これでバーゼルワールドは生き残れる!?出展料返還問題決着と2021年1月のフェア開催中止!

FEATURE役に立つ!? 時計業界雑談通信
2020.05.09

ウォッチジャーナリスト渋谷ヤスヒトの役に立つ!? 時計業界雑談通信

5月7日、バーゼルワールド事務局の親会社であるMCHグループは、新しいメディアリリースを発表した。そのメディアリリースには、ビッグブランドの離脱の原因となったふたつの大きな問題が決着したと書かれていた。

2020年5月7日、MCHグループのオフィシャルサイトにおいて発表された「出展料返還問題決着と2021年1月のフェア開催中止」を伝えるメディアリリース。
渋谷ヤスヒト:取材・文・写真 Text & Photographs by Yasuhito Shibuya


バーゼルワールド事実上の「終焉」

 時計業界を牽引するビッグブランドによる突然のバーゼルワールド離脱の背景とその後について報告した4月25日公開の前回の本コラムにおいて、「バーゼルワールドは事実上、終焉した」とその趣旨をハッキリと書いた。

 だが、バーゼルワールドは運営事務局とその親会社のMCHグループにとって最大の収益源である。そのうえ、スイス第2の都市でありバーゼル・シュタット州の州都であるバーゼル市にとっても、1世紀以上も続いてきたこの時計見本市は、6月の「アート・バーゼル」と並んで、地元を潤す経済効果の高いイベントとして不可欠なものだ。このまま「終焉」させるわけにはいかない。

 何とかしてサバイバルさせなければ……。「ロレックス」「パテック フィリップ」を筆頭とするビッグブランドの一斉離脱という想定外の事態に、当の事務局やMCHグループはもちろん、地元の政財界の人々は当然ながらそう考えたに違いない。何も行動しなかったはずがない。

 そして、彼らの行動の結果だろう。5月7日、バーゼルワールド事務局の親会社であるMCHグループは、新しいメディアリリースを発表した。


出展料返還問題は決着!

 そのメディアリリースには、ビッグブランドの離脱の原因となったふたつの大きな問題が決着したと書かれていた。

 大きな問題のひとつが、中止になった「バーゼルワールド2020」の出展料(支払った出展費用)の返金問題だ。出展社委員会(正式名称はスイス出展社委員会)は「出展料の全額返金」を要求。これに対してバーゼルワールド事務局とMCHグループが提示したふたつの解決案は、いずれも出展社委員会の要求からは隔たりが大きなものであった。加えて、同事務局と同グループは、2021年1月に開催予定のフェア出展をキャンセルする出展社には一切返金しないと表明。このままだと返金問題で裁判沙汰になるのは必至だと思われた。

 しかも、出展社委員会の会長を務めるユベール・デュ・プレシックス氏は「ロレックス」の役員だ。果たして離脱した出展社の人物がどこまで出展社全体の返金交渉に関われるのか? 最終的には、出展社が個々に交渉することになるのではないか? いずれにせよ、このままでは泥仕合が予想された。

 だが、この問題は事務局の新たな返金条件の提案と、撤退するビッグブランドの妥協で一転、決着した。離脱を表明した「ロレックス」「パテック フィリップ」「シャネル」「ショパール」「チューダー」そしてLVMHグループ傘下の「ウブロ」「ゼニス」「タグ・ホイヤー」は「他の出展社が良い条件で返金を受けられる」ことができるように、出展料の全額ではなく一部の返金で友好的に合意したという。

2019年3月26日、バーゼルワールド2019のクロージング・カンファレンスで2020年以降の計画を語るバーゼワールドのマネージングディレクター、ミシェル・ロリス-メリコフ氏。今やこの頃とはすべてが一変した。

 シンガポールの時計メディア「SJX Watches」が、出展社からバーゼルワールド事務局に送られたメールを根拠に伝えるところでは、事務局は離脱を表明したビッグブランドに出展料の60%を、それ以外の出展社に対しては65%を返金するという。

 ビッグブランドは出展社全体の利益を考慮し、また泥沼の裁判のような事態を回避するための「大人の判断」をしたと言えるだろう。あくまで全額返金にこだわっても、すでに財政的に苦境に陥っているとの指摘もある事務局とMCHグループの現状を考えれば、争い続けるより、ここで手を打って未来のことを考えた方が賢明だ。


2021年1月開催も撤回!

 さらにもうひとつの大きな問題、事務局の勝手な決定である「2021年1月のフェア開催」も撤回された。そして、MCHグループのメディアリリースによると、バーゼルワールドのマネージングディレクター、ミシェル・ロリス-メリコフ氏は「今年の夏までに可能性のある次のフォーマット(注:すなわち新しいバーゼルワールドの実施形態)を決定、発表する」と述べている。

 出展社委員会との大きなふたつの問題が決着(解決)したことで、バーゼルワールドは「サバイバル」つまり存続できるだろうか?

2013年、バーゼルワールド会場が現在のデザインにリノベートされて以降、この場所を歩くときは人混みと格闘する覚悟が必要だったのだが……。

 確かに、バーゼルワールドの生命は「首の皮一枚」でつながったといえる。しかし再びビッグブランドを呼び戻すことは、このままでは九分九厘不可能だ。バーゼルワールドからの撤退とジュネーブへの「転進」という重大な決断はすでに行われてしまった。

 果たして、起死回生は可能だろうか? すべては夏までに発表されるという「新フォーマット」の中身にかかっている。


渋谷ヤスヒト

渋谷ヤスヒト/しぶややすひと

モノ情報誌の編集者として1995年からジュネーブ&バーゼル取材を開始。編集者兼ライターとして駆け回り、その回数は気が付くと25回。スマートウォッチはもちろん、時計以外のあらゆるモノやコトも企画・取材・編集・執筆中。



離脱が止まらない! バーゼルワールドに決定的に欠けているもの

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