セイコー/セイコーダイバー

FEATUREアイコニックピースの肖像
2020.11.25

半世紀にわたる進化の集大成
[最新ダイバーズ7選]

1986年の「SSBS018」でひと通りの完成をみたセイコーの飽和潜水用ダイバーズウォッチ。しかし“150mダイバー”の発表から半世紀を経た2015年、多くのモデルにいっそうの改良が加えられた。変更点は残光時間を約60%増したルミブライト、装着感に優れる強化シリコン製のバンド、外装の硬化処理などだ。

プロスペックス マリーンマスター プロフェッショナル メカニカル 1000m 飽和潜水用防水モデル SBDX014
いわば「SSBS018」のメカニカル版。IP処理の技術が進んだ結果、華やかなピンクゴールドカラーも実現可能になった。質感は極めて良好だ。自動巻き(Cal.8L35)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。Ti×セラミックス(縦53.5×横52.4mm)。1000m防水。35万円。

 現在、マリーンマスター プロフェッショナルの流れは、大きくふたつに分かれる。ひとつは1975年の600mダイバーを継承するもの、もうひとつは68年の300mダイバーの後継機だ。両者の違いは性能というよりも、用途とデザインによる。両者ともに飽和潜水仕様でありながら、後者は特に使い勝手を重視したものだ。

 これまで述べてきた通り、セイコーダイバーの開発を推し進めたのは、主にセイコーエプソンであった。しかし80年代以降、主に外装の開発に当たって、セイコーインスツル(SII)との共同作業も増えていった。ケースへのIP処理では、後に両社は歩みを同じくするに至ったし、セイコーエプソンと京セラが共同開発したジルコニアセラミックス製の外胴も機械式モデルに採用された。つまり、セイコーダイバーのノウハウは、セイコー全体に共有されたと見なしてよい。エプソンのお家芸というべきダイバーズウォッチの技術が、なぜSII製の機械式ダイバーズウォッチに搭載されたのかはこれで理解できるだろう。

プロスペックス マリーンマスター プロフェッショナル メカニカル 300m 飽和潜水用防水モデル SBDX017
2000年に発表された「SBDX001」の後継機。違いは外装へのダイヤシールド処理、残光時間が伸びたルミブライト、強化シリコン製のバンドなど。自動巻き(Cal.8L35)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SS(直径44.3mm)。300m防水。27万円。

プロスペックス マリーンマスター プロフェッショナル スプリングドライブ 600m 飽和潜水用防水モデル SBDB013
2014年発表の「SBDB009」に小改良を加えたモデル。DLCコーティングの外胴、残光時間が伸びたルミブライト、強化シリコン製のバンドを持つ。自動巻きスプリングドライブ(Cal. 5R66)。30石。パワーリザーブ約72時間。Ti(縦49.6mm×横50.7mm)。600m防水。38万円。

 ちなみにセイコーは、こうした一連のダイバーズウォッチを、あくまでプロフェッショナルユース向けと見なしてきた。これは飽和潜水対応のモデルだけでなく、より普通に使える、空気潜水対応モデルでも同様であった。しかしコレクターたちは、やがてセイコーのダイバーズウォッチに熱狂するようになってゆく。時計ジャーナリストのクリス・ホールは次のように記している。

 「極めて重要なことに、600mダイバーは初めてニックネームをつけられた(筆者注〝ツナ缶〟)セイコーのダイバーズウォッチであった。それはカルトなコレクターズアイテムの本当の証しである」

 この〝ツナ缶〟以降、コレクターたちはこぞってセイコーダイバーにニックネームをつけるようになった。「オレンジモンスター」「ダースベイダー」「スモウ」などである。ホールの言葉を借りるならば、「1990年代から2000年代以降、セイコーのダイバーズウォッチは、機能的なツールからカルトなコレクターズアイテムへと変容した」のである。人気の多くは、安価な空気潜水対応のモデルに集中していたが、1990年代以降、セイコーダイバーズを見る市場の目が大きく変わったことは事実だった。

プロスペックス マリーンマスター プロフェッショナル クオーツ 300m 飽和潜水用防水モデル SBBN031
300m飽和潜水仕様とすることで、薄くて小振りなスリーピースケースを持つ「SBBN031」。1991年に発表された「SBBN007」を始祖とする。ダイヤシールド、残光時間が伸びたルミブライト付き。クォーツ。5石。SS(直径47.7mm)。300m防水。14万円。

プロスペックス マリーンマスター プロフェッショナル スプリングドライブ 600m 飽和潜水用防水モデル SBDB011
300mダイバーのデザインを模したモデル。「SBDB001」(2005年初出)の後継機として2015年に発表された。改良点は上記SBDX017に準じる。自動巻きスプリングドライブ(Cal.5R66)。30石。パワーリザーブ約72時間。Ti(直径46mm)。600m防水。47万円。

 以降セイコーは、ダイバーズウォッチの質感を高めようと試みた。その好例が2000年以降の各モデルだろう。外装にはダイバーズウォッチの水準を超える部品が与えられ、高級時計と言って遜色ない程度の仕上がりを持つに至った。またスプリングドライブや、8Lメカニカルといった高価なムーブメントも搭載されるようになったのである。

 もっとも市民権を得た後も、パフォーマンスを妥協しなかったのはいかにもセイコーである。15年にマリーンマスター プロフェッショナルの多くがモデルチェンジを受けた。その改良点は、見た目よりも、たとえば残光時間の長いルミブライトに、ダイヤシールドと呼ばれる硬化処理を施した外装、そしてソフトな肌触りと高い耐久性を両立した強化シリコンバンドなど、実用性を高めるものばかりだったのである。

プロスペックス マリーンマスター プロフェッショナル クオーツ 1000m 飽和潜水用防水モデル SBBN027
2015年初出。“600mダイバー”(SSBS018とSBBN011)の直系が、チタン製の内胴とセラミックス製の外胴を持つ「SBBN025」。その色違いが本作だ。名機7C46を搭載する。クォーツ。7石。電池寿命5年。IP処理Ti×セラミックス(直径49.4mm)。1000m防水。22万円。

プロスペックス マリーンマスター プロフェッショナル クオーツ 300m 飽和潜水用防水モデル SBBN035
2015年初出。「SBBN031」をシリコンバンドに替え、全体をオールブラックにしたモデル。厚みが14.7mm、重さも125gしかないため、飽和潜水用ダイバーズウォッチの中では最も取り回しに優れている。基本スペックは上記「SBBN031」に同じ。14万円。

 かつて、セイコーのダイバーズウォッチは知る人ぞ知る存在だった。しかしその優れた性能は、ダイバーズウォッチの国際規格に影響を与えただけでなく、やがて愛好家の注目をも集めるようになる。

 形状を大きく変えず、年々性能を高め、そして今や、コレクターズアイテムになったセイコーダイバー。これこそ、セイコーというよりも、日本を代表するアイコンウォッチのひとつと言って過言ではないだろう。



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