イギリス大手の中古時計販売店ウォッチファインダー、盗難時計の転売防止策としてデジタルプラットフォームを活用

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2023.06.22

イギリス警察のデータによると、2015年以降、イギリスでは10万本以上の時計が盗難に遭っている。なかでもロンドンは最も被害が大きく、1年に6000件以上、1カ月に500件以上もの時計の盗難事件が発生しているようだ。イギリス大手の中古時計小売店ウォッチファインダーは、盗難にあった時計を特定できるプラットフォーム「Enquirus」と提携し、盗難時計の転売を防いでいる。

イギリスに拠点を置くウォッチファインダー(Watchfinder & Co.)は、中古時計のオンライン販売を手がけている。ロレックス、オメガ、カルティエなどを含む、50以上のブランドから数千点の時計を取り揃えており、海外拠点やメーカー認定サービスセンターも備えている。
Originally published on Montres De Luxe
2023年6月22日掲載記事


近年増加傾向にある時計の盗難事件と2次流通市場

 時計の盗難事件は、コロナウィルスの感染拡大中に過去最低まで減少した。しかし、ウォッチファインダーが入手したイギリス警察のデータによると、パンデミックが落ち着いた2022年にピークを迎え、盗難届けは1万5058件に達していることが分かった。

 これはこの2年間で最も多い件数で、盗難届けの出された時計の平均価格は約1345ポンド(約24万3266円、1ポンド=180.84円、20236年6月22日現在)にのぼる。もちろん、被害者は精神的なダメージを負い、時には犯人から暴力を振るわれているのは言うまでもない。

 過去12カ月における盗難届けはロンドンだけで6000件に達しており、これはイギリス国内における時計盗難の半数以上(55%)を占めている。この問題において、ロンドン、パリ、バルセロナは「最悪の街」であることはよく知られている。

 過去5年間におけるロンドンでの時計盗難の被害総額は、約1億6200万ポンド(約292億9616万1000円)と推定される。

フランスでも時計の盗難件数が増加中

 フランスの大手新聞JDD(Le Journal du Dimanche)が2022年に発表した調査結果によると、2019年以降、パリ及びその周辺地域において600件以上の時計盗難が発生している。おそらく実際はもっと多いだろう。そして盗難件数は毎年増加しているのである。

 JDDの調査に掲載された、ジュリアン・エルボー警視総監のコメントによると、窃盗犯の多くは強盗など他の窃盗ですでに知られている者たちであるようだ。盗難事件の60〜70%が解決し、犯人が逮捕されている一方、盗まれた時計が発見されるケースは非常に少ない。

『Var Matin』誌によると、富裕層の観光客が集中するコート・ダジュールの街もまた、時計の盗難被害が多いようだ。コート・ダジュール地域圏であるアルプ・マリティーム県の公道では、2022年1月から6月の間に69件の時計盗難が発生した。

 また、「特に春は盗難が増えます。2020年から2021年にかけて、時計の盗難事件は46%増加しました」と、ダミアン・サヴァルゼイス検察官は述べている。2022年の上半期には、6倍も増加がしている。

 この数字を裏付けるように、ウォッチファインダーの調査によると、フランスでは調査対象者の60%以上が、盗難の増加によって時計を身につける際の警戒心が高まり、高額なモデルを身に着けなくなった、また長袖を着るようになったと認めている。また4分の1以上(28%)の人が、時計を盗難から守るためにさらなる対策を望んでいることが明らかになった。

 そして半数以上の人が、小売店やブランドが盗難届けの有無を確認できるように、自分の時計を登録できるツールを利用したいと考えている。

デジタルプラットフォームの導入で盗難時計の転売を防ぐ

 この結果を受けて、ウォッチファインダーは時計犯罪撲滅のためのキャンペーンを開始した。キャンペーンは2つの段階に分かれている。まずは時計の所有者が購入後すぐに登録することで、盗難から時計を守る。

 もうひとつは、中古時計の販売店に対して、すべての在庫を認証するよう呼びかけることだ。中古時計専門店による盗難時計の転売をより困難にすることで、犯罪の利益を減少させることができるのである。

 中古時計の専門店であるウォッチファインダーは長年にわたり、同社が取り扱うすべての時計が適正なものであるかどうかを見極めるプロセスを実施してきた。

 現在、ウォッチファインダーはリシュモン グループに所属している。そのリシュモン グループでは、顧客の要望に応えるため、盗難時計の犯罪撲滅を目指す無料のデジタルプラットフォーム「Enquirus」と提携した。

 時計メーカー、警察、保険会社、二次市場、顧客など、幅広いパートナーとの密接な協力関係により開発されたこのプラットフォームは、時計の所有者や業界関係者が紛失・盗難にあった時計について登録・申告・調査できるようになっている。

 また検索機能により、第三者から中古時計の購入を検討している顧客も、購入前にデータベースを参照し、盗難品でないことを確認することができる。

 ウォッチファインダーCEOのアルジャン・ヴァン・デ・ヴァルは、すべての中古時計小売業者に対して、増加する時計犯罪の問題に対処するため、在庫を徹底的にチェックするよう促している。在庫の来歴確認と認証が、この業界での標準となる必要があるだろう。

 時計を盗まれたことがある人の3分の2以上(68%)が、転売されたと考えているという回答もあった。

 厳しい検査と認証、そして時計専門家と19以上の時計ブランドのサポートにより、ウォッチファインダーは過去12カ月の間に、自社に持ち込まれた200本以上の盗難時計の転売を阻止したと報告している。


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