ドルチェ&ガッバーナ ファット・ア・マーノが導く熱情の造形

FEATURE本誌記事
2022.12.09

時計専業ではないクチュリエやハイジュエラーが、本格的な時計作りを試みることも、今や珍しくはなくなった。その最後発組であるドルチェ&ガッバーナも、スイスとのパートナーシップでエクスクルーシブムーブメントを開発。しかしイタリア国内で作られる外装の仕上げは、一般的なスイス製高級時計とは明らかに異なる趣を醸し出す。それはイタリア伝統の“ファット・ア・マーノ”=手作り精神が導き出す、情熱的な造形美そのものだ。

アルタ オロロジェリア フェデリーコ 2世

アルタ オロロジェリア フェデリーコ2世
2020年発表のミニッツリピーター懐中時計。DGロゴを配したフライングトゥールビヨンを搭載。ケースにはルビー9個(3.12ct)を載せる。手巻き(Cal.DG13.02)。29石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約90時間。18KYG(直径46mm)。世界限定1点。1億425万円(税込み)。
星武志:写真 Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
鈴木裕之:取材・文 Edited & Text by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2023年1月号掲載記事]


〝ファット・ア・マーノ〞(手作り)の伝統と、スイスの技術の融合

 2012年から始まったオートクチュールのコレクション「アルタ モーダ」が10周年を迎えたドルチェ&ガッバーナ。この成功と歩みを合わせるように、17年には同社初となる高級時計のコレクション「アルタ オロロジェリア」が発表された。その名の通り、当初はユニークピースのみのハイエンドラインとしてスタートしたが、19年からは各モデル10本という少数生産体制を貫く「マニファットゥーラ イタリアーナ」も展開され、同時にエクスクルーシブムーブメントの共同開発にも成功している。

アルタ オロロジェリア フェデリーコ 2世

「フェデリーコ2世」が搭載するCal.DG13.02。受けに施された彫金は、レニャーノの工房で手彫りされた後、スイスに運ばれてムーブメントに組み込まれる。

 ドルチェ&ガッバーナのハイジュエリー工房は、ミラノ北西部の小都市レニャーノに置かれており、ここに併設された時計工房が、ドルチェ&ガッバーナ流のウォッチメイキングを司る拠点となっている。イタリアの伝統に沿った金細工を行う彫金部門と宝石学が主体で、ルネッサンス期のオールドニュアンスを受け継ぐ独特な作風が、時計にも受け継がれているのだ。特にイタリア国内で生産されるケースやダイアル、針、クラスプなどといった外装部品の仕上げは、スイス製高級時計のそれとは明らかに一線を画し、ハンドメイド故の大胆な揺らぎ感が、他にはない大きな魅力となっているようだ。

 2020年に発表された「フェデリーコ2世」は、30mm径の手巻きミニッツリピーターを収めた懐中時計で、脱進機にはフライングトゥールビヨンを搭載。ダイアルには、インクルージョンを多く残す天然ルビーが用いられ、ハンドメイドで透かし彫りされたケースの彫金と見事な調和を見せる。ケースバックなどに施された粗めのサテナージュは、スイスでの一般的な手仕上げとは明らかに表情が異なり、まるで手彫りのような質感さえ漂わせる。ムーブメント開発は、コンプリケーションやカスタマイズを専門に手掛けるジュネーブのレジェンスとパートナーシップを結んでおり、ここが最終的なケーシングまでを担当するラボラトリーとしての機能も持つ。

アルタ オロロジェリア フェデリーコ 2世

ドルチェ&ガッバーナの基幹ムーブメントとなるCal.DG 01系。2針のマイクロローター自動巻きで、受けの仕上げはロジウムとゴールドの2種。2万1600振動/時のロービート機だが、全巻き時の主ゼンマイトルクは380g・mm、テンワの慣性モーメントは10mg・㎠もあり、機械としての基礎体力はかなり高いと言えるだろう。

 2017年に初めて、レジェンスとの共同開発を成功させたドルチェ&ガッバーナは、そのノウハウを活かして、19年にはマイクロローター自動巻きのエクスクルーシブムーブメント「DG01系」を発表。これを搭載するマニファットゥーラ イタリアーナの展開を開始した。当初はイタリア各都市のイメージをデザインに落とし込みその都市名を冠していたが、次第にそうした約束事もなくなり、より自由なインスピレーションに基づく作品作りを展開している。

 レオナルド・ダ・ヴィンチの没後500年となる19年に発表された「レオナルド」では、ミラノのアンブロジアーナ図書館に所蔵されるアトランティコ手稿に沿ったダイアルデザインを模索。加えてダ・ヴィンチ由来のヘリカルギアを用いた24時間表示を2時半の位置に加えている。

 21年発表の「サン・マルコ」は、最もベーシックな「キャリバーDG01.01」(2針の12時間表示)を搭載するが、ダイアル外周には天然のイストリア石を用い、中央部には粗く砕いた天然のラピスラズリを樹脂で塗り固めている。彫金された12星座のモチーフは、サン・マルコ広場の時計塔からインスパイアされたものだ。

 イタリア流の〝ファット・ア・マーノ〞(手作り)の伝統と、スイスの技術の融合。その個性は他の追随を許さない。

マニファットゥーラ イタリアーナ レオナルド、マニファットゥーラ イタリアーナ サン・マルコ

(左)マニファットゥーラ イタリアーナ レオナルド
レオナルド・ダ・ヴィンチの遺した手稿からデザインを構築。へリカルギア駆動の24時間表示やムーンフェイズを備える。自動巻き(Cal.DG 01.05)。38石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約55時間。18KPG(直径45mm)。世界限定10本。895万円(税込み)。
(右)マニファットゥーラ イタリアーナ サン・マルコ
サン・マルコ広場の時計塔がモチーフ。ダイアルのイストリア石は、ヴェネツィアの建物と同じ石切り場から採石されたもの。自動巻き(Cal.DG 01.01)。30石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約58時間。18KPG(直径42.5mm)。世界限定10本。550万円(税込み)。



Contact info: ドルチェ&ガッバーナ ジャパン Tel.03-6833-6099


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