【88点】ウブロ/ビッグ・バン インテグラル グレーセラミック

FEATUREスペックテスト
2022.01.29

ビッグ・バン インテグラル グレーセラミック

搭載するムーブメントは、ビッグ・バン ウニコ用に開発された自社製の自動巻きクロノグラフムーブメントCal.HUB1242をアップデートした、第2世代のCal.HUB1280。さまざまな箇所に工夫を凝らし、高機能を保ちつつ薄型化に成功した。

 ウブロはさまざまなカラーバリエーションをそろえたブランドだ。展開するモデルは、すべてを把握しきれないほど多岐にわたる。というのも、定番コレクションに加えて限定品が次々と発表され、特別なモデルとしてエリア限定でしか販売されないこともよくあるからだ。そうした限定品の色や素材はそれぞれ異なっている。同じやり方でもその都度組み合わせを変えるこの方法は、ウブロの中核を成すブランド哲学からきていて、以前同ブランドで司祭のごとく道筋を示したジャン-クロード・ビバーにより「アート・オブ・フュージョン」と名付けられている。

「ビッグ・バン」は登場してすぐに腕時計界のアイコニックなモデルのひとつとなった。それは2005年から10年代にかけてのことだった。ビッグ・バンは、ウブロと当時自身のアイデンティティーを同社に据えていたビバーにとって、何よりも“爆発的膨張(ビッグバン)”となったのだった。とてつもない多様性で新鮮さを保ってきたビッグ・バンに対して、常に新たな疑問が浮かんでくる。20年代はデザイン面に関してどのように発展していくのだろうか?

 そのように考える背景となったのは、CEOのリカルド・グアダルーペが、20年1月にドバイで発表した非常に重要な意味を持つ新作にある。「ビッグ・バン インテグラル」というこのモデルは、その第1弾としてチタン、ゴールド、ブラックセラミックスを組み合わせたものだ。そして、ビッグ・バンのコレクションとして初めて統合型メタルブレスレットが採用されている。ケースと統合されたブレスレットは、今やこれまでにないほどの人気を誇るが、それは当然の歩みだろうとひと目見た時に感じた。しかし、それは単なる新たなスタイルへのチャレンジというよりは、カスタマーの要望に応えたという面が大きい。馬に乗り換えて彼らとともに駆け出したというわけだ。

 ブレスレットがケース統合型ということは、一般的には素材と色がケースと同じであることを意味する。ブルー、ホワイト、グレーのセラミックスを採用した、21年発表のビッグ・バン インテグラル セラミックでもそれは変わらない。ウブロはこのモデルをもって、多様性を生み出せるコンビネーションスタイルは廃止した。それはブランドとして、従来の戦略から離れたということなのだ。

新たなる旅立ち

ビッグ・バン インテグラル グレーセラミック

外装はセラミックスがメイン素材だが、裏蓋の枠を留めているネジはチタン製。リュウズの側面とプッシュボタンの上面にはラバー素材が使われている。

 デザインに関して言うと、このモデルが今までのビッグ・バン ウニコと違うのは、ブレスレット仕様になっているということだけではない。文字盤はアラビア数字がなくなりバーインデックスのみになったことに加え、クロノグラフのプッシュボタンは丸型から角型に変わった。ラグの間にはビスと、ブレスレットを取り外して交換するための台形のボタンがあったが、ビッグ・バン インテグラルではエッジを立てた長方形になっている。そしてケースの厚さは直径45mmのモデルから約1mm薄くなった。うした変更点で、さらに気品が高まったのは言うまでもない。

 ビッグ・バン インテグラルは、ケースの面取りがより強調されているのも特徴のひとつだ。それはラグに顕著に表れ、プッシュボタンやブレスレットにも施された面取りを見ると、ブランドが持つ哲学が伝わってくる。ウブロは真正面から見えるケース表面とベゼル、そしてブレスレットにサテン仕上げを施し、対して側面はまばゆいまでの鏡面に仕上げて印象を際立たせることを旨としているが、それはジルコニウムメッキを施したセラミックケースの今作にも生かされている。

