ボヴェ1822のオーナー、パスカル・ラフィが2025年10月に3年ぶりの来日を果たした。ボヴェの新規取り扱いを開始した和光を視察するためだという。かつてラフィは生産本数を絞り、オーダーメイドの比率を高めると宣言していたため、リテーラーを増やしたのは正直意外だった。
Photograph by Yu Mitamura
細田雄人(本誌):取材・文
Text by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年1月号掲載記事]
謙虚であり続けるそれこそが秘訣です

ボヴェ1822オーナー。1963年生まれ。休眠状態だったボヴェを買収し、2001年に単独オーナーとなる。06年にエボーシュメーカーだった旧ディミエ1738(現ボヴェマニュファクチュール)を傘下に収めるなど、買収によって垂直統合型のグループ作りに着手。わずか数年にして世界有数の高級時計専門マニュファクチュールに育てた。現在、ブランドは自社製パーツの外販や医療分野へのコンポーネント提供も行う。
「以前にインタビューを受けた22年時点でオーダーメイドの割合は40%に達していました。そして今でも変わらず約40%を維持しています」。しかし、これは停滞ではなく、進歩だとラフィは強調する。「なぜなら、3年前よりも内容がより高度になっているからです。つまりオーダーメイドで対応できる幅が広がり、より複雑な要望にも対応できるようになったのです」。そのきっかけとなったモデルがある、とラフィは言うと、ある時計を見せてくれた。
「これは25年に発表した『リサイタル30』という時計なのですが、オーダーメイドのために開発したモデルと言ってもいい存在です。なぜだか分かりますか? この時計はローラー式の都市表示機構を採用することでUTCだけではなく、世界中のサマータイムにだって対応できるワールドタイマーなのです。つまり各タイムゾーンの表記を好きな都市に変更することができるのです。もちろんケース素材を好きなものに変えたり、我々が得意とするミニアチュールペイントを文字盤に描いたりすることも可能です。この時計が登場したことで、我々の方針はより明確になったと言えましょう」

UTCのほかに、AST(米国夏時間)、EAS(欧州・米国夏時間)、EWT(欧州冬時間)の時刻表示に対応したワールドタイム。これらは2時位置のボタンで切り替え可能だ。加えて、UTCに対して30分単位の時差を持つ都市にも対応する。2025年のGPHGメンズ・コンプリケーション賞受賞モデル。自動巻き(Cal.R30-70-001)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約62時間。Tiケース(直径42mm、厚さ12.9mm)。30m防水。1496万円(税込み)。
ブランドの中でオーダーメイドの比重が高くなっているのであれば、なぜあえて和光での新規取り扱いを開始したのか。
「オーダーメイドを増やすという方針を打ち出した時に、販売拠点を30%減らしました。しかしそれは裏を返せば、残った70%の店舗はベスト・オブ・ザ・ベストということ。オーダーメイドは販売店経由でも受注するため、信頼のおける店舗は不可欠です。和光とパートナーシップを締結したのも、それが理由です」
明確な戦略を立て、着実に遂行していくラフィ。20年以上真摯に時計と向き合い続けてきた彼に、その秘訣を聞いた。
「謙虚であり続けることです。私は高級時計を知り尽くしているとは思っていません。だからこそ、知識を得ることがモチベーションになるのです。また、私は時計職人ではなくコレクターです。コレクターが本当に喜べる時計、専門家の助けがなくても楽しめる時計を作りたいと思い続けています」
インタビューの1カ月後、リサイタル30がGPHG(ジュネーブ・ウォッチ・グランプリ)でメンズ・コンプリケーション賞を獲得できたのも、この考えがあってこそだろう。



