カルティエ/サントス

FEATUREアイコニックピースの肖像
2020.09.10

SANTOS-DUMONT
デュモンの名を冠したノンベゼルのアプローチ

サントス-デュモンLM

サントス-デュモンLM
サントスをドレスウォッチに仕立て直したのが本作。オリジナルのデザイン性を保ちつつも、きちんと薄型のドレスウォッチとなっている。手巻き(Cal.430MC)。18石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KPG(縦44.6×横34.6mm)。日常生活防水。198万円。

 腕時計のみならず、スポーツウォッチの嚆矢でもあった、サントス リストウォッチ。しかしこの時計は、シチュエーションを選ばず使える時計の先駆けでもあった。この時計を使うことになるサントス-デュモンの暮らしを考えると、それは当然だったろう。飛行中、コーヒーを飲むために緊急着陸をするほどの伊達男が、〝野蛮〟な時計を好むはずがない。懐中時計への不満を、サンシールの飛行場ではなく、パリのマキシム・ド・パリで聞いたルイ・カルティエは、彼の時計に、実用的だが、同時にエレガントなデザインを与えようと試みた。そしてその努力は、サントスの熱狂的な愛用で報われることになったのである。

 サントス リストウォッチの持つエレガントな側面を強調したのが、伊達男の名を冠した「サントス-デュモン」である。特徴であるビス留めのベゼルは廃され、ケースはシンプルなツーピースに改められた。もっともカルティエの愛好家ならば、この原型が女性用の「サントス ドゥモワゼル」であることに気づくだろう。2005年初出のドゥモワゼルは、サントスのデザインをより純化させる初の試みだったと言ってよい。

 このデザインを踏襲し、薄型に仕立て上げたのが男性用のサントス-デュモンである。ケース厚さはわずか5.58ミリ。加えて筋目処理とロジウム仕上げが施された文字盤は、この時計のドレスウォッチ然とした印象をより強調する。また針も青ではなく、黒く酸化させたスティールだ。

 ドレスウォッチを構成するディテールで仕立て直されたサントス。かの伊達男、サントス-デュモンが今にありせば、彼は間違いなくこの時計を腕に巻いて、飛行機やレストランの座席に収まったはずだ。一見らしからぬ時計に、あえてサントス-デュモンと命名したセンスには脱帽させられる。

サントス-デュモンLM

(左上)ベゼルを廃したケース。上面を鏡面仕上げに、側面を筋目仕上げにするのはサントスの伝統だ。写真が示すように、ガラス面を少し盛り上げることで、ベゼルに傷が付きにくくなっている。(右上)現在のドレスウォッチではポピュラーな筋目仕上げのロジウム文字盤。カルティエとしては極めて珍しい試みだ。剣型の針も、やはりドレスウォッチの伝統に倣って、黒く酸化処理されている。(中)薄くされたケース。ベゼルを省いたツーピース構造が見て取れる。またラグも既存のサントスに比べると相対的に長い。これもまたドレスウォッチらしさの演出には欠かせない要素だ。(左下)ケースサイドとリュウズ。深く切り込みを入れることで、ケース自体をリュウズガードにしている。オリジナルの造形を生かしつつも、スポーティさを盛り込もうとした試みか。サファイアのカボションカットが示すように、リュウズの仕上げも大変に良い。細かい刻みは入っていないが、珍しい7角形のシェイプは意外に指のかかりも良い。(右下)ケースサイドとラグ。322ページのサントス ドゥ カルティエ ガルベに比べると、明らかにラグが長くなっている。このモデルも、ケースの仕上げは優秀だ。強い筋目をむらなく均一に入れるのが、現在のカルティエの特徴である。