【86点】ゼニス/デファイ エクストリーム

FEATUREスペックテスト
2022.05.23

 1969年、ゼニスは世界に先駆けて自動巻きクロノグラフムーブメント、エル・プリメロを発表した。当時、史上最速のクロノグラフだった毎時3万6000振動というハイビート機は、50年以上、10分の1秒単位での計時を実現している。2017年には100分の1秒単位での計測を可能にする「デファイ エル・プリメロ」が登場した。

 そして21年、テクニカルかつ近未来的なデザインの「デファイ エクストリーム」がリリースされた。ケースの直径も45mmとサイズアップされている。チャコールグレーのチタン製ケースを持つこの腕時計は、手首に載せた時の方がずっとスリムに見える。これは、チタンの表面に微細なマイクロブラスト仕上げを施すことで生まれる効果である。

デファイ エクストリーム

チタンブレスレット、ラバーストラップ、面ファスナー式ストラップの3種類が付属しており、実用的なクイックチェンジ機構で簡単に交換することが可能で、それぞれ異なる表情を楽しむことができる。

 デファイ エクストリームでは、数多くの特徴的なディテールが見られる。12角形のベゼルリングが採用され、クロノグラフのプッシャーはV字形に配置されている。外側のエッジに面取りを行った長方形のプッシャーには溝が切られており、六角穴付きボルトで内側から固定された、複雑なフォルムのリュウズガードが採用されている。さらに、表側からは見えないが、メタルブレスレットの他に付属する2本のストラップを簡単に交換できる独創的なクイックチェンジ機構を備えており、ストラップをケースにしっかりと固定することができる。

 サファイアクリスタル製の文字盤も同様に凝ったつくりである。蓄光塗料が塗布されたポリッシュ仕上げのインデックスは、複雑な形状の側面に面取りが施されている。幅の広い針も、形状は異なるもののインデックスのフォルムと調和している。クロノグラフの積算計は、内側に向かってテーパー状になった目盛り付きリングと、数字をプリントしたサファイアクリスタル製のインナープレートで構成されている。12時位置にあるポリッシュ仕上げのゼニススターも別体で植字されており、そのすぐ上にはクロノグラフ用のパワーリザーブインジケーターが配されている。

 その積算計やインジケーターの間からは、オープンワーク加工やサテン仕上げが施されたグレーカラーのブリッジやテンプなど、ムーブメントの内部を見ることができる。贅沢極まりないディテールだが、デファイエクストリームは過度に誇張することはなく、デザインは明快である。ただ、ディテールが豊富な分、視認性がやや阻害されていると言えなくもない。

何が表示されるのか?

 他のデファイ クロノグラフと同様、時針と分針はセンターに配され、9時位置にスモールセコンドを備える。2時位置のプッシャーを押すと素晴らしいショーが始まる。センターに配されたクロノグラフの秒針が、1秒間に1回転するのだ。このセンター秒針は文字盤外周の目盛りに対応し、100分の1秒を刻みながら疾走する。機械式腕時計でこれほど速く動くものはほんのひと握りのため、この光景は感動的である。デファイ エクストリームは現行モデル屈指の高速クロノグラフであり、史上最速の機械式腕時計のひとつでもある。静かだがはっきりと聞こえるその作動音は、レース用バイクのアイドリング音を彷彿とさせる。

 100分の1秒は文字盤外周の目盛りで読み取ることができる。だが、クロノグラフ秒針は常に対応する目盛り上で正確に止まるとは限らず、時には目盛りと目盛りの間に止まることもある。そのため、正確な視認性が常に確保されているわけではない。だが、人間の運動における平均的な反応速度である約0.2秒という数値は、100分の1秒単位に換算すると目盛り20刻み分に相当する。したがって、100分の20秒より微細な精度を、人間の運動能力ではとらえることができない。

 なお、6時位置の60秒積算計と3時位置の30分積算計では、針と目盛りが正確に一致する。クロノグラフの計測可能時間は最長30分で、この時点でクロノグラフのセンター秒針は1800回の回転を終えたことになる。これは通常のエル・プリメロ・クロノグラフの30時間分に相当する。クロノグラフ用の主ゼンマイのパワーリザーブは約50分なので、クロノグラフ用パワーリザーブインジケーターはこの時、半分以下を指している。

ムーブメント内部では何が起きているのか?

