レインボーも加わった! パテック フィリップの新作クロノは“外装推し”

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2022.10.19

パテック フィリップは4種類のノーチラスに加えて、4種類のクロノグラフも発表した。スプリットセコンド・クロノグラフに永久カレンダーを備えた「左利き向け」のRef.5373Pに、やはりスプリットセコンド・クロノグラフに永久カレンダーを備えたRef.5204Gの色違い。そして、ワールドタイム・フライバック・クロノグラフもやはり色違いであるRef.5935Aだ。加えて、アクアノート ルーチェのクロノグラフには、今風の「レインボー」も加わった。多くはコスメティックチェンジだが、写真を見た限りで言うと、いずれも非凡な完成度を誇っている。2022年のパテック フィリップ クロノグラフは「外装推し」だ。

スプリットセコンドクロノグラフ

広田雅将(クロノス日本版):取材・文 Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)


クロノグラフを搭載した豊富なバリエーションの数々

Ref.5373P-001

 まず紹介すべきは「左利き向け」と明記されたシングルプッシュボタン・スプリット秒針クロノグラフ・永久カレンダーのRef.5373P-001だ。大きな特徴はキャリバーCHR 27-525 PS Qを180°回転させて左リュウズに改めたこと。たかがそれだけに思えるかもしれないが、基本設計を1942年にさかのぼるこのムーブメントは、そもそも左腕に装着された時に精度が出るように設計されている。仮にシリコン製のスピロマックス®︎を搭載していたら左利きへの改良は容易なはずだが、これは古典的な金属製のヒゲゼンマイを備えている。

Ref.5373P-001

パテック フィリップ「シングルプッシュボタン・スプリット秒針クロノグラフ・永久カレンダー」Ref.5373P-001
手巻き(Cal.CHR 27-525 PS Q)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。Ptケース(直径38.3mm、厚さ12.93mm)。3気圧防水。時価。

 古い設計、低振動、金属製ヒゲゼンマイと、左利きへのコンバートには向かないにもかかわらず、今回パテック フィリップはあえてその課題に挑戦した。パテック フィリップは公言しないが、これは非常に作るのが難しいムーブメント、と言える。

 ちなみに現在、パテック フィリップはキャリバーCHR 29-535 PSという優れた自社製の手巻きスプリット秒針クロノグラフムーブメントを持っている。今回あえて、古典的なレマニア2310ベースに回帰したのは、おそらくふたつのインダイアルが上方向に配置されるのを嫌ったためだろう。キャリバーCHR 29-535 PSはふたつのインダイアルが下方向に置かれているため、180°回転させると3時-9時のラインより上側に来てしまう。そのため、パテック フィリップは昔のキャリバーCHR 27-525 PS Qを引っ張り出さざるを得なかったと推測できる。ただ結果として、このモデルはパテック フィリップのコレクターには申し分のない時計となった。ケース径38.3mm、厚さ12.93mmというサイズもやはり好事家向けだ。

Ref.5373P-001

 もっとも、このクロノグラフを古典的に仕上げなかったのがパテック フィリップらしい。クロノグラフ秒針とスプリット秒針、およびスモールセコンドの表示針には赤い差し色が強調されたほか、アントラサイト文字盤やエンボス加工が施されたブラックのカーフスキンストラップがスポーティーな印象を強める。写真で見る限り非常に魅力的な時計(コレクターならなおさらだろう)だが、おそらく見る機会はないだろう。


Ref.5935A-001

 ワールドタイム・フライバック・クロノグラフであるRef.5935A-001には、パテック フィリップの得意とする18Kローズゴールドメッキのオパーリン文字盤が与えられた。残念ながら実物は未見のため推測になるが、他のモデルから想像するに文字盤の発色は良好なはずだ(理論上はローズゴールドメッキの色は安定しないが、歩留まりを無視して製造できるのがパテック フィリップの強みである)。

Ref.5935A-001

パテック フィリップ「ワールドタイム・フライバック・クロノグラフ」Ref.5935A-001
自動巻き(Cal.CH 28-520 HU)。38石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。SSケース(直径41mm、厚さ12.75mm)。3気圧防水。859万1000円。

 また、このモデルにはトープカラーでグレイン仕上げのカーフスキンストラップとヌバック仕上げされたベージュのカーフスキンストラップが付属する。珍しいことに、ケースは18Kホワイトゴールドではなく、ステンレススティール製だ。ごく一部のモデルにしかステンレススティールケースを採用しないパテック フィリップがあえて選んだことを思えば、このRef.5935A-001は、コレクターズピースに位置付けられているのかもしれない。オンリーウォッチの限定モデルに採用されたカーボンモチーフを採用したのも、それが理由だろう。

