ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックで、日本を熱狂させた3人のアスリートがいる。フィギュアスケートの鍵山優真と坂本花織、そしてスピードスケートの髙木美帆——。磨き抜かれた技と揺るぎない精神が頂点へと交差するその瞬間、3者の手首を飾ったオメガの時計もまた、静かに歴史の証人となった。

Text by Yukaco Numamoto
土田貴史:編集
Edited by Takashi Tsuchida
[2026年2月22日掲載記事]
全員がミラノ・コルティナでメダルを獲得! オメガ・アンバサダーそれぞれの活躍に感動!
さすが堂々としたたたずまい。オメガ・アンバサダー3選手がそろってメダルを獲得!
今大会もオリンピック・パラリンピック競技大会のオフィシャルタイムキーパーを務めるオメガ。実はこの3選手はいずれもブランドのアンバサダーであり、競技への挑戦と同じ真剣さで、それぞれの個性にふさわしい1本を選んでいた。彼らの氷上での活躍と、その手首を飾った時計が織りなす物語を紹介したい。
男子フィギュアスケート 鍵山優真
5歳からスケートを始め、幼い頃から才能の片鱗を見せてきた鍵山優真。世界選手権では4度のメダルを獲得し、グランプリファイナルでは3度、四大陸選手権でも2度のメダルに輝いた。2022年の北京オリンピックでは男子シングルで銀メダルを手にし、日本フィギュアスケート史上最年少のオリンピックメダリストという輝かしい記録を打ち立てた。その後も2024年・2025年の全日本選手権を連覇し、トップスケーターとしての地位を不動のものとしている。
6種類の3回転ジャンプと4種類の4回転を跳ぶ高い技術力を誇り、現在は5種類目となる4回転ルッツの習得にも挑んでいる。「ジャンプ、スピン、ステップ、それぞれの技術が完璧なスケーターを目指したい」と語る鍵山は、技術面での向上心に加え、その温かな人柄でも多くのファンを惹きつける。今大会の男子シングル競技では、佐藤駿の銅メダル確定に、本人より先に気づいてテンション高く喜ぶ姿がSNSで拡散され、競技の枠を超えた感動を呼んだ。
もちろん鍵山自身の成績も素晴らしく、男子シングルと団体戦の両種目で銀メダルを獲得。前回北京大会に続き、2大会連続でメダル獲得を果たした。
今回、鍵山がセレクトしたのは、深いサンブラッシュ仕上げのブルーが目を奪う「コンステレーション マスター クロノメーター41mm」だ。「直観で選びました。自然や星など綺麗なものが好きなので、星座という名のこの『コンステレーション』は自分にぴったりだと思いました」——その言葉通り、ベゼルの爪や針、インデックスに宿るセドナゴールドのアクセントは、星屑が散りばめられたかのように華やかに輝く。オメガ コーアクシャル マスター クロノメーター Cal.8900を搭載した精緻な機構と、氷の上で完璧を追い求める鍵山の眼差しが、静かに重なり合う。

