「ジュネーブ・ウォッチ・デイズ」は「バーゼルワールド」後継イベントになれるか?

FEATURE役に立つ!? 時計業界雑談通信
2022.10.16

今回のテーマは前回の予告通り、3月末から4月初旬にスイス・ジュネーブで開催された「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ(W&WG)2022」に続き、5カ月後の8月29日〜9月1日にやはりジュネーブで開催された「ジュネーブ・ウォッチ・デイズ(GWD)2022」の価値や今後の可能性について考察する。

3年待ち、5年待ちは当たり前。高級時計「空前の人気」はいつまで続く!?

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渋谷ヤスヒト:写真・文 Photographs & Text by Yasuhito Shibuya
(2022年10月16日掲載記事)


取材を検討したものの……

 はじめにお断りしておくが、筆者はこのイベントを取材していない。もちろん、W&WG 2022に続いて現地取材を検討したが、とても無理だと判断した。スイスへの入国はフリーパスだが、8月末時点ではまだ帰国時の「出国前72時間以内の検査証明の提出」という制限が残っていた。

 4月のW&WGの際は、出国前72時間以内のPCR検査を一発でパスできたが、だから「今回も大丈夫」とは考えられない。4月には時計雑誌の編集者や時計ブランドの方、販売店の方でPCR検査が何度も陰性にならず、3週間も現地滞在を余儀なくされたという実例がある。

 この陰性証明も問題だったが、取材に行かなかった最大の理由はやはり「円安=スイスフラン高」による渡航滞在費用の高騰だ。円/スイスフランレートは4月よりさらに酷いことになり、ユーロと同じ水準になった。春の段階でもある程度の赤字は覚悟したが、赤字は予想以上だったので、一人会社の経営者兼従業員としてはもはや許容限度を大きく超えることは確実。これで新型コロナウイルス陽性=長期滞在となったらアウトだ。

 また参加を検討した段階で「独立系も含めて約30ブランド」という参加ブランド数や開催方法も取材を断念した理由だ。このフェアの特徴は①グローバル、②分散型、③自主運営、④一般公開の4つ。

 詳細を検討すると、GWDはかつてのSIHHの際にバーゼルワールドに出展するLVMHグループのブランドがレマン湖畔、モンブラン通りの船着き場「ロトンド・ドゥ・モンブラン」で開催していた船上イベントと周辺のホテルで行っていた展示会と変わらない。もちろん参加ブランドはそれより多いのだが。

 そのため、GWDの公式プレスリリースや公式ビデオコンテンツ、さらに海外の著名な時計ウェブサイトやジャーナリストのブログなどから得た情報を参考にしている。このことをあらかじめお伝えして本稿を始めたい。


33ブランド、1200人の時計業界関係者、2500人の時計ファン

「ジュネーブ・ウォッチ・デイズ(GWD)2022」の開催期間は8月29日(月)から9月1日(木)の計4日間。終了後にGWD事務局が配信した公式プレスリリースによると、イベントの参加ブランドは33ブランド。各ブランドが独自に用意した展示スペースとは別に、エキシビション会場では52個のショーケースが設置され、計187本の新作時計がお披露目されたという。

 またエキシビション会場への来場者数は、全世界から時計バイヤーやジャーナリストなど時計業界関係者が約1200人、時計コレクターやファンなどが約2500人だったと発表されている。

 参加ブランドで中核になったのは創立パートナーの「ブライトリング」「ブルガリ」「ドゥ・ベトゥーン」「MB&F」「H.モーザー」「ユリス・ナルダン」そして「ウルベルク」の7ブランド。そしてコントリビューティング(貢献)メンバーとして「ジェイコブ」が加わる。

 さらにアソシエーテッド(関連)ブランドとして13ブランドとフィリップス(時計オークション部門のBACS & RUSSO)が参加した。さらに、このイベントは冒頭に掲載した公式ウェブサイトの画像にジュネーブの紋章が入っていたことからもわかるように、ジュネーブ州とジュネーブ市の後援を受けている。

「ジュネーブ・ウォッチ・デイズ 2022」へ出展した33ブランドのVIPたち。夏なのでみなカジュアルな服装だ。

 1200人という時計業界関係者の来場数を見てもわかるように、今春に初めてリアル開催されたW&WG 2022の会期全体の来場者総数約2万2000人(主催者発表)と比較すると規模がまったく違うし、オークションハウスのフィリップスが参加していることから推測できるように、これは一種の時計ファン、コレクターイベントの性格も濃いと言える。8月末から9月初旬という開催時期も観光のオンシーズンで、時計業界においてメインのイベントとして今後拡大する可能性は低い。

 また、スイス時計“発祥の地”であるジュネーブは時計オークションのホームタウンでもある。今回GWDに参加したブランドの限定新作には即完売してコレクターズピースになるもの、というか、そうなることを意図して企画・開発されたものも多い。このイベントの目玉が、フィリップス・アソシエーション・ウィズ・バックス&ロッソが主導する「富裕層にとって投資価値のあるモデル」の購入の場になることも考えられる。

 今年2022年のGWDが成功を収め、今後も継続することは間違いない。だが、それはこうした特別なフェア、特別な機会になるのではないか?


やはり「バーゼルワールド」後継イベントが必要だ

 時計業界にとって、特に中堅ブランドが切望しているのは、やはり参加費用もリーズナブルな「見本市」形式の展示会だろう。自社で会場を探して運営する、というGWDの開催形式は、W&WGほどではないが、やはり参加のハードルが高過ぎる。

 日本のジャーナリストとしては、やはりW&WGと同時期にジュネーブで開催されるよりカジュアルなフェアがありがたいし、そうでなければ取材は難しい状況になっている。

Photograph by Yasuhito Shibuya
かつてスイス・バーゼルで毎年春先に開催されていた「バーゼルワールド」。もはやこの“バーゼル復活”を信じる人は誰もいない。

 GWDはジュネーブ州とジュネーブ市の後援を受けているが、スイス時計協会FHのようなよりフラットな団体が主導する時計フェアがやはり必要不可欠なのではないか?

 このままではビッグブランドと、最高峰の独立系ブランドにしかビジネスチャンスは確保されない。中堅クラスの時計ブランドが小規模なフェアのパッケージを作って世界を巡回する形式など、スイス政府主導でこうした時計ブランドのビジネスを支援する必要があると思う。


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