【完全復活】キングセイコーは、今こそ求められるジャストサイズの腕時計だ

2022.08.10

グランドセイコーに続く高級ラインとしてセイコーの屋台骨を支えたキングセイコー。
そのコレクションが、2022年に完全復活を遂げた。戦略的な価格にもかかわらず、性能・デザイン・品格を高次元で満たした本作は、今こそ求められるジャストサイズの腕時計だ。

キングセイコー SDKS001

キングセイコー SDKS001
今によみがえったキングセイコーを象徴するモデル。直径37mm、厚さ12.1mmの薄いケースに、堅牢で長いパワーリザーブを持つ自動巻きを搭載する。グランドセイコー譲りの良質な外装にも注目。自動巻き(Cal.6R31)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70 時間。SS( 直径37.0mm)。10気圧防水。19万8000円。
奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
広田雅将(クロノス日本版):文 Text by Masayuki Hirota( Chronos Japan)

現代技術でよみがえった高次元のネオクラシック

 グランドセイコーとともに、セイコーの上級ラインを担ってきたのがキングセイコーである。1961年に登場したこのコレクションは、グランドセイコーとは明らかに違う個性を持っていた。例えばムーブメント。高精度を追求するために専用のムーブメントを擁するグランドセイコーに対して、多くのキングセイコーは既存のムーブメントを活かし、チューンナップされたものを載せていた。ケースのデザインも同様である。年々尖った造形を打ち出したグランドセイコーに対して、キングセイコーはより小型、薄型を志向したデザインが多かった。常にベストを求めるグランドセイコーに対して、キングセイコーはより広い層を狙ったコレクションだった、と言えるだろう。

キングセイコー SDKA003

キングセイコー SDKA003
当時を思わせる復刻デザインの限定モデル。その意匠は1965年の通称“KSK”を忠実に再現したものだ。もっとも精密なインデックスや立体的な針など細部の質はさらに向上している。自動巻き(Cal.6L35)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SS(直径38.1mm)。5気圧防水。世界限定1700本(うち国内700本)。38万5000円。

 キングクオーツの発売に伴い一度は姿を消したキングセイコー。しかし、2021年には限定モデルとして復活した。当時と同じく小型、薄型の造形を実現するために搭載されたのは汎用性の高いセイコーブランドの自動巻き。そしてデザインにも、最もキングセイコーらしいと言われた“KSK”のデザインが選ばれた。つまり新しいキングセイコーも、今までに同じく、広い層に向けた腕時計となったわけだ。セイコーはその狙いを次のように記す。「キングセイコーは性能・デザイン・品格を高次元で追い求めるメカニカルウオッチブランドです」。

 その性能を示すのがムーブメントである。かつてのKSKが載せていたのは手巻きのムーブメント。対して新作はすべて自動巻きに置き換わった。しかも日付表示付きの限定モデルは手巻き並みに薄い6L35を、日付表示なしのレギュラーモデルはやや厚みはあるものの、約70時間もの長い駆動時間を持つ6R31を搭載する。いずれもゼンマイの巻き上げ効率は高く、デスクワークでも十分に巻き上がる。

バリエーションの豊富さが、新しいキングセイコーの魅力である。右から、文字盤の筋目仕上げを強調したSDKS003、チャコールグレー文字盤のSDKS005、ブラウンのSDKS007、そしてレッドのSDKS009。いずれも文字盤を得意とするセイコーらしく、発色はかなり良好だ。標準で付属するのはステンレススティール製のブレスレットだが、オプションで5種類のストラップが購入できる。色で遊べるのも本作の新しい個性だ。
自動巻き(Cal.6R31)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。SS(直径37.0mm)。10気圧防水。各19万8000円。

 デザインも進化した。基本的な造形はKSKに同じだが、細かくアップデートされている。例えば、文字盤を覆う風防。以前はアクリルガラス製だったが、最新作は硬くて傷の付きにくいサファイアクリスタル製になった。立体的に加工するとコストはかかるが、セイコーはデザインのためにあえて採用したのである。とはいえ、ただ盛り上げただけだと斜めから見た際の時刻が読み取りづらい。対してセイコーは、風防の角を立てることで視認性を改善した。

KSKから引き継いだ特徴が、立体的なローレット加工が施された12時位置のインデックスだ。一方でオリジナルにはないイエローゴールドカラーの針、インデックスとシャンパンシルバーの文字盤が、価格以上の品格をもたらす。またボックス型サファイアクリスタルの造形を工夫することで、斜めから見ても高い視認性を持つ。

 さらに、キングセイコーに品格をもたらしたのが、グランドセイコー譲りの良質な外装である。例えば、立体的なドーフィンハンド。グランドセイコーほどの面は持たないものの、太くて長い針は、これがセイコーの高級時計であることを示すポイントだ。加えて、インデックスやケースの角を立てることで、新しいキングセイコーは価格以上の見た目を持つようになった。

裏蓋に刻印されたキングセイコーのロゴ。盾のモチーフは、オリジナルに従って可能な限り忠実に再現された。

 もっとも、単に上質なだけではない、というのが新しいキングセイコーのユニークさだ。世界中の時計メーカーの中で、現在、セイコーほど文字盤に対して新しい取り組みを続けるメーカーはない。そんな同社の作る腕時計らしく、キングセイコーにはさまざまなカラーの文字盤が与えられた。

キングセイコーの特徴である強く張り出した潔い直線的なラグ。キレのある稜線を作り出すように研磨されている。

 キングセイコーにはもうひとつの美点がある。それが小ささだ。日付表示なしは直径37㎜、日付表示付きの限定モデルは直径38.1㎜と日本人の腕にはちょうどいいサイズだ。時計の重さも一昔前のビジネスウォッチ並みに軽いのである。

 性能・デザイン・品格を高次元で追求した新しいキングセイコー。これは、決してクラシカルな復刻版ではない。今こそ求められる“ジャストサイズ”のミドルレンジウォッチなのである。

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