【87点】パテック フィリップ/ アクアノート・クロノグラフ Ref.5968A

FEATUREスペックテスト
2019.07.07

最新の自社開発ムーブメント

内部の様子。繊細に装飾された自動巻きムーブメント、キャリバーCH 28-520 C。機械好きにはたまらない光景である。

 自動巻きムーブメント、キャリバーCH28-520 Cでは、コラムホイールによる伝統的な制御方式と近代的な垂直クラッチが組み合わされている。パテック フィリップのクロノグラフムーブメントで垂直クラッチが採用されているのは、CH28-520シリーズだけである。垂直クラッチにおいては、その構造的な恩恵により、クロノグラフの始動時に針飛びする心配がないのがうれしい。また、クロノグラフ作動による歯車の摩耗がほとんど発生しないことから、クロノグラフセンター秒針は通常の秒針としても利用することができる。つまり、アクアノート・クロノグラフでは、秒針がなくても困らないのである。クロノグラフ秒針を通常の秒針の代わりとして使用する際に秒単位で正確に時刻を合わせたい場合は、フライバック機能を使用するとよい。計測中に4時位置のクロノグラフプッシャーを1回押すと、クロノグラフセンター秒針は瞬時に帰零し、直ちに動き始める。もちろん、クロノグラフを時報に合わせて正確に始動させることでも可能である。あえてアクアノート・クロノグラフのわずかな欠点を挙げるとするなら、テンプの動きを完全に停止できないため、時刻合わせの際に、分針を後から調整しなければならないことがある点だ。

 アクアノートに搭載するため、自動巻きクロノグラフムーブメント、キャリバーCH28-520 Cはベースムーブメントから構造的な変更が加えられた。時積算計が廃止され、代わりに60分積算計を文字盤の中心に届くほど拡大したのだ。そのため、分積算計の読み取りは極めて快適である。さらに、30分積算計と異なり、60分積算計は通常の分表示のように見えることから、分積算を直感的に認識することができる。分積算計のすぐ裏側ではミニッツレコーディングホイールが回転している。この歯車は秒クロノグラフセンターホイールと連結されているため、分積算計の表示針は、クロノグラフ秒針がゼロを通過するときにジャンプして進むのではなく、なめらかに進んでいく。

 午前零時に瞬時に送られる日付表示も特筆に値する。切り替わりは人間の目では捉えられないほど速い。だが日付の修正はやや面倒で、8時位置に埋め込まれたプッシャーを、同梱される黒檀とホワイトゴールドで出来た専用のピンで押さなければならない。

複合的な微調整システム

 ムーブメントを巻き上げるのは21Kゴールド製のローターで、約45〜55時間のパワーリザーブを生み出す。今回のテストでは、57時間48分というパワーリザーブを達成した。

 歩度測定器の上でも、平均日差わずかプラス0.3秒/日(クロノグラフ停止時)という高精度を叩き出した。パテック フィリップが独自に採用している品質保証マーク「パテック フィリップ・シール」が付与されるためには、平均日差マイナス3〜プラス2秒/日という、ブランドが自らに課している基準をクリアしていなければならない。つまり今回のモデルも、その信頼性を十分に立証してみせたのである。

 自動巻きムーブメント、キャリバーCH28-520 Cは、微調整のしやすい機構によって高い精度が確保されている。まず挙げられるのは、ジャイロマックステンプで、これは1949年と51年に特許を取得している。次に、2006年に導入されたシリンバー製のスピロマックスヒゲゼンマイである。この新素材も特許を取得しており、単結晶シリコンをベースとしている。温度補正機能を備えており、軽く、硬く、摩耗に強い。また、耐磁性を備え、弾力があり、腐食や衝撃にも強い。DRIE(ディープリアクティブイオンエッチング)で製造されるため、許容公差1000分の1㎜と、極めて精密に作ることが可能である。テンワの4本のアームに取り付けられたマスロットは、信頼性の高い確実な微調整を可能にしている。

ステンレススティール製スポーツウォッチ

表面のきらめき。ポリッシュとサテンのコンビ仕上げにより、奥行きのあるビジュアルを実現している。

 このムーブメントが内蔵されているのは、120mの防水性を備え、ポリッシュとサテンのコンビ仕上げが美しいステンレススティール製ケースである。ケースはリュウズガードを備えていることから、ややアシンメトリーな印象を与える。ねじ込み式リュウズは扱いやすく、巻き上げや時刻合わせも簡単に行うことができる。リュウズとは異なり、ファセット豊かな縦長のクロノグラフプッシャーは、ムーブメント内部でクランプが垂直クラッチの連結、解除を行うため、しっかりと押し込まなければならない。2時位置のスタート/ストップボタンの方が、4時位置にあるフライバックとゼロリセット機能のためのプッシャーよりも、やや楽に操作することができる。クロノグラフの作動は、指との接触面にサテン仕上げが施された扱いやすい2個のクロノグラフプッシャーにより、毎回、確実に行うことができる。

 また、下方に伸びたラグの恩恵により、ストラップの端部を直角に連結することができ、時計の着け心地は極めて快適である。リュウズを回すのと同じような柔らかさで閉まるバックルは、完璧な操作性を提供する。アクアノート・クロノグラフの備える、若々しくダイナミックなスポーツ精神は、隅々まで配慮が行き届いたディテールによって表現されるのである。