IWC/インヂュニア

FEATUREアイコニックピースの肖像
2020.03.03

INGENIEUR AUTOMATIC Ref.3239 [2013]
薄型ケースを採用する最新耐磁モデル

インヂュニア・オートマティック

インヂュニア・オートマティック Ref.323906
2013年初出。薄型のCal.30110は、ETA2892-A2をIWCが全面改良したもの。その高精度と信頼性には定評がある。このムーブメントを搭載したのが、新しいインヂュニア・オートマティック。精密に加工されたケースやブレスレットを含めて、完成度は非常に高い。ケース厚が10mmに留まったのも魅力だ。自動巻き。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS(直径40mm)。12気圧防水。63万5000円。

 2013年に全面リニューアルされたインヂュニア。そのデザインは、やはり1976年の「インヂュニアSL」を踏襲している。しかし細部を見ると、デザイナーであるクリスチャン・クヌープ氏は、オリジナルを研究したことが分かる。大きくはケース上面の処理である。薄いムーブメントを載せたこともあって、SL以降のインヂュニアは、ケースの上面を平たく成形していた。対して、新しいインヂュニアはラグに向かって落ち込むケースを復活させている。インヂュニアSLの場合、これは厚みを感じさせないための手法であった。しかし、新しいインヂュニアでは、立体感を加えるアプローチとして採用している。加えてブレスレットとのリンク部は一段かさ上げされ、時計の立体感をさらに増している。

 こういった手法を採用できた背景には、ケース製法の進化がある。オリジナルのインヂュニアSLは、ケースがプレス成形であった。側面は立体化できないが、上面は斜めに加工しやすい。しかしそれ以降、IWCはケースの製法を切削に改めている。切削は立体感を与えるのに適しているが、多軸のCNCが必要となる。新しいインヂュニアの立体的な造形は、つまりIWCのケース内製化がもたらしたものといえるだろう。もうひとつ、このモデルには大きな特徴がある。優れた視認性だ。強大なトルクを持つキャリバー8541を載せながら、インヂュニアSLの針は細かった。対してこのモデルは、30110の強いトルクを活かし、太い針を駆動している。またこのモデルでは、文字盤に埋没しないよう、針とインデックスにゴールドを使用する。

 立体的な造形と実用性を併せ持ったインヂュニア・オートマティック。このモデルは装着感を含めて(これは往年のジャガー・ルクルト搭載機にも勝る美点だ)、歴代インヂュニアで最も優れたもののひとつとなった。

インヂュニア・オートマティック

(左上)立体的なリュウズとリュウズガード。198〜199ページの写真をご覧いただければ分かるように、リュウズ先端の形状は1976年のインヂュニアSLを思わせる。(右上)立体的に成形されたベゼルとインデックス。シルバーダイアルには、この他に銀色のインデックスもある。前モデルのRef.3227では、ダイヤカットしたインデックスがダイアルに埋没気味だった。新作では、どのカラーを選んでも、インデックスが明確に判別できる。蓄光塗料を配した通称“炉端焼き秒針”も、往年のインヂュニア(Ref.866/1808)と同ディテールだ。(中)立体的なプロファイル。ラグ方向に向かって落ちるケース形状が見て取れる。バックケースをフラットに成形し、かつミドルケースの位置を下げることで、装着感は大きく改善された。なおケース厚は10mmしかない。(左下)オリジナル同様、5つの穴を持つベゼル。途中に“タメ”を設けることで、正面から見た際にベゼル幅を感じさせない。なお、2013年のインヂュニアからIWCのロゴに小変更が加えられた。シャフハウゼンのフォントが変わり、そのサイズも小さくなっている。(右下)フラットなバックケース。刻印はエッチングによるもの。しかしパイロット・ウォッチなどに比べると、かなり深くなった。個人的には歓迎すべき改良点である。