 今回、テスト用に借りたモデルはグレーを選択した。着用を開始して数日後には、もう外さずにずっと着けていたいという気持ちが強まっていた。グレーは現在、トレンドカラーとして話題でもある。世界共通の印刷色見本帳を発行するアメリカのパントン社が発表する2021年のカラー・オブ・ザ・イヤーは「イルミネイティング(イエロー)」とともに「アルティメット・グレー」が選出されているのだ。この数年で時計業界にもブルーやグリーンが多く見られただけに、カラフルなトレンドカラーの中に、明確なコントラストが加わることになる。グレーという色は心を落ち着かせるアイテムとしても有効だが、かといって決して面白みに欠けるわけではない。

 ひと口にグレーと言ってもその色の幅は広い。このモデルに採用されているセラミックスにしても、グレーの中でもより好まれるほとんどの色調を表現できるなら、決して地味なものにはならないのだ。そこがステンレススティールやチタンなどの、素材そのものの色を変更できない金属にはない強みだろう。セラミックスを用いたコレクションに、派手なレッドや明るいイエローをそろえているウブロが今回グレーを加えたのは、意識的な声明に思える。

 ビッグ・バン インテグラルは素材の特性を生かしてぴたりと着地の決まった外観もさることながら、触覚に訴える心地よさもある。ステンレススティールのモデルに比べると軽く、肌に触れても冷たくないのは、セラミックスが体温にすぐなじむからだ。ブレスレットの表面を撫でるように指先を滑らせると、ほぼガラスと同じようななめらかさと硬さを感じ、そのうえ質感は人工的な素材とは一線を画している。素材の長所は、ブレスレットに生かされてこそ効果的だろう。ケースはトランスパレントバックの場合、肌に触れる面積が大きいだけに、ピンポイントの接触が不快さをもたらすようなことにはならないからだ。擦り傷がつきにくいということも、ブレスレットは安心感を与える要素だろう。

ビッグ・バン インテグラル ブラックマジック

ビッグ・バン インテグラル ブラックマジック。ウブロでは、外装パーツを黒で統一したモデルを「ブラックマジック」と呼び、その引き締まった外観が特徴。

メカニズムの魅力を味わう

 的を射たビジュアルに仕立てられているのはケースやブレスレットだけではない。決め手となっているのは外装のデザインだけでなく機械も同様で、文字盤側からものぞくムーブメントにも力が注がれたことがうかがえる。〝文字盤〞と呼ぶべきものにはオープンワークが施され、ほとんどその原型を留めていないほどの大胆ぶりだ。外周の枠だけを残すようにオープンワークされ、円を描いているのは9時位置のスモールセコンドと3時位置の60分積算計のみ。このように凝った作りの文字盤の下に鎮座するメカニズムを見せているのだ。

 そのムーブメントは、ビッグ・バン ウニコのために開発された、自社製ムーブメントの第2世代であるキャリバーHUB1280だ。厚さは第1世代のキャリバーHUB1242に比べて明らかに薄くなっていて、8.05mmから6.75mmへと変化している。そのためにテンプ受けなど一部のパーツを見直し、両方向巻き上げ式の自動巻き機構は別の方式に変更された。キャリバーHUB1242ではふたつの爪を使用したラチェット方式だったが、キャリバーHUB1280ではふたつの切り替え車を使用し、減速させる方式を採用している。これだとより広いスペースが必要にはなるが、その分厚さは抑えることができるのだ。

 そのほかにも複数の改良点がある。クロノグラフスタート時の針飛びを防ぐため、歯車同士を噛み合わせた際にバックラッシュが発生しないようにした歯先の形状に加え、改良型の偏心ネジ付き緩急針のように、特許を取得したものもある。

 表裏両面からオープンスタイルでムーブメントが見えるようになっているので、機械式腕時計の舞台裏であるメカへ視線が誘われるのは、ちょっとした探検のようでわくわくする。なにしろ、指先の操作ひとつで指令が機械まで伝わるのだ。クロノグラフのスタートとストップを何度か繰り返すと、水平クラッチ方式であるため、7時位置と8時位置の間にある秒クロノグラフ中間車(遊動車)が平行移動するのが分かる。

