先日、少し早い夏休みを取得して、マレーシアのランカウイ島に行った。東南アジアのリゾートのうちのひとつであるこの地は現在雨季で、海やプールで遊ぶ機会も多かったため水濡れは気になるものの、当然腕時計はお供として必須だ。今回も手持ちのものを持っていったのだが、それらの腕時計は旅用というわけではない。では、自分の旅スタイルにマッチした腕時計とは──? だいたいひとりとなる自分の旅に着用していきたい腕時計を、このぼっちリゾート中に考えてみた。
Photographs & Text by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
[2025年7月18日公開記事]
「一人旅時計」を一人旅中に考えた
7月初旬、少し早いが夏休みを取得して(BLK企業にもあるんです、夏休み)、マレーシアのランカウイ島に行った。ランカウイ島はマレー半島西海岸のアンダマン海に浮かぶ、99の島から成り立つエリアだ。日本からの直行便はないので、クアラルンプールまで行き、そこから飛行機またはフェリーで移動する(ちなみに格安航空券だったので、東京からクアラルンプールまでも乗り継ぎが必要だった)。自然が多く海に囲まれているため、誰もが知っている名所などはないものの、ゆったりとしたリゾートステイを楽しめる島だ。ホテルもちょっと奮発して、プライベートビーチや大きなプールがあるところにした。
そんな旅のお供の腕時計は、チューダーが日本で「チュードル」と呼ばれていた時代の“ミニサブ”こと「オイスター プリンス サブマリーナー」と、1960年代のオメガ「シーマスター」(と、某ブランドから旅先でインプレッションする用に借りた某ダイバーズウォッチ)。どちらも防水性能はあるものの、古い腕時計なので、暑くて湿気もある東南アジアの島には最適とは言い難い。もっとも、現代の加工技術によって優れた品質を均一に獲得した腕時計とはまた違った、良い意味で緩さのある腕時計は、気の張らない東南アジアのリゾートにピッタリだとも思う。
そこで、朝からビールを飲んではビーチサイドでゴロゴロしていた滞在中、「旅に最適な腕時計ってなんじゃらほい」と考えていた。
なお、以前webChronosで「旅に連れていきたい時計」をお題に、編集部メンバーが2本ずつ特定のモデルを紹介するという記事を掲載した(参考:https://www.webchronos.net/features/125508/)。この時も自分の旅のスタイルを考えながら選んだが、思えば当時は「誰かとの旅」を想定していた。きっとこの原稿を書いていた当時は、人と過ごすことを楽しめる日々を送っていたのだろう。そんな私は現在、失恋して、仕事の忙しさにかまけてしまったがゆえに友人関係は疎かになって、かと言って職場でも孤立していて……尾崎放哉の「咳をしても一人」状態の中、ふらりと一人旅にマレーシアのランカウイ島に来たという経緯があった。
だから、旅は旅でも、“一人旅時計”について考えており、思考した結果を本ブログに残そうと思ったのだった。なお、私自身の一人旅スタイルで着用したい腕時計という内容なので、読者の皆さんも「こんな一人旅時計が欲しい」があったら教えてください。

