スマートウォッチ、”嗜好品”と”デジタル機器”を両立するふたつのアプローチ

FEATUREウェアラブルデバイスを語る
2023.04.08

Apple Watchを自分らしく使いこなしたいと考える消費者に向け開発されたのがApple Watchウェアというジャンル。それを確立したゴールデンコンセプトとより身近にするハンブルリッチについて考える。

ゴールデンコンセプト

本田雅一:文
Text by Masakazu Honda
2023年4月8日掲載記事


ウェアラブルデバイスという存在

 腕時計をファッションの一部、嗜みのひとつとして捉えてきた人たちにとって、大多数のスマートウォッチ、ウェアラブル製品に、どこかシックリとこない感触を覚えているかもしれない。

 それでもスマートウォッチを使う、あるいは興味を持っているのは、その利便性がこれまでの腕時計とは異なる次元で提供されているからに他ならない。
両立できれば最高だし、なんなら両方を同時に使いこなしたいものだが、手首は人間に2カ所しかない不動産でもある。

apple watch

 しかも多くの場合、その片方にしか装着しないものだ。そんな唯一の場所に、利便性を求めたウェアラブルデバイスを置くのか。あるいは身につけるアイテムとしての価値を優先するのか。

 以前ならば見過ごされていたかもしれない選択を、ウェアラブルの時代には突き付けられている。


スマートウォッチを洗練させるのか、スマートウォッチに洗練された外装を与えるのか

 毎年のように機能が洗練され、スマートフォンに集まってくる情報をさりげなく、しかしより濃い密度でユーザーに伝えてくれるだけでなく、日々の決済などにも活用されるスマートウォッチに一度使い始めれば手放せない利便性があることは疑いようがないところだ。

apple watch

 そんなスマートウォッチに、デザインや作り手の精神が製品そのものを表現しようと取り組んできたブランドは少なくない。ルイヴィトン、TAGホイヤー、モンブランなどは、真っ先にこの領域に投資をしてきたし、カジュアルな領域ではフォッシルが多様なファッションブランドとのコラボレーションで、さまざまなスマートウォッチを提案してきた。

しかし時代を超え、普遍的な価値を提供してきたブランドと最新テクノロジーを駆使した製品は相容れない要素もある。

 では現代的な機能を背景に伸びてきた新興ブランドはどうだろう?

 スポーツの領域ではガーミンが本格的なアスリート向けウォッチのジャンルで台頭。さらにその機能性はそのままに、装着感や軽さ、それにサーフィンやゴルフなどで手放せない機能を開拓することで”アスリート向け専用”ウォッチの領域を超え、新しいブランドを切り拓いた。

 ガーミンの“MARQ”シリーズは、そうした取り組みが生み出した結晶だ。GPS技術を核にしたナビゲータのテックカンパニーが、さまざまな市場環境の変化の中で、伝統的な腕時計の市場でブランドを確立したのだから、なかなかの興味深いストーリーだ。

ガーミン

 しかしガーミンが支持されたのは特定領域の使い方を掘り下げる深みがあったからに他ならない。かつて航空パイロット向け、ダイバー向けなど、さまざまな領域に特化することで生み出されたブランドと同様の道を、デジタル領域でなそうとした最初の会社とも言える。

 言い換えれば普段着のスマートウォッチとなれば、そこにApple Watchが圧倒的な完成度と市場での強さで中心に居座っていることは説明するまでもない。バッテリー持続時間の短さなどいくつかの不満はあっても、トータルでの利便性の高さと使いやすさ、わかりやすさは群を抜いている。

 そこでApple Watchと正面から戦うのではなく、Apple Watchを自分らしく使いこなしたいと考える消費者に向け開発されたのがApple Watchウェアというジャンルだ。

 つまり、核となるコンポーネントを共通とした上で、外装は別に選ぶという選択肢は合理的と捉えることもできる。

 しかし筆者はどちらかと言えば、Apple Watchウェアというジャンルに対してあまり肯定的ではなかった。精密に設計、加工されたApple Watchウェアは、緻密な作りであるがゆえに組み立てにはそれなりの注意深さと手間が必要“だった”からだ。