40代の男性に向けて、IWCをエンジニア出身の時計ライター・佐藤しんいちがオススメする

FEATUREその他
2025.05.05

今回は、有名なトップガンとの共同開発モデルも並ぶ「パイロット・ウォッチ・クロノグラフ」や、耐磁性能を備えた名作で知られる「インヂュニア」、独自のベゼル構造を備えた「アクアタイマー」など、“技術屋”のイメージを持つ時計ファンも多いIWCに注目しよう。エンジニアとしてのバックボーンを持ち、IWCファンで、40代に突入したばかりの筆者が、40代男性に向けてお勧めするIWCのモデルを紹介する。

佐藤しんいち:文
Text by Shin-ichi Sato
[2025年5月5日公開記事]


IWCの歴史と魅力

 IWCは、1868年に時計職人のフロレンタイン・アリオスト・ジョーンズによりスイスのシャフハウゼンにて創業された。フロレンタインの狙いは、アメリカの先端技術と当時まだ賃金が安かったスイスの労働力を結び付け、アメリカ市場向けの高品質なムーブメントと時計部品を製造することにあった。また、スイス時計産業の中心地から離れたドイツ語圏のシャフハウゼンを選んだ理由は、時計作りの伝統が根付いていたことに加えて、19世紀に始まったライン川の水力発電によって安定供給される電力を活用した製造技術の導入が可能であったからとされる。すなわち、伝統的な時計技術をベースとしつつ、創業当初から機械化による製造の効率化が図られていた点が、IWCの特徴のひとつだ。

 IWCは、高い耐磁性能を備えたモデルの量産化、量産性と信頼性を両立した手巻きムーブメントの開発、現在でも基本設計が流用される高効率な自動巻き機構の開発、量産を前提とした永久カレンダー搭載ムーブメントの開発、チタンやセラミックス製ケースの採用などを実現してきた。いずれも工業的なアプローチによる“量産”を実現していることがポイントで、IWCに“技術屋”のイメージを持つ時計ファンも多い。


40代男性に向けたIWCのお勧めモデル

 一般的に、40代前半に役職や役割の転換期が訪れる。筆者がまさにその最中にあり、より大きなチームを任される方や、重要なプロジェクトのリーダーとなる方、実績を積んで独立、あるいは経営する会社の発展のタイミングという方も多いのではないだろうか。そのような節目に、その先の自身を支える1本、あるいは成功の記念となる1本を選ぶというのも良いだろう。

 そこで今回は、技術力に定評のあるIWCが擁するコレクションの中から、40代男性に向けてお勧めモデルを紹介してゆこう。

「ポートフィノ・コンプリート・カレンダー」Ref.IW359001

IWC「ポートフィノ・コンプリート・カレンダー」Ref. IW359001

IWC「ポートフィノ・コンプリート・カレンダー」Ref.IW359001
自動巻き(Cal.32150)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径41.0mm、厚さ11.7mm)。5気圧防水。158万4000円(税込み)。

 IWCの中で最もドレッシーなコレクションが「ポートフィノ」である。北イタリアに位置し、風光明媚な景観からリゾート地として知られる港町のポートフィノに因んだモデル名である。それを反映してか、質実剛健なツールウォッチのイメージの強いIWCの中でポートフィノは、シンプルかつエレガントなドレスウォッチコレクションとして人気を集めている。

 今回取り上げるのは「ポートフィノ・コンプリート・カレンダー」だ。本作の文字盤6時位置には、同軸による月表示と日表示を備え、12時位置にも同軸による曜日表示とムーンフェイズ表示を備える。本作の選定理由は、このような多機能をポートフィノのエレガントなスタイリングにまとめている点に加えて、これまでのIWCの歩みとの関りを感じさせるモデルである点である。そこでIWCの歴史を少しひもとこう。

 1970年代後半に経営面で苦境に立たされていたIWCは、技術的資産を活用しながらラインナップを拡充する試みの中で、懐中時計用ムーブメントを多機能化して腕時計に仕立てることを発案し、懐中時計を思わせるラウンドケースに細身のラグを取り付けたモデルをリリースする。そのデザインをベースに小型化や薄型化が図られ、後に人気コレクションへと成長することになる。これが現在のポートフィノの基礎を築くこととなった。

1984年に誕生した「ポートフィノ」。その後アップデートが加えられ、さまざまなモデルが製造されるが、エレガントなスタイルは現行モデルにも引き継がれている。

 ほぼ同時期にプレス技術や各種加工技術が向上し、手作業に頼るほかなかった精密な部品の製造について、形状の制約はあるものの量産化することが可能となりつつあった。これを受けて、IWCの技術者であるクルト・クラウスは、高精度なムーンフェイズ表示を備える永久カレンダー機構を、プレス部品の採用を前提に開発し、手に取りやすい価格でリリースすることに成功。これは、後年の時計技術に大きな影響を与えた。