条件は3つ
前置きが長くなったが、私の“一人旅時計”の条件を考えてみたら、3つにまとめられた。
ひとつは傷が似合う、あるいは目立ちにくい外装であること。今回持参したふたつの腕時計にも言えるのは、緩いゆえに傷をあまり気にしなくてよく、また、もともと経年によってヤレの出たディテールが味を出しているため、多少の傷は目立たない。ひとりに限らず、私は旅の中で見るものに目を奪われて注意力散漫になりがちなことに加えて、朝起きてから就寝するまで常に、麦茶代わりであるかのようにビールを摂取しており、酩酊して体をどこかにぶつけてしまうことも多いので、ドレスウォッチは身に着けにくい。また、全面ポリッシュであったり、エッジの多い意匠を持った腕時計というのも、傷が目立つ傾向にある。「ずさんな使い方をしているくせに傷を気にするな」というご意見もあろうが、旅に集中するためにも、もともと傷の似合う、または目立ちにくい外装の腕時計を持っていけば過度に気にする必要がない。
とはいえもうひとつの条件として挙げたいのが、ツール感は少なく、ワンピースやドレスにも合わせやすい意匠を持っていること。私は一人旅でもドレスコードのあるレストランなどに行くことがあり(事前にひとりでも問題ないか問い合わせます)、そんな場に違和感のない服装を持参する。The ダイバーズウォッチやパイロットウォッチといった、あまりにもツール感の強い腕時計だと、そういった服装に合わせる難易度が高い。また、自分自身の好みも、ツールウォッチよりもシンプルでベーシックな意匠に寄っている。一人旅は当然ひとり時間がほとんどで(あまりコミュニケーション能力は高くなく……)、腕時計を眺めたり、リュウズを使って主ゼンマイを巻いたりして過ごすことも多いため、機能性も大切だが、やはり好きなデザインというのは重要だ。
最後のひとつは、シンプルな表示機構であること。ノンデイトだとより良いが、性能によってはデイトありの方が使いやすい。前述した好みの面もあるものの、時差の異なる地域に行き、数時間だけ時針を進める際など、操作が煩雑だと「たった数時間なのに……」と思ってしまう。また、リュウズをすべて引き出したと思ったら実はデイト早送りのポジションで、誤ってカレンダー操作禁止時間帯に送ってしまったという失敗事例も自分にはある。日常の落ち着いた、あるいはルーティンの中での操作ではあまりこういったやらかしをしたことはないが、旅行という非日常で少なからず疲れを覚えていて、こういった心理状態になるのかなと思う。
“一人旅時計”を3本選定
以上の3つの条件に当てはまる腕時計を3本選定してみた。
最初に挙げるのは、チューダーの「ブラックベイ ワン」。2023年に刷新する前のコレクションを所有しており、傷も似合うツール感を醸しつつも、小ぶりで薄いサイズ感がフェミニンな服装にも合わせやすい。2023年以降にラインナップされる5連ブレスレットによって、ドレッシーな印象を強めたのもポイント。

自動巻き(Cal.MT5201)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径31mm、厚さ9.5mm)。100m防水。57万9700円(税込み)。(問)日本ロレックス/チューダー Tel.0120-929-570
次はオメガ「シーマスター アクアテラ 150m」の、ターコイズカラーが特徴的な1本。デザイン的な好みもあるものの、このCal.8900は時針のみ単独で動かせるため、時差修正に便利だ。直径41mmと女性にとっては大ぶりかと思いきや、全長が短いために手首幅からの飛び出しがなく、装着感にも優れるのはさすがオメガ。

自動巻き(Cal.8900)。30石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径41mm、厚さ13.3mm)。150m防水。102万3000円(税込み)。(問)オメガ Tel.0570-000087
最後はブライトリングの最新作、「スーパーオーシャン ヘリテージ オートマチック 36」。これまで「スーパーオーシャン」というと、ツール感の強いイメージがあったものの、今年リリースされた本コレクションには小径のエレガントなモデルも加わっており、自分好みドンピシャだ。同社のクロノグラフであるCal.01をベースにしているため、カレンダー操作禁止時間帯がないのも良い。

自動巻き(Cal.10)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径36mm)。200m防水。77万円(税込み)。(問)ブライトリング・ジャパン Tel.0120-105-707
ちなみにGMTウォッチも入れようと思ったが、使ったことがあまりなく、今後いろいろ調べていきたい。
旅の、そして人生のお供に……
夏休みを利用して行ったマレーシア・ランカウイ島への一人旅の間、考えていた“一人旅時計”についてブログにまとめた結果、また欲しい腕時計が増えてしまった……
もっとも旅はもちろん、人生も楽しくしてくれる腕時計について思いを巡らすのは、自分にとっては大切な時間だ。次の一人旅、そしてそこに連れていく腕時計を考えつつ、日常に戻っていきたい。