2025年4月26日、東京・銀座にあるジャガー・ルクルト銀座並木ブティックでイベントが行われた。このイベントには、時計師であり、同ブランドの開発部門ディレクターである浜口尚大氏が登場。時計専門誌『クロノス日本版』編集長の広田雅将と、今年発表された「レベルソ」についてトークセッションした。このイベントに潜り込んだ編集部の鶴岡智恵子が、その様子の一端をお伝えする。
Photographs & Text by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
[2025年6月2日公開記事]
ジャガー・ルクルト 銀座並木ブティックでイベント開催
2025年4月26日、東京・銀座のジャガー・ルクルト 銀座並木ブティックでイベントが行われた。このイベントには今年の同社の新作「レベルソ」が一堂に会するとともに、これらの新作の見どころ、そしてジャガー・ルクルトの“技術屋らしさ”にあふれるテクニックを、同社の開発部門ディレクターである時計師、浜口尚大氏と、時計専門誌『クロノス日本版』編集長であり、浜口氏とは旧知の間柄でもある広田雅将がトークセッション形式で解説。さらにこのトークの後には、参加者が新作時計を含むジャガー・ルクルトの実機をタッチ&フィールしながら、両名、そしてブティックの従業員に質問をする時間が設けられた。

2019年より、ジャガー・ルクルトのプロダクト開発部門ディレクターを務める。10代でスイスへ渡ってから、ルノー・エ・パピやオーデマ ピゲ、ヴォーシェなど複雑機構を得意とするムーブメントメーカーやブランドで設計や改良、開発に携わってきた経歴を持つ。

時計専門誌『クロノス日本版』およびwebChronos編集長、広田雅将。本誌創刊第2号から主筆を務め、2016年より現職。時計に対する膨大な知識量から「時計ハカセ」の愛称を持つ。
ジャガー・ルクルトの新作時計を理解する
浜口氏と言えば、知る人ぞ知る日本人時計師だ。前述の通り、歴史に残る数々の複雑機構の開発に携わってきた経歴を持つ。私が浜口氏を知ったのは、まだ『クロノス日本版』編集部に入社する以前、一読者だった2022年だ。ジャガー・ルクルトのオンライン工房ツアーが開催され、webChronosの読者からも、抽選で当たった30名が参加できた(参考:https://www.webchronos.net/news/85035/)。応募してみたところ当選し、オンラインでツアーに参加。その時、広田とともに浜口氏も本社からオンラインで工房案内をしてくれたのだった。
さておき、そんな浜口氏が来日し、広田とともに今年のジャガー・ルクルトの新作時計について解説すると聞いて、イベントに潜り込まない手はない。会場の後ろの方からコッソリトークを聞いていたので、あまり良い写真がないのはご容赦を。
7つの特許技術が盛り込まれたチャイミング機構
トークはレベルソの歴史から始まり、これまでこのコレクションに搭載されてきた機構の説明、そして新作腕時計の解説と、幅広い話題が話された。中でも最も印象深かったのが、角形ミニッツリピーターの話題だ。
手巻き(Cal.953)。72石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KPGケース(縦51.1×横31mm、厚さ12.6mm)。3気圧防水。世界限定30本。要価格問い合わせ。
1994年、ジャガー・ルクルトは角形ミニッツリピーターの開発に成功した。今回の新作「レベルソ・トリビュート・ミニッツリピーター」は、そのオマージュとして、新開発ミニッツリピータームーブメント、Cal.953を搭載したものだ。
「ジャガー・ルクルトはチャイミング機構について、とても高い技術を持っているんです」と浜口氏が語ったように、本作はチャイミング機構だけで7つの特許が取得されている。そのうちの、一般的なミニッツリピーターと違って無音の時間が生じない「エンド・オブ・クォーター・メカニズム」、防水性を持たせた、かつ角型ケースでも音を響かせられるように形状が改められた「クリスタルゴング」および「トレヴュシェハンマー」が中心に語られた。円型ゴングではなく角型を使ったうえで、しかもケースに防水性を持たせなくてはならなかったことの、技術的な難易度の高さはとても興味深かった。

このレベルソ・トリビュート・ミニッツリピーターの実機はお目にかかれなかったものの、そのほかの多くの新作時計は実機を見ながら解説を聞くことができた。
もうひとつの目玉は「レベルソ・トリビュート・ジオグラフィーク」だ。こちらは実機をディスプレイに写しながらの解説が行われた。
手巻き(Cal.834)。18石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(縦49.4×横29.9mm、厚さ11.14mm)。3気圧防水。330万円(税込み)。
世界各都市の時間を確認できるワールドタイム機構を採用したことや、回転ディスク同士の噛み合わせを利用して日送りすることで省スペース化できた2桁のビッグデイトもさることながら、裏側の地球儀の製法に驚かされた。浜口氏は当初、この地球儀は蒸着などであしらおうと思っていたとのことだが、デザイナーから「レベルソのバックは金属が多いので、地球儀も金属でなければだめ」という要請を受け、サファイアクリスタルを彫りこんだうえで、そこにケースと同素材のメダリオンをはめ込むという手法でつくられたのだ。
ずっと触りたかった「レベルソ・トリビュート・モノフェイス・スモールセコンド」
トークセッションの後は、新作モデルを中心に、ジャガー・ルクルトの製品をタッチ&フィールした。この時間にも、浜口氏や広田に直接質問したり、言葉を交わしたりする様子が見られた。
トークセッションは控えめに目立たずに参加していたものの、なかなか実機に触れる機会のないモデルも多いため、タッチ&フィールは図々しく積極的に楽しんでしまった。中でもずっと気になっていた「レベルソ・トリビュート・モノフェイス・スモールセコンド」に触れ、試着までできたのがとてもうれしかった。

手巻き(Cal.822)。19石。2万1600振動/時。18KPGケース(縦45.6×横27.4mm、厚さ7.56mm)。3気圧防水。642万4000円(税込み)。
ブレスレットのつくりの良さや意匠としての完成度の高さは、すでにいろいろなジャーナリストから聞いていたが、ブレスレットのサイズ調整方法が個人的に最も刺さったポイントであった。
というのも、バックル部分に剣先を引き通し、任意の場所で固定させることができるため、カットしたりコマを外したりする必要がなく、メタルブレスレットの「手間」のひとつを解消しているためである。

時計業界にとっても有意義なイベント
ジャガー・ルクルト銀座並木ブティックで開催されたイベントについて紹介した。
原稿でも記したように、浜口尚大氏を初めて知ったのも、ジャガー・ルクルトで行われたイベントであった。普段は知ることのない“中の人(しかも、開発部門の責任者!)”から話を聞いたり、実機をタッチ&フィールできたりするこういったイベントは、ユーザーがそのブランドへの理解を深める絶好の機会となる。ブランドのもともとのファンはもちろん、ライトユーザーがブランドや時計に興味を持つきっかけとして、とても有意義だ。かく言う私も、そのひとりだ。
傑出した腕時計を製造していることに加えて、こういった時計業界にとって実りあるイベントを主催するジャガー・ルクルトという時計ブランドは、今後もいっそうこの市場でプレゼンスを高めていくに違いない。