【93点】オメガ/シーマスター プラネットオーシャン マスター クロノメーター

FEATUREスペックテスト
2017.08.24

精緻な技術を駆使した自社開発キャリバー8900は美しく、極めて高い耐磁性能を備えながらもシースルーケースバックから観賞することができる。

超高耐磁性能

 ヘリウムエスケープバルブはプロ向けの機能だが、シーマスター プラネットオーシャンが備える極めて高い耐磁性能はどのユーザーにとっても有益な機能だろう。通常、耐磁性能は軟鉄製のインナーケースによって確保されるが、このシールド法ではシースルーバックからムーブメントへの視界が遮られてしまう上に、1000ガウスあるいは8万A/mの耐磁性しか保証されない。テストウォッチは 1万5000ガウス、あるいは、120万A/mという、通常の15倍以上の超高耐磁性能を備えていることから、MRIなど、強力な磁束にさらされても脱進調連機が帯磁しない。スピーカーやヘッドフォン、電気モーターなど、磁束の発生源が数多く存在する現代の日常においては、磁気帯びが時計の精度を悪化させる最大の要因となっている。

 超高耐磁性能を与えつつもムーブメントを観賞できるように、オメガは軟鉄製インナーケースを使用する代わりに、シリコン製ヒゲゼンマイやチタン製のテンワなど、部品に非磁性の素材を採用した。地板、受け、歯車は今まで通り真鍮製だが、この銅合金はいずれにしても磁束には反応しない。対して、真やホゾにはニヴァガウスが使用されている。この素材は、スウォッチ グループ傘下の企業であるニヴァロックス・ファー社とETA、ASULAB、そしてオメガが共同開発した合金である。コーアクシャル脱進機に使用されているスティールプレートは、非磁性の素材で出来たプレートに変更され、耐震軸受けのバネもアモルファス金属で出来ている。

内部機構のテクノロジー

 超高耐磁性能を実現するこれらの特徴を除けば、テストウォッチに搭載されているキャリバー8900は多くの点において、2014年に発表されたマスター クロノメーター仕様のキャリバー8500と同スペックである。2007年に発表されたキャリバー8500はすでに、クロノスドイツ版編集部が実施したいくつものテストで高得点をマークしている。キャリバー8500では、コーアクシャル脱進機が設計し直された。ツインバレルは約60時間ものパワーリザーブを蓄積し、均等な動力の供給に貢献することから、長時間駆動するだけでなく、精度も高レベルで維持される。フリースプラング式テンプと、テンワに取り付けられた慣性補正ネジによる微調整も、高精度の実現に寄与し、極めて精密な微調整を可能にする。さらに、両持ちのテンプ受けと厚みのある構造により、ムーブメントは極めて頑丈に仕上がっている。また、珍しい模様彫りにより、視覚的な見どころも多い。ブラックカラーのネジは美しく、エングレービングされた文字には赤い塗料が塗布されている。ローターは、スパイラル状に施されたアラベスク風コート・ド・ジュネーブにより、まるで回転するタービンのようだ。

 1時間刻みで合わせることのできる時針も特筆に値する。扱いやすいリュウズのねじ込みを解除し、1段目のポジションに引き出すと、分・秒の表示に影響を与えることなく時針を動かすことができる。この機能は、サマータイムの修正や、別のタイムゾーンに移動する場合などに便利である。2段引き出したポジションでは秒針が止まり、時針と分針を通常通り合わせることができる。

厳格な精度基準

 このムーブメントの精度を実証するのに手首に当てるまでもないが、シーマスター プラネットオーシャン マスター クロノメーターの日差は着用時、わずかプラス3秒/日である。また、優れた精度は歩度測定器でも証明された。各姿勢における日差はプラス1秒/日からプラス4秒/日の狭い範囲内に収まっており、計算上の平均日差はプラス2.3秒/日と、ごくわずかである。

 このムーブメントは、ケースから取り出した状態でC.O.S.C.(スイスクロノメーター検定協会)からクロノメーターとして認定されているだけでなく、スイス連邦計量・認定局(METAS)の定める厳格な精度基準もケーシングされた状態でクリアしている。マスター クロノメーターを認定するスイス連邦計量・認定局による検査では、精度だけでなく、パワーリザーブ、防水性、耐磁性など、多くの項目で基準を満たさなければならない。

 さらに、コストパフォーマンスは例外と言っても過言ではないほど良好である。このシーマスター プラネットオーシャンによって提供されるクォリティが68万円で手に入るのは、極めてフェアな価格設定ではないだろうか。もちろん、自社開発ムーブメントを搭載しながらより低価格のダイバーズウォッチもほかに存在するが、技術や加工においてシーマスター プラネットオーシャンとは比較にならない。

 オメガは、日中はダイビングでその利便性を発揮し、夕刻、ビールやカクテルの時間になるとエレガントな雰囲気を演出してくれる時計を生み出すことに成功した。特に、長いパワーリザーブや革新的な超高耐磁性能は、日常使いにおいても実用性の高い、うれしい機能である。