自動巻き(Cal.8900)。39石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約60時間。SS×18Kセドナゴールド(直径41mm)。50m防水。159万5000円(税込み)。
女子フィギュアスケート 坂本花織
4歳でスケートを始めた坂本花織が、最初から異端だったわけではない。しかし2017年にシニアクラスへ移行した瞬間から、彼女は自らに課した試練が違った。ショートプログラムでは3本のジャンプをすべて後半に配置し、基礎点が1.1倍になるボーナスを最大限に活かす。フリーでも7本中5本を後半に跳ぶ——体力が尽きかけた終盤にこそ、最も難しい技を叩き込む。そのハイリスクな戦略が坂本の美学だった。2018年平昌オリンピックで初めて五輪の舞台を踏み、コロナ禍の逆境も力に変えた彼女は、2022年の北京オリンピックでフリーの自己ベストを更新して銅メダルを獲得。団体戦でもシーズンベストを叩き出し、日本初の団体メダル獲得に決定的な貢献を果たした。
2023〜2024シーズン、坂本花織はついに頂点へたどり着く。キャリアグランドスラムを達成し、世界選手権3連覇——それは浅田真央に並ぶ最多タイ記録であり、日本女子フィギュアスケートの歴史に刻まれた偉業だ。さらに彼女が特別なのは、どんな舞台でもリンクに笑顔をもたらすことを忘れないその人間力にある。チームのムードメーカーとして誰よりも明るく、誰よりも強く、多くの人に愛され続けてきた。
そして2025年6月、坂本は現役引退を表明した。「自分が今までやってきたことを全部出し切りたい。どの試合も悔いなく終えたい。今まで以上に完璧を求めていけたら」——その集大成の言葉を胸に降り立ったのが、ミラノ・コルティナの氷上だ。選手としての最後の舞台で、坂本は女子シングル銀メダルという結果を残した。引退後はインストラクターを目指すという。その鮮烈なジャンプとエネルギーを現役選手として見られる日は、もう来ない。だからこそ、あの氷上の輝きはいつまでも記憶に焼きついて離れない。
坂本が選んだのは、42mmの「スピードマスター ムーンウォッチ」だ。「憧れていたメンズライクな時計なので、気が引きしまります!」——そう語る彼女の笑顔は、どこか新しい自分へ踏み出す直前の高揚を帯びていた。人類が初めて月に降り立った歴史的瞬間を手首に刻んで飛んだ時計。フロンティアを切り開き続けてきたパイオニアスピリットは、攻め続けることを美学とした坂本花織の生き様と、これほどまでに重なり合う。

手巻き(Cal.)。26石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。SSケース(直径42mm、厚さ14.00mm)。50m防水。127万6000円(税込み)。
女子スピードスケート 髙木美帆
氷の上で記録は塗り替えられ続けてきた。2月17日、ミラノ・コルティナのオーバルで行われた団体パシュート——髙木美帆らがフィニッシュラインを越えた瞬間、通算10個目のオリンピックメダルという前人未到の数字が積み上がった。髙木にとっては1000m、500mに続く今大会3 個目のメダルであり、日本女子選手として夏季オリンピックを含めた最多記録をさらに更新した。どこまで行くのか、この選手は……。
専門は世界記録を誇る1500m、そして本数を積み重ねてきた1000m。その意味で500mでのメダルはいわば、髙木にとって想定外の喜びだ。「やってきた本数が違うので1000mの銅メダルは悔しい気持ちがあった。500mの銅メダルはまた違う思いがある」——笑顔の中に、誰より深い自己採点が透けて見えた。実は500mを回避してでも1500mへのコンディションを整える選択肢があった。しかし髙木は動じなかった。「団体パシュートだけで1500mにいくのはリスクが高い。個人種目を挟むことが1500mへの大きな意味になると思った」——金メダルを取るために、すべてを計算し尽くして500mに出走した。平昌・北京と2大会連続で銀メダルに終わった1500m。その雪辱への思いは、誰よりも熾烈に燃えていたのだった。
今シーズン、髙木の歩みは決して平坦ではなかった。それでも、彼女はオリンピックの舞台に立てたことに静かに安堵し、スタートラインに向かった。「北京の無観客を経験したからこそ、観客の声援が力になった」——その言葉は、空虚なリンクで孤独に闘い続けた者にしか言えない言葉だ。スタンドからの歓声を全身で受け止めながら滑ったミラノのオーバルで、髙木美帆はまたひとつ、自分だけの歴史を刻んだ。
髙木が選んだのは「シーマスター ダイバー300m ブラック ブラック」だ。「北京2022では『スピードマスター』を選んだこともあり、今回は違うコレクションにしたくて『シーマスター』にしました。力強さを感じるオールブラックに引かれ、とても気に入っています」——北京との連続性を断ち、新たな挑戦に臨む意志が、時計の選択にも滲み出ていた。ブラックセラミックのケースに、ダイアル・針・インデックス・ベゼルをすべてブラックで統一しながら、仕上げの異なる素材を巧みに組み合わせることで視認性を確保した一本。深海300mまで耐えるその堅牢さは、どんな逆境にも沈まず、浮かび上がり続けてきた髙木美帆の凄みそのものだ。

自動巻き(Cal.8806)。35石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約55時間。セラミックケース(直径43.5mm、厚さ14.47mm)。300m防水。150万7000円(税込み)。



