ヨーロッパ、何で行くかが問題だ

LIFE編集部ブログ
2018.02.18

 時計が仕事なので、スイスを含むヨーロッパにはよく出かける。少なくとも、札幌や立川よりは行く機会が多い。時々羨ましがられるが、代われるならばぜひ代わってほしい。なにしろ、手続きだの乗り継ぎだのを合わせると丸一日、無駄に過ごさねばならないからだ。

 昔『銀河鉄道999』というアニメーションがあった。主人公の星野鉄郎が、美人のメーテルと汽車風の宇宙船に乗って、銀河系をさまようという話だ。あれほど長い時間列車に乗っていたら、主人公は頭がおかしくなるはずと思っていたが、果たしてその通りだった。十数年以上、長時間機上で過ごす生活を続けた結果、筆者は、頭どころか人生がおかしい。しかも、エコノミークラスの環境は鉄郎とメーテルが時間を過ごす客車よりよろしくないのだ。

 スイスに行き始めたころは、通称「スイスエアー」を使っていた。同社のエコノミークラスにはいろいろ思い出がある。成田発の便は、朝食にソース焼きそばが出てくる。確か肉が入っていないのは、コストの問題ではなく、スイス人全員がベジタリアンだから、なのだろう。一方、チューリヒからの帰国便は、朝食に卵料理が出てくる。筆者の知る限り、朝食のメニューは10年間変わっておらず、完食した記憶もない。味の分からない広田が食べないのはよほどであって、筆者はスイスエアーに乗らないことに決めた。やむなく乗る場合は、事前に浴びるようにお酒を飲み、すぐ寝ることにしている。

 そのスイスエアーの親会社はルフトハンザだ。かつてのフォルクスワーゲンみたいな乗り味と評したところ、飛行機好きに「それは悪くないだろう」と言い返された。しかし昔の実用車に半日以上も座っていられるのは、正真のマニアだけだ。筆者は遠慮申し上げたい。ちなみにルフトのエコノミークラスは座席が広いことで知られている。理由は簡単で、乗客のドイツ人が大柄だからだ。だが実際のところ、広くもなんともない。

 気分転換のため、エールフランスを選んだこともある。エンタメを除くサービスはドイツ系よりマシだが、パリのシャルル・ド・ゴール国際空港は乗り継ぎが最悪だし、今でこそマシになったが、ロストバゲッジも少なくない。これはロンドンのヒースロー空港にも言えることで、エールフランスもブリティッシュ・エアウェイズも、空港でうんざりしたくなければ、ビジネスクラス以上を選ぶしかないのである。フランスもイギリスも、私たちが思う以上に階級社会だ。

 紆余曲折を経て、最近は北欧系の航空会社、スカンジナビア航空とフィンエアーに落ち着いた。乗客の大半は「乗り馴れた」人たちであって、ありがたいことに、チロル風のチョッキを着た酒乱のツアー客や、モン・サン=ミッシェルの魅力を早口でまくし立てるOLは乗っていない。静かで気分がいい。食事もスイスエアーの1000倍はまともだし、ありがたいことに、乗り継ぎもきちんと機能している。もっとも不満なしとは言えない。エンターテインメントは少ないし、お酒が飲み放題ではない上(お金を払えば買える)、どれもうまくないのだ。つまり飛行機に乗ったら、お酒を飲んですぐ寝られないのである。確かフィンエアーだったと思うが、免税店で買った白ワインを機内で開けようと思ったところ断られ、代わりに大してうまくもない酒に、結構な額を払わされた。

 1月に開催された時計見本市は、スカンジナビア航空で出かけた。結果はおおむね満足だったが、十分にお酒が飲めないのはうれしくない。というわけで、3月の見本市はお酒がじゃんじゃん飲めるエアラインを選ぼうと考えている。しかし選択肢はもはや多くないし、失敗の可能性を考えると、考えただけで憂鬱になる。誰か、いいエコノミークラスのついたエアライン、ご存じありませんか?(広田雅将)