ビッグ・バン インテグラル

(右)ビッグ・バン インテグラル ホワイトセラミック。オープンワークされた文字盤や、ケースの両サイドにある耳状の部分を黒くすることで、引き締まり感のあるビジュアルになっている。(左)ビッグ・バン インテグラル ブルーセラミック。ウブロの革新性を体現するカラーセラミックスだが、本作の外装はブルーで覆われており、コレクション屈指の人気を誇る。

 この歯車は、9時位置のスモールセコンドの下にある4番クロノグラフ車(ドライビングホイール)と連結しており、クロノグラフのスタート時に発停レバー(遊動レバー)の動きによりムーブメントの中央にある秒クロノグラフ車(クロノグラフランナー)の方へ寄っていく。そして、これらふたつの歯車同士が噛み合うと同時に、先端が赤いクロノグラフ秒針が動き出すのだ(文字盤側中央に見える歯車は針合わせを行う輪列のもので、秒クロノグラフ車はかなり見えづらい位置にある)。 この動きと同時に、クロノグラフのプッシュボタンを押すたびにコラムホイールがワンポジションずつ動きながら回転するのも見えるだろう。このムーブメントは香箱と3時位置の60分積算計の間にもクロノグラフのクラッチがある構造になっていて、ウブロはこの水平クラッチの方式を「ダブルクラッチ式」と称している。

 また、ゼロリセットもライブ感たっぷりに鑑賞できるのが楽しい。文字盤を4分割した右下のエリアには、リセットハンマーの端がわずかに見える。クロノグラフ作動時に2時位置のストップボタンを押した後、4時位置のリセットボタンを押すと、リセットハンマーにあるふたつのアームの先端が、秒クロノグラフ車(クロノグラフランナー)と分クロノグラフ車(ミニッツレコーディングホイール)のそれぞれに重ねられたハートカムに接触し、瞬時にハートカムがくるりと回って元に戻るのだ。

各所にちりばめられたブランドロゴ

 驚いたことに、全部で何カ所かすぐには把握できないほど、あちこちにブランドを認識させるものが目につく。裏蓋のサファイアクリスタルを支える枠に記載されたブランド名に始まり、表側のベゼルを留めているビスの頭とリュウズには「H」と入り、ムーブメントにもイニシャルが見られる。コラムホイールの頭やクロノグラフ秒針の端、裏側から見えるブリッジにもHがあしらわれ、さらには緩急針にもかなり小さくHの文字が入っているのだ。ブレスレットとバックルは、全体がHという文字をデザインしたような作りになっている。数えたところ、ブランド名を意識させるポイントは合計で17カ所もあった。

 ところでこの腕時計の使い心地はどうかと言うと、まったく問題がないと言える。プッシュボタンもリュウズもスムーズに動く。日付表示に至ってはシースルーになっているだけに、修正時は早送り修正機構のメカニズムがどのように動くのか分かるのは、ちょっとした感動ものと言ってよい。オープンワークされた文字盤を通して、日車がポジションをひとつずつ変えて回っていくのが見えるのだ。それに加えて、日付修正は24時間いつでもムーブメントを破損する心配なく行える。そして、文字盤上で針が0時を指すタイミングぴったりに、日付が一瞬にして切り替わるジャンピング式を採用する。この腕時計に唯一欠けているのは、着用中でも楽な操作でブレスレットを少しだけ緩めることができるエクステンション機能だろう。

 ウブロはこのビッグ・バン インテグラルで、典型的なデザインをもってしても、さらなる前進を果たすことに成功した。新モデルとして、より最新のトレンドに沿ったものに仕立て上げ、見栄えがよく着用感は上々である。メカニズムの動きを目で追うことができるのは、何よりもユーザーにとって実に愉しいものだ。今のところ同モデルで主張の強い色を出すのは控えているようだが、やがて色とりどりのカラーバリエーションが増えることは十分にあり得そうだ。