Ref.5935A-001

 もともとRef.5930は装着感に優れるが、軽い本作はなお腕なじみが良いはずだ。あえて薄手に仕立てられた、曲がりの良さそうなカーフスキンストラップもその印象を強調する。なお、本作のリリースに伴い、Ref.5930G-010は生産中止となる。


Ref.5204G-001

Ref.5204G-001

パテック フィリップ「スプリット秒針クロノグラフ・永久カレンダー」Ref.5204G-001
手巻き(Cal.CHR 29-535 PS Q)。34石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。18KWGケース(直径40mm、厚さ14.3mm)。3気圧防水。4243万8000円(税込み)。

 Ref.5204G-001の新作は、外周に向かって色が濃くなるブラック・グラデーションカラーのオリーブグリーン・ソレイユ文字盤を採用した。仕上げの詳細は不明だが、ノーチラスが採用したPVD仕上げの文字盤とは別物だろう。具体的にはパテック フィリップが得意とするポリッシュしたラッカー仕上げである。写真で見た限りで言うと、色味は非常に落ち着いており、やはりブリリアント・オリーブグリーンのカーフスキンストラップとよくマッチする。

Ref.5204G-001

 搭載するのは傑作、キャリバーCHR 29-535 PS Q。永久カレンダー搭載スプリット秒針クロノグラフとしては申し分ないが、やはり入手は難しいだろう。


Ref.7968/300R

 筆者が個人的に引かれたのが「アクアノート・ルーチェ」の“レインボー”クロノグラフである。ケースの直径は39.9mmとなり、そこにキャリバーCH 28-520を搭載する。見るべきは貴石の巧みなあしらいだ。ベゼルの内側には40個のバゲットカットされたダイヤモンドがセットされ、その外周を囲むように、やはり40個のマルチカラーサファイアがセットされる。

Ref.7968/300R

パテック フィリップ「アクアノート・ルーチェ《レインボー》クロノグラフ」Ref.7968/300R-001
手巻き(Cal.CH 28-520)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。18KRGケース(10時-4時位置の直径39.9mm、厚さ10.37mm)。3気圧防水。2861万1000円。

 普通はこういった色石をそろえるのが難しいため、貴石と半貴石を混在させるのが一般的だ。対してパテック フィリップはすべての色石をカラーサファイアでそろえてみせた。同様にインデックスに固定される、12個のインデックスもすべてサファイアだ。

 本作をいっそう魅力的に見せるのが文字盤の仕上げだ。素材はホワイトのマザー・オブ・パール(MOP)だが、そこに切削でアクアノートのアイコンである立体的なブロックパターンを施している。最近、MOPに彫金やギヨシェを施す時計が増えているが、これほど大きなパターンを歪みなく施した例は他にない。文字盤自体の質も良く、大きなブロックパターンを邪魔しないように、模様の細かなMOPが選ばれている。

Ref.7968/300R

ルーチェのレインボーは、写真より実物の方がより魅力的だ。良質なMOPと、立体的な印字に注目。個人的な意見を言うと、パテック フィリップの女性用モデルには面白い試みが多く見られる。

 本作でもうひとつ挙げておきたいのが、ロゴや印字の質の高さだ。本作は18Kローズゴールドのケースに合わせて、文字盤にゴールドのプリントを採用する。非常に盛り上がっているため、一見、エッチングシール(電鋳文字をシール状にし、文字盤に転写して貼り付けたもの)に見えるが、あくまで古典的な印字だ。印字に使うゴールドやシルバーは、細かくするほど盛り上げやすくなるが、半面、粒子が目立つため高級感は損なわれる。細かい印字に、ゴールドやシルバーが向かないとされる理由だ。対して本作では、ゴールドらしい質感を持つだけでなく、歪みがなく、大きく盛り上がった印字が採用された。

Ref.7968/300R

 一見地味だが、外装の改善に取り組むパテック フィリップらしさが最も表れたディテールと言えるだろう。本作に限らず、パテック フィリップの女性用モデルは、(筆者の私見を言うと)男性用モデル以上に細部に面白い試みを盛り込んでいる。

Contact info: パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター
Tel.03-3255-8109


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