はすでに完成していた。

エディ・ショッフェルの手がけた「新しいブレスレット」の実寸図。右上の日付には90年とある。翌年、クロノマットは「パイロット・ブレスレット」を採用。以降、このクロノグラフには欠かせないアクセントとなる。

 ●Ref.13353。ケース径も39.8㎜と、通常モデルより若干大きい(02~04年)。これが直径39㎜サイズの最終型であり、大きく分けると、第3世代になる。内外装共にバランスが取れたのは、クロノマット2000以降である。

 ●Ref.13356(後に156)。04~11年。「クロノマット・エボリューション」。ケース径が43.7㎜に拡大されたほか、ラグが下方に延びている。またベゼルも若干太くなった。キャリバー13を搭載。プッシュボタンの改良により防水性能は300m防水(ステンレスモデル)に向上した。この13356はキャリバー13を搭載する最終型である。残念ながら11年に製造中止に。

 ●Ref.B0110(現011)。09年~。「クロノマット 44」。自社開発のキャリバー01を搭載。500m防水(ステンレスモデルのみ)。ビコロやコンビのゴールド部分は、無垢を採用。

 ではクロノマットの進化に伴い、ムーブメントはどう変化していったのか。次ページで見ることにしよう。