【88点】パテック フィリップ/ カラトラバ・パイロット・トラベルタイム

FEATUREスペックテスト
2019.10.26

パテック フィリップ/カラトラバ・パイロット・トラベルタイム

point
・ツータイムゾーンの方式が実用的
・極上の仕上げ加工
・整ったパイロットウォッチデザイン

point
・ストップセコンド仕様になっていない
・日付が読み取りづらい

 カラトラバ・パイロット・トラベルタイムには、それまでのパテック フィリップにはなかった要素が少々加えられている。2015年にこのスポーティーなファーストモデルが18Kホワイトゴールドケースで登場した時、時計愛好家の興奮ぶりはかなりのものだった。というのも、ひときわ高い人気を誇るノーチラスやアクアノートは、スポーティーモデルであってもすでにクラシックなデザインとして認識されて久しいという背景があったからだ。パテック フィリップほどの伝統のあるメーカーは、過去の歴史の中から再発見して創造することのできる底力がある。だがそれは単なる焼き直しではなく、全く新しいものでなくてはならないのだ。カラトラバ・パイロット・トラベルタイムもそのひとつで、同社がかつてパイロットウォッチを作っていたという歴史の1ページが現代に結び付いている。5524というリファレンスナンバーを持つこのモデルの蓄光塗料付きのアラビックインデックスと針のデザインは、同社の1930年代のパイロットウォッチから採用したものである。

カラトラバ・パイロット・トラベルタイムはテストモデルのRef.5524Rのほかに、レディースモデルの723Rがラインナップされる。搭載されるムーブメントは同じCal.324 S C FUSだが、前者のケース径が42mmなのに対し、後者は37.5mmだ。

 単色のケースにマットな青い文字盤を合わせ、よりスポーティーな雰囲気のあるホワイトゴールドモデルと比較すると、今回のテストで取り上げる2018年に発表されたローズゴールドモデルは、暖色のケースに放射状の装飾研磨を施したブラウンカラーの文字盤を合わせていて、エレガントさが際立つ。こちらはインデックスもローズゴールド製で、ツク棒を取り付けるバーをわざわざ追加した個性的なデザインの尾錠もローズゴールド製だ。統一感がうまく表れていて、美麗で気品のあるパイロットウォッチに仕上がっている。文字盤のアラビア数字とともに特徴的なのは、ケースの左側に設けられたリュウズのような形状のプッシュボタンだ。このふたつのプッシュボタンを見るだけで、付加機能があることが分かる。このパイロットウォッチは、簡単な操作でセカンドタイムゾーンの設定が可能なのだ。

 広義ではGMTとも称されるこの機能は、時計の世界においてかなり目にする機会が多い。たいていは時針・分針とは別に時間表示用の副時針を持ち、リュウズで1時間刻みに時刻修正ができるようになっている。タイムゾーンを越える旅行時にはこの機能が便利だと実感するはずだ。時針と分針は滞在地の時間(セカンドタイム)に合わせ、副時針は出発地の時間(メインタイム)に合わせるなど、タイムゾーンをまたいだ2ヵ所の時間が同時に分かるようにできるからだ。しかし、ひとつのリュウズでふたつの時間を修正する機構のものは、それぞれの都市の時刻合わせを正しく行うのがなかなか簡単にはいかない。その場合、リュウズが段階的に引き出せるようになっているので、引き出すポジションがずれていると修正したいタイムゾーン用の針ではない針が動いてしまい、正確な針合わせができないということも起こる。加えて、セカンドタイムゾーンが何時かを示す針は、修正時に先へ進めることはできても後ろに戻すことができないことが多い。そのためメインタイムとセカンドタイムをそれぞれ設定しようとする場合、時差がマイナスになるゾーンをセカンドタイムに選ぶ場合はかなり手間が掛かる。例えばドイツから英国へ旅立つ時に修正するとなると、時差はマイナス1時間。仮にセカンドタイムの針がメインタイムと同じところを指していたとすると、出国時にドイツの現地時間が10時の時はイギリスではまだ9時なので、セカンドタイムは1時間戻すだけで済み、メインタイムを示す針はドイツ時間に合わせてそのままでいい。