ブランパン/フィフティ ファゾムス

FEATUREアイコニックピースの肖像
2021.05.29

FIFTY FATHOMS BATHYSCAPHE[2013]
グループの総力を結集させた最新鋭機

フィフティ ファゾムス バチスカーフ

フィフティ ファゾムス バチスカーフ
ダイバーズウォッチの枠を超えた、スポーツアクティビティウォッチ。ケースを小径化し、インナーケースを省いた結果、汎用性はより増した。自動巻き(Cal.1315)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約5日間。SS(直径43mm)。300m防水。111万2400円。

 プロ向けのダイバーズウォッチとしてリリースされたフィフティ ファゾムス。そのバリエーションとして1956年に発表されたモデルが「バチスカーフ」だった。名前の由来は、フィスターの知り合いであるオーギュスト・ピカールが開発した潜水艇。しかしフィスターはこのモデルを、ハードなダイバーズウォッチというより、スポーツアクティビティ全般に使える時計と見なしていた。そのため直径は42㎜ではなく、より小ぶりな37㎜とされた。

 フィフティ ファゾムスのリバイバルとその成功を受け、ブランパンは〝スポーツアクティビティモデル〟の復活も企図した。それが2013年に発表された「バチスカーフ」だ。ケースはスティールまたはチタン製で、ムーブメントは同じく1315。しかし耐磁性をもたらす軟鉄製のインナーケースを省いた結果、ケース厚は15.5㎜から13.4㎜と薄くなったほか、ケースの直径も43㎜に縮小された。

 加えてこのモデルには、革新的な技術がいくつか転用された。まずは、ムーブメントの1315。基本スペックは従来に同じだが、ヒゲゼンマイが標準的なニヴァロックス製からシリコン製に置き換わった結果、軟鉄製の耐磁ケースなしでも、比較的高い耐磁性能を持つようになった。またベゼル表面の素材は、サファイアクリスタルから、リキッドメタルを象眼したセラミックスに変更された。

 リリース当初、筆者は本作を「リーズナブルなダイバーズウォッチ」と称した。しかし薄いケースと、充実した内容を考えれば、これはスポーツアクティビティ全般に使える、バチスカーフの原点に立ち返ったモデルといえるだろう。もちろん、現行フィフティ ファゾムスが持つ優れた外装は、このモデルもやはり例外ではない。強い下地処理が施された文字盤や、適度にエッジの立ったケースは、この時計の大きな魅力といえるだろう。

フィフティ ファゾムス バチスカーフ

(右上)現行バチスカーフには、スウォッチ グループの外装技術が惜しみなく投入された。一例が、リキッドメタルを象眼したセラミックス製のベゼルだ。ジルコニウム、チタン、銅、ニッケル、ベリリウムで構成されるリキッドメタルは、加工が容易なうえ、冷却するとステンレスの3倍以上の硬度を誇る。そのため擦過傷が付きにくい。(左上)全面に筋目仕上げが施された、クリーンな文字盤。普通は、筋目を加えると視認性が悪化するが、時分針を太くすることで視認性を確保した。極めて長い秒針にも注目。デザイン上の継承性はないように思えるが、ダイヤモンドカットされた針とインデックスは、1956年にリリースされたバチスカーフのファーストモデルを思わせる。(中)ケースサイド。直径が43mmに抑えられた結果、ケースサイドの張り出しも抑制された。また、フィフティ ファゾムスの特徴である、短く切ったラグにより、装着感は快適だ。(右下)リュウズガードが省かれたケースサイド。写真が示す通り、極めてエッジの立った造形を持つ。リリース当初のモデルはケースの角が立ちすぎていたが、現行品は少し丸められ、肌当たりが改善された印象を受ける。(左下)トランスパレントバックに変更されたケースバック。併せて軟鉄製の耐磁ケースが省略された。にもかかわらず“ANTIMAGNETIC”を謳える理由は、ヒゲゼンマイが非磁性のシリコン素材に置き換わったため。普段使いを強調するためか、ストラップの固定方法は、六角ネジではなく、オーソドックスなバネ棒に改められた。