エル・プリメロ9004

オープンワーク加工されたマニュファクチュールムーブメント、エル・プリメロ9004では、時刻表示用とクロノグラフ用の脱進機を分離するため、ふたつのテンプとふたつの香箱を備えている。

 さまざまな数字からも分かるように、100分の1秒を計測するハイビートクロノグラフは多くのエネルギーを必要とする。そのため、このクロノグラフは時刻用の輪列と同じ系統で駆動させることができない。デファイエクストリームでは、時刻用の脱進機は従来のエル・プリメロの特徴でもある3万6000振動/時で作動する。当然のことながら、テンプもそれに対応するものが搭載されている。

 一方で、クロノグラフ用の脱進機は時刻用のものと切り離されており、輪列も独立している。共有するのは、地板とブリッジ間の空間、そして巻き上げ機構のみである。ケースの表と裏から見えるクロノグラフ用のテンプは、36万振動/時に耐えられる構造になっているが、大きさもフォルムも通常のテンプとさほど変わらないのは驚きに値する。

 また、クロノグラフ機構は専用の香箱を備えている。時刻用の輪列が星形の洒落たローターで巻き上げられるのに対し、クロノグラフ機構はリュウズで巻き上げる必要がある。時刻は自動巻きで、クロノグラフは手巻き、というのも、数少ない設計のひとつと言えるだろう。

 この複雑で特殊な構造のさらなるメリットは歩度にも表れている。通常、クロノグラフ針は時刻用の輪列で駆動されることから、その分のエネルギー消費が振り角や歩度に影響を及ぼすことがある。だが、このモデルでは双方が完全に分離されているため、クロノグラフ機構の作動が時刻表示の歩度に影響を与えることはない。

 このメリットは歩度測定器「クロノスコープX1」によるテストで証明されただろうか? クロノスコープX1は機械式時計を測定するハイエンドテスターで、機械式ムーブメントの精度を測定するための最新技術を搭載している。同測定器で6つの姿勢をテストした結果、デファイ エクストリームは計算上の平均日差がマイナス4・5秒/日で、明らかなマイナス傾向を示した。だが、最大姿勢差は6秒と良好な結果で、振り角も安定していた。

ストラップはどのように交換するのか?

デファイ エクストリーム

クイックチェンジ機構を分解した図。操作性に優れ、見た目も非常にすっきりしている。中央のボタンを押すだけで容易に着脱することができる。

 腕時計業界においては昨今、ストラップのクイックチェンジ機構がトレンドのひとつとなっている。とはいえ、現在普及しているモデルの多くに改善の余地が見受けられる。交換がそれほど容易でなかったり、メーカーが謳うほど安定感がなかったりすることもしばしばである。

 一方、ゼニスのものには説得力がある。ストラップはケースに隙間なくしっかりと固定され、接続部分は見た目にも非常にすっきりとしている。さらに操作性も良い。ストラップを交換するには、バネ棒の裏側にある小さなボタンを爪で押さなければならず、少し力が必要だが、安定性は極めて高い。しかも、このボタンが不用意に押されてストラップ自体が外れてしまうこともない。ストラップをカチッとはめ込むのはとても心地よく、ケースに傷が付かないように配慮された設計だ。

 付属する3種類のブレスレットとストラップはどれも品質が高く、そのうちのひとつはケースと同じマイクロブラスト仕上げのチタン製である。2個のセーフティーボタンを備えたダブルフォールディングクラスプを備え、手首へのなじみも良い。

デファイ エクストリーム

直径45mmと大型のデファイ エクストリームだが、ハイクォリティなストラップとも相まって総じて手首へのなじみが良い。特にラバーストラップは快適だ。

 ラバーで内張りされたタイプのファブリックストラップは、ストラップの先端を二重になった環(カン)に通してから面ファスナーで固定するようになっている。ストラップ自体が堅めで、縫い付けられた面ファスナーの部分に少し厚みがあるため、長さを調整できる範囲が限られ、ストラップを開くのにやや手間がかかる。着用テストで最も好感度が高かったのはラバーストラップで、大型のケースながらも抜群の装着感を提供してくれた。小さめに設計されたアシンメトリーなフォールディングクラスプは容易に操作でき、安全なプッシュボタンで開くことが可能なうえ、尾錠でストラップの長さを調節することができる。

 ブレスレットとストラップはどれも、ケースや文字盤と同様に、これ以上は望めないほどにハイクォリティである。当然のことながら、これは価格にも反映されており、211万9700円とゼニスの中では高価格帯に属する。

 だが、100分の1秒単位で計測が可能なクロノグラフは専用の調速脱進機と香箱を備え、それが動く様は壮観であり、その組み立てには永久カレンダーやトゥールビヨンといったコンプリケーションと同様の手間を要する。そのうえ、3種類の高品質なストラップが付属しており、複雑性、品質、仕上がりといったあらゆる観点において完全に納得できる内容である。

 購入者は、現在入手可能な〝世界最速〞の機械式腕時計として、壮大で刺激的な光景を楽しめる。正真正銘、世界記録を持つ腕時計を手にすることができるのだ。