 では、本作に話を戻そう。本作は、ラウンドケースと細身のラグというポートフィノのアイコニックなスタイリングを継承し、搭載される自動巻きムーブメントCal.32150は永久カレンダーに加えて、高精度ムーンフェイズ表示を実現している。IWCの歴史に紐付いたシルエットと機構を搭載した本作は、IWCを深く知れば知るほど魅力を再認識できる、味わい深いモデルと言えるだろう。長きに渡って付き合う1本を選ぶのならば、候補に入れていただきたいモデルだ。

「ポルトギーゼ・クロノグラフ」Ref.IW371605

ポルトギーゼ・クロノグラフ

IWC「ポルトギーゼ・クロノグラフ」Ref.IW371605
自動巻き(Cal.69355)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。SSケース(直径41.0mm、厚さ13.0mm)。3気圧防水。123万7500円(税込み)。

「ポルトギーゼ」は、1930年代にポルトガルの商人による「マリンクロノメーター級の高精度な腕時計が欲しい」という要望に応えるモデルとして誕生した。高精度の実現のために懐中時計用ムーブメントを採用したことで、腕時計としては大型のケースに、懐中時計やマリンクロノメーターを思わせるアラビックインデックスが組み合わされ、これが今日までデザインコードとして引き継がれている。そして、かつては超大型の特殊時計といった趣であったが、現在では時計デザインの大型化によって広く受け入れられ、人気コレクションとして親しまれている。

1939年製造と言われている、オリジナルの「ポルトギーゼ」Ref.325。

 今回取り上げるのは、クロノグラフを付加した「ポルトギーゼ・クロノグラフ」だ。ケース径41mmの特徴的な大きいサイズ感と、ケースいっぱいまで確保された文字盤がポルトギーゼらしさを生み出すポイントである。本作は、シルバーの文字盤にブルーの各針とアラビア数字インデックスが爽やかな印象で、カラーコーディネートに合わせてネイビーのレザーストラップが組み合わされる。6時位置にスモールセコンド、12時位置に30分積算計を備え、各インダイアルでインデックスが“見切れている”のが、懐中時計を思わせるディティールである。文字盤の見返し部には細かな秒スケールが刻まれ、正確な測時をサポートしてくれる。

 一般的にクロノグラフモデルは、航空機パイロット向けやモータースポーツ用途を想定したツールウォッチらしいデザインが多い中で、ポルトギーゼ・クロノグラフは懐中時計を思わせるエレガントなデザインが特徴だ。このようなエレガントさのあるモデルであればスーツスタイルには好適で、やや改まったビジネスシーンにもあなたをサポートしてくれることだろう。

「パイロット・ウォッチ・クロノグラフ」Ref.IW388101

IWC パイロット・ウォッチ・クロノグラフ IW388101

IWC「パイロット・ウォッチ・クロノグラフ」Ref.IW388101
自動巻き(Cal.69385)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。SSケース(直径41.0mm、厚さ14.5mm)。10気圧防水。105万2700円(税込み)。

 IWCは、古くはドイツ軍およびイギリス軍に空軍向けモデルを提供してきた歴史を持ち、2007年以降はアメリカ海軍の戦闘機戦術教育特別コース、通称“トップガン”(映画で有名な“あの”トップガンである)と協力関係にある。また、2018年以降はトップガン教官と共同でパイロットウォッチの開発を行っており、過酷な戦闘機のコックピット内でも正確かつ確実に機能する信頼性を実現するIWCの技術力が認められ、IWCはアメリカ海軍と海兵隊の全飛行隊の時計に取り組むことを許可された唯一の会社となっている。

“トップガン”モデルのケースバック。トップガンのロゴがあしらわれる。

「パイロット・ウォッチ・クロノグラフ 41」は、このような背景の下でラインナップされているクロノグラフモデルだ。IWCのパイロットウォッチの伝統であるダイヤ型針がアイコンである。ケースサイドからなだらかにつながる太いラグや、グローブ着用時にも操作しやすいリュウズとプッシュボタン、広く取られた文字盤、ゴシック体で太く、大きく描かれたアラビア数字インデックスなどが、ツールウォッチらしい頑強なイメージを生み出す。

 センター時分針とクロノグラフ秒針に加え、3時位置にデイデイト表示、6時位置にスモールセコンド、9時位置に12時間積算計、12時位置に30分積算計を備え、基本的な測時に関する表示は網羅されていると言えるだろう。

 今般取り上げたRef.IW388101は、鮮やかかつシックな印象のブルー文字盤モデルで、スモールセコンド針は視認性を高めるためにレッドに彩られており、挿し色となっている。文字盤のサンレイ仕上げが表情の変化を生み出し、ホワイトの各種表示で視認性を確保しつつ、モダンでエレガントな印象にまとめられている。

 昨今はスーツスタイルにスポーティーなモデルを合わせるスタイルが広まりを見せており、ケース径41.0mm、厚さ14.5mmのサイズ感が許容できれば、IWCの高い外装品質や、本作のシックな印象が合わさり、ビジネスシーンにもマッチすることだろう。

