【78点】ジン/936

FEATUREスペックテスト
2019.05.13
Cal.SZ05

ETA7750をベースに2カウンタークロノグラフに再設計されたCal.SZ05。普段は軟鉄製のインナーケースに覆われているためにその姿を見ることはできないが、その代わりに搭載する936は8万A/mもの耐磁性能を持つ。

 スポーティーなクロノグラフを得意とするジンから新しく〝936〟が登場した。今作のサブダイアルはふたつのみで、とりわけバランスの良い外観が特徴的だ。サブダイアルのうちのひとつは60分積算計。これはクロノグラフの定番エボーシュムーブメントであるETA7750にジンが独自に手を加え、30分積算計から変更されたものだ。積算計の目盛りの分割がメインダイアルと同じ60分間という配分になっているため、クロノグラフを作動させて計測している時間を感覚的に判読しやすくなっている。このことに加え、936というモデル名からもジンの実用第一主義が分かろうというものだ。別の言葉でも置き換え可能なネーミングは使用せず、情緒性をすっぱりと排除している。

 直径43㎜というサイズは少々大きく感じるかもしれないが、ケースにはジンでおなじみのテギメント加工が施されていて、傷に強い仕上がりだ。また、ムーブメントは軟鉄製インナーケースに包まれているので、耐磁性能は8万A/m(1000ガウス)と非常に優れており、防水性能も10気圧防水と高い。最大の魅力はそのスペックにあるというのが、ジンおよび時計愛好家にはうれしいところだ。

 かし936の場合、より魅力を高めているのはそのデザインだろう。いかにもジンらしくありながら、ややこざっぱりとして若々しい印象が感じられる。ジンのほかのクロノグラフと比べてみると、かなり整理された構成になっているのが分かる。伝統的なパイロットクロノグラフの多くに見られる目盛り入りの回転ベゼルは排された。また、サブダイアルは縦並びではなく横一列にふたつ置くことで、日付の小窓が収まりのよい場所に配置でき、シンメトリーの意匠が際立っている。

 差し色として赤を使うのもジンらしいデザイン手法で、センターのクロノグラフ秒針と3時位置の60分積算針は目にこそ留まりやすいが主張し過ぎず、アクセントとして効果的だ。裁ち切りスタイルで赤い縫い目の入った新型のカーフストラップとも、見事なまでに調和している。また、936ではピンバックル付きのカーフストラップのほかに丁寧に作られたシリコン製ストラップやステンレススティール製ブレスレットも選択できる

ほとんど文句なしの仕上がり

 この936に、それでもどこかしらの弱点を見つけようとするならば、日付表示のディスクがやや沈んだ位置にあるのと、耐磁性能を優先しているため、裏蓋がサファイアクリスタルのトランスパレント式になっていないことが挙げられる。前者については搭載ムーブメントのキャリバーSZ05がETA7750を改設計したものであることが理由だ。ちなみに、この自動巻きムーブメントのベースは、段階式に分けられたETAの品質グレードで〝トップ〟のカテゴリーのものだ。安定した精度をもたらすグリュシデュール製テンワを備え、緩急調整機構回りも手が掛かった仕上がりになっている。

 さて、同モデルを歩度測定器にかけたところ、クロノグラフ停止時で平均日差はプラス2秒/日。クロノグラフを作動させても各姿勢ともかなり近い数値だったことは喜ばしい。2週間にわたる着用テストでも、平均日差はクロノグラフ停止時でマイナス1秒/日、作動時でプラス2秒/日と、かなり落ち着いたデータが出た。

 慰められるのは、最大姿勢差が〝わずか〟10秒/日であるという事実である。そのため、熟練の時計師であれば、少しの調整のみで及第点の取れる精度まで持っていくことができる。だがそのためには、購入した時計をわざわざメンテナンスに出す必要がある。その手間を考えると、これをしたいと思うユーザーはあまりいないだろう。

 このように、936は頑強で使い勝手に優れ、信頼性が高い上、外観も良い。価格もムーブメントに手を加えていることと、ケースを製作する際の加工に見られる技術力の高さを考えると妥当だろう。日々のパートナーとして、時計としてもクロノグラフとしても高い視認性とパワフルな頼もしさを腕上で実感できるに違いない。