欲しい時計が買えないから自分で作る。そんな夢を形にしたのが、「モントレ オーディネール」だ。ブレゲの影響を受けつつも、そのスタイルはかなり野心的。しかも完成度は圧巻だ。

Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)
Edited by Yuto Hosoda(Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年3月号掲載記事]
ブレゲへの憧憬に満ちた日本生まれの超大作

自社製のトゥールビヨンを搭載した、ヌーヴェル・クロノメトリー初のモデル。文字盤はなんとJ.N.シャピロ製である。決して安価ではないが、現行品とは思えない凄みは唯一無二だ。手巻き。19石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約52時間。18KRGケース(直径38mm、厚さ11mm)。3気圧防水。予価3300万円(税込み)。
私事から始めることを許されたい。筆者の長年の友人に、櫻井教尊(のりたか)という男がいる。彼は単なる時計好きだったが、なぜか会社を辞め、自分で「ヌーヴェル・クロノメトリー」という時計メーカーを興してしまった。欲しい時計が買えないから、自分で作るのだ、と彼は言っていたが、まさか本当に実行するとは思ってもみなかった。
同社初のモデルが、普通の時計を意味する「モントレ オーディネール」である。そのデザインは、彼がかつて所有していた、オリジナルブレゲへのオマージュ。極端に小さなロゴや極めて密なギヨシェ彫りを持つ文字盤に、その強い影響を見て取れるはずだ。しかし、モントレ オーディネールは過去作の焼き直しでは決してない。その証拠に、7時位置に置かれたスモールセコンドは極端に広げられ、分・時針もギリギリまで細く絞られた。

加えてムーブメントに採用するのは、自社設計/製造のトゥールビヨンなのである。初作としては法外に野心的だが、その構成や、緻密なディテールに、時計全体が引きずられていないのは好感が持てる。加えて直径38mmのケースは、パッケージもかなり良いのである。友人というひいき目を抜きにしても、できたばかりの新興メーカーが(しかも時計業界の出身ではない人間の興した会社が)、これほどの時計を作り上げるとは予想外だった。なお実機では天文台クロノメーターよろしく、スモールセコンド上に黒い印が追加される。
現時点で公表された年産数は数本のみ。J.N.シャピロ製(!)の文字盤や、手作業で仕上げられたケースやムーブメントのため、予価も3000万円を超える。もっとも、このたたずまいが気に入った人にとって(筆者もそのひとりだ)、本作は間違いなく聖杯となるはずだ。