「インヂュニア・オートマティック 40」Ref.IW328907

インヂュニア・オートマティック 40

IWC「インヂュニア・オートマティック 40」Ref.IW328907
自動巻き(Cal.32111)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。SSケース(直径40mm、厚さ10.8mm)。10気圧防水。177万6500円(税込み)。

 2023年のフルモデルチェンジ以降、注目度の上昇を見せているのが「インヂュニア」である。現在のインヂュニアは、1976年にジェラルド・ジェンタがデザインした「インヂュニア SL(Ref.1832)」に回帰するデザインコンセプトであり、全体のシルエットだけでなく、ケースサイドとブレスレットをつなぐなだらかなラインや、ベゼル上のネジにその特徴が見て取れる。

 インヂュニアの名はドイツ語の技術者(エンジニア)を意味しており、1955年発表の初作では、磁気を発する機器に囲まれた環境でも精度を維持するべく、高い耐磁性能が与えられていた。そして、初作ではラウンドケースのクラシカルな外観であったが、ジェラルド・ジェンタによるデザインのインヂュニア SL(Ref.1832)によって、現在でも支持されるアイコニックなシルエットを獲得した歴史を持つ。

インヂュニア SL Ref.1832

ジェラルド・ジェンタがデザインを手掛けた、1976年発表の「インヂュニア SL Ref.1832」

 ピックアップする「インヂュニア・オートマティック 40」は、約4万4000A/mの高い耐磁性能と、ジェラルド・ジェンタによるデザインに加え、現在のIWCの高い外装品質を兼ね備えたモデルだ。文字盤は、水平と垂直のラインを組み合わせたグリッドダイアルで、光の反射を和らげて視認性を確保しつつ、特有のテクスチャーを生み出している。オリジナルのデザインに対してリュウズガードが追加され、人間工学に基づいて着用感の向上が図られているなど、細やかな配慮と改良も加えられている。

 インヂュニアの出自がエンジニアに向けたモデルであり、モデル名にそれが表れていること、現代のエンジニアにも求められる耐磁性能を備えていること、時計仕上がり厚さが10.8mmと薄手に仕立てられておりスーツスタイルにもマッチすることなどから、技術屋のイメージのあるIWCに魅力を感じるエンジニアには、ぜひともお勧めしたいモデルである。

「アクアタイマー・クロノグラフ」Ref.IW376806

アクアタイマー・クロノグラフ IW376806

IWC「アクアタイマー・クロノグラフ」Ref.IW376806
自動巻き(Cal.79320)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約44時間。SSケース(直径44mm、厚さ17mm)。30気圧防水。111万1000円(税込み)。

 IWCの技術の幅広さが分かるのが「アクアタイマー」である。紹介する「アクアタイマー・クロノグラフ」は、30気圧の高い防水性能を備え、回転式ベゼルとクロノグラフ機能を備えたダイバーズウォッチだ。太い時分針と明確なインデックス、操作性を高める大きなノッチを備えたベゼルなど、現在のアクアタイマーのデザインコードが反映されており、ストイックなツールウォッチのテイストを生み出しつつ、それらが他のダイバーズウォッチに無い魅力となっている。

 そして注目は回転式ベゼルの構造である。本作は、ケースの外側に配された可動するアウターベゼルを操作すると、風防内のインナーベゼル(表示)が回転する仕組みとなっている。この機構を実現するのが9時位置の内部に収められたワンウェイのクラッチ機構で、アウターベゼルを左回りに回転させた時、クラッチ機構は締結状態になり、インナーベゼルは左回りに回転する。一方、右回りでは動きが伝達されずにインナーベゼルの逆回転防止となる。この特徴的なクラッチ機構部分の防水性を確保することで、本作は30気圧の防水性能を実現している。

 この機構を採用するメリットは、一般的なアウターベゼルと同等に扱える操作感の高さと、インナーベゼルが時分針と近いことによる視認性の高さを両立することである。複雑な構造であるが、信頼性が重要視されるダイバーズウォッチでこれを実現するIWCの技術力の高さが光るモデルである。

「アクアタイマー」のダイビングベゼル部分のパーツ。回転するアウターベゼルによってインナーベゼルも操作するが、左回りでのみ連動し、右回りにしてもインナーベゼルは動かず、誤操作防止の役割を果たしている。参考:https://www.webchronos.net/features/76040/

 現在のIWCのラインナップでは回転式ベゼルを採用するモデルはアクアタイマー以外に無く、過去を振り返っても一部のパイロットウォッチで見られる程度で数少ない。回転式ベゼルまでフル活用した時間管理が必要な方や、水に濡れる機会の多い方には、信頼性の高いベゼル機構と防水性の高さによって本作は活躍してくれるはずだ。

 なお、アクアタイマーが現在のスタイリングと特徴的なベゼル機構を備えて登場してから10年が経過している。IWCは、各コレクションを順にフルモデルチェンジする傾向があり、そろそろアクアタイマーの順番が来てもおかしくないと筆者は考えている。現在のアクアタイマーのスタイリングに心引かれている方には、店頭でチェックしてみることをお勧めしておこう。



Contact info:IWC Tel.0120-05-1868


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