独立系ブランド、ダニエル・ロートがLVMH傘下で再始動

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2023.04.12

2023年、20世紀の時計産業に大きな影響を与えた独立系ブランド「ダニエル・ロート」が、高級時計業界への復帰を果たす。LVMH グループの「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」に移籍し、ふたりの偉大な時計師ミシェル・ナバスとエンリコ・バルバシーニの支援を受けながら、再始動することになったのだ。

ダニエル・ロート

トゥールビヨンの製作を得意とするダニエル・ロート。ブランドを設立した年に発注を受けたトゥールビヨンモデルは、ブランドの発展に大きく貢献した。当時も今も、楕円型のダブルエリプスケースは、ブランドのシグネチャーとなっている。
Originally published on Montres De Luxe
2023年4月12日掲載記事


独立系ブランド、ダニエル・ロートがLVMH傘下で復活

 1988年、独立した時計師としての道を歩み始めたダニエル・ロートによって、時計ブランドのダニエル・ロートは設立された。それから1994年までの6年間、ダニエル・ロートは時計を少量生産し、市場で高く注目を浴びるブランドのひとつとなった。今回のブランド復活に際し、当時の時計はコレクターズアイテムとして価格が高騰している。

 当時作られた時計には、ダニエル・ロートがロンドンの時計販売店アスプレイの特注として製作した限定25本の手巻きトゥールビヨンモデルのほか、クロノグラフや永久カレンダー搭載モデルもある。いずれもブランドのシグネチャーデザインである「ダブルエリプス」ケースに収められていた。

 1994年、ダニエル・ロートはジェラルド・ジェンタと同時期に、シンガポールのリテーラーでありアワーグラスの経営者であるテイ一族に買収される。しかしそこでは、ロート、ジェンタ共に変化はなかった。アワーグラスは力のある時計のリテーラーだが、同時にあくまでリテーラーであり、時計作りには関与しなかったのである。

 その後、彼らはイタリアのジュエリーブランドであるブルガリに買収された。ダニエル・ロートは、ブルガリの時計カタログに掲載されるコレクションのひとつとなったが、独特のケースはそのまま維持されてきた。ブルガリはその後、LVMH グループの傘下に入った。

 そしていよいよ、LVMHはダニエル・ロートを復活させ、生産能力を集中させる決断をした。2023年、ダニエル・ロートはLVMH グループ内の時計工房である「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」に移籍し、その支援と指導を受け、独立系ブランドとして刷新されることが決定したのだ。

 再始動するダニエル・ロートは、長年掲げてきた「アート・オブジェ・ウォッチ(芸術品としての時計)」という指針を継続し、年間で数百本のみを生産していく予定だ。2023年後半には、「スースクリプション」シリーズの20本などが発表される予定である。


20世紀における重要な独立時計師のひとり、ダニエル・ロート

 ダニエル・ロートは、ジョージ・ダニエルズやフランソワ-ポール・ジュルヌ、フィリップ・デュフォーらとともに、20世紀における重要な独立時計師として知られている。

 現在78歳のダニエル・ロートは、フランスのニースで時計職人の家系に生まれ、ジャガー・ルクルトに短期間在籍した後、オーデマ ピゲの工房に入り、そこで時計製造に関する多くを学んでいる。そして、当時ショーメの傘下で低迷していたブレゲにスカウトされた。1976年にスイスへ拠点を移し、ル・ブラッシュに最初のアトリエを開いた。同時にブランド刷新の責任者も務め、ブレゲの復活を指揮することとなった。

 彼の影響は、その後12年間のブレゲの発展において決定的なものとなった。1988年、ダニエル・ロートは大手ブランドでの安定した仕事に見切りをつけ、自身の名を冠したブランドを立ち上げた最初期の時計師のひとりとなったのである。

 ダニエル・ロートは、まもなく彼の得意とするトゥールビヨン・ムーブメントの開発に着手した。このムーブメントを収めた楕円型のダブルエリプスケースは、後年ブランドのシグネチャーデザインとなっている。そして、アスプレイが特別な秒表示を搭載した機械式のダブルフェイス・トゥールビヨンを25本発注するに至るのである。

 ブランドの発展に大きく貢献したこのトゥールビヨンモデルは、翌年の生産時に「C187」と名付けられた。その後、ダニエル・ロートは伝説的ムーブメント、レマニア2310を搭載し、ふたつのカウンターを備えたクロノグラフ「C147」と、ヴィーナス179を搭載したラトラパンテ機構を備えた限定モデルを発表した。当時、機械式クロノグラフはスイスの有名ブランドのカタログには掲載されておらず、小規模ブランドでもわずかにしか生産されていない状況だった。

 ダニエル・ロートはその後、超薄型の自動巻きムーブメントを搭載した「C107」や、レトログラード表示を備えた「C127」、パーペチュアルカレンダー搭載の「C117」を製作した。そのすべてにダブルエリプスケースが採用されている。

 パーペチュアルカレンダー搭載のC117は、瞬転式のジャンピング機構を備えているが、これはフィリップ・デュフォーとの共同製作で実現したものだ。

 最後に、ダニエル・ロート個人はブランド売却後も、ル・サンティエを拠点に、ジャン・ダニエル・ニコラという名前で完全手作りの時計を年間3本程度作り続けたことも伝えておきたい。そこで作られていたのは、2ミニッツ・トゥールビヨン・レギュレーターの1種類のみであった。

 創業者の手を離れ、LVMHのもとで復活するダニエル・ロート。現在、新作の開発と製作が進められており、その結果はここ数カ月のうちに発表される予定とのことだ。


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