セイコーの高級クロックブランド、デコール・セイコーから新開発の掛け時計「息吹」が誕生

FEATURE本誌記事
2023.03.29

クロックを製造するセイコータイムクリエーションの源流、かつての精工舎が創業してから130年の節目を迎えた2022年。日本の高級クロックブランド、デコール・セイコーから新開発の掛け時計「息吹」が誕生した。約半世紀ぶりによみがえったセイコーの機械式クロックはゼンマイと振り子でゆったりと動き、刻音を響かせながら悠久の時を刻むのだ。

デコール・セイコー「息吹」

息吹
鍵でゼンマイを巻いて振り子を動かし、カチコチと音を立てながら時を刻む。往年のクロックの姿を今によみがえらせた「息吹」は、天童木工が手掛けたウォルナット製の外装と洗練されたデザインで、リビングにもなじむ。手巻き(Cal.19300)。4石。5554振動/時。パワーリザーブ約192時間。ウォルナット(縦586×横194mm、奥行き99mm)。88万円(税込み)。
土井康希(本誌):取材・文 Edited & Text by Kouki Doi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年5月号掲載記事]


ゼンマイを巻いて吹き込む機械式クロックの〝息吹〟

 セイコーの創業者、服部金太郎が31歳の若さで1892年に設立した精工舎。定時法の定着とともに掛け時計が家庭にも普及し、最終的には国内最大の生産量を誇るクロック工場となった。このような歴史を持つ精工舎を源流に持ち、現在でもクロックの製造を行うのがセイコータイムクリエーションだ。精工舎が創業して130年を迎えた2022年、セイコータイムクリエーションは機械式クロック「息吹」を完成させた。

「息吹」の機械体はセイコータイムクリエーションで組み立てを行うが、調整の工程を担うのはわずか2名の時計師だ。同社では機械式クロックのレストアサービスを行っており、戦前のものでも対応可能。技能を継承するため、現在、若手技術者の育成にも努めているという。

 なぜ今、機械式なのか。本作のコンセプトは「世代を超えて代々受け継がれる環境にも優しい時計」。正確さが求められる現代において、ほとんどのクロックは電池で駆動するクォーツ式である中、本作は機械式ならではの趣を感じさせてくれる。そして精工舎時代に培った“アナログ”な技術の必要性を見直し、本作を通じて技能の継承を行うという点においても付加価値を生み出している。

特筆すべきは新規設計を行ったムーブメント

キャリバー19300

機械体の前面プレートを透明材にしたもの。設計はベースから大きく変えていないが、個々の部品を見直すことでスペックアップを図った。

 特筆すべきは、約半世紀ぶりに新規設計を行ったムーブメントだ。キャリバー19300と名付けられた機械体は、20年から開発を始め、精工舎時代に製造していたホールクロック用のキャリバー10001をベースにした手巻き仕様。振り子式の脱進機で時を刻む姿は当時のままで、1.3秒周期の心地よい刻音を響かせる。

「息吹」の巻き上げ用の鍵

「息吹」には、ゼンマイを巻き上げるための鍵が付属する。弱い力でも回しやすいようにデザインされ、創業時のシンボル「丸角Sマーク」があしらわれている。

 当然ながら改良が加えられており、そのひとつが伝達効率を考慮した歯車の歯型だ。かつて精工舎の設計部長であった土屋榮夫が、1994年の時計学会誌で発表した設計理論を応用した通称「土屋式歯型」を応用することで、通常のものと比較して伝達効率が約3%向上したという。それから歯車類の動作における摩擦や摩耗の対策として、クロックでは採用されることの少ない人工ルビー製の穴石を、ガンギ車と4番車の軸受けとして組み込んでいる。加えて、約8日間の駆動時間を持たせながらも、ゼンマイの幅を抑えて巻き上げの感触をやわらげるという工夫も見られる。コハゼのクリックを感じながらも軽く巻けてしまう感覚は、現代らしい設計思想が反映されていることを実感できる部分である。

キャリバー19300

ゼンマイから動力が伝わる流れを図示したもの。電池を必要としないため、メンテナンスを行えば世代を超えて時を刻み続ける。

外装の木枠は、日本の家具メーカーである天童木工が手掛ける

 日本の美意識を反映した外装の木枠は、無駄を削ぎ落としたシンプルな佇まいだが、これは日本の家具メーカーである天童木工が手掛けたもの。木材を曲げて加工する「プライウッド」技術を反映し、側面から背面にかけてカーブしたデザインは本作を象徴するものとなっている。薄くスライスした木材を何枚も重ねて、熱と圧力を加えながら専用の治具を使って曲げてゆくという工程は、熟練の家具職人の手によるもの。国内外で高い評価を得ている、柳宗理デザインの代表的なチェア「バタフライスツール」も、この工程によって生み出された。本作も通常の箱型とは違い、木枠の内部に入る光が柔らかな陰影を作り出すのだ。

シンプルを極めた文字盤

 そして、この木枠と調和するのはシンプルを極めた文字盤。表面はアイボリーに印刷され、アラビックインデックスのサイズを小さくすることでヴィンテージ感を払拭し、よりモダンな外観となった。また下部の録ろく見み飾り板にも注目したい。木枠と機械体の垂直度合いを確認するためのプレートには、かつて服部金太郎が精工舎を設立した時代、商標として使用していた「丸角Sマーク」をあしらい、当時の技術を継承するという本作のテーマが反映された証拠でもある。ゼンマイを巻いて振り子を動かし、ゆったりと時を刻む。「息吹」は、そんな往年の機械式クロックの姿を今に伝える存在なのだ

デコール・セイコー「息吹」の文字盤

木製の枠との調和を考慮したアイボリーの文字盤。インデックスはプリントだが、印刷を2度重ねるためしっかりと厚みのある印字だ。直接、針を指で回して時刻合わせをする構造も当時と同様で、指の腹にフィットする先端形状である。


和光本店で体感する「息吹」

「息吹」を取り扱う店舗は、銀座の和光本店だ。セイコーの前身である服部時計店の小売部門を継ぐ和光は、デスククロックからホールクロックまで、さまざまなジャンルのクロックをそろえる。

和光本店

和光本店
〒104-8105 東京都中央区銀座4-5-11
問い合わせ/03-3562-2111
営業時間/10:30~19:00 ※2023年4月1日(土)より、11:00~19:00に変更となります。



Contact info: セイコータイムクリエーション クロック お客様相談室 Tel.0120-315-474


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