グルーベル・フォルセイ、究極のニッチから真の価値が分かるコニサーへ

FEATURE本誌記事
2023.08.04

2020年、数々のブランドを牽引してきたアントニオ・カルチェをCEOに迎え入れ、新たなフェーズへと突入したグルーベル・フォルセイ。これまで限られたコレクターに時計を提供してきたニッチなメーカーは、その価値をより深く理解する若いコニサーを獲得すべく、自らが実行すべきガイドラインを再考した。こうして完成した新生グルーベル・フォルセイの作品は、高度な製造技術を用いながらも今まで以上に同時代性を感じさせる内容へと、大きな進化を遂げている。

ダブルバランシエール コンヴェクス

ダブルバランシエール コンヴェクス
グルーベル・フォルセイによる6番目の発明が、ふたつの脱進調速機をディファレンシャルギアでつなぎ、高精度を実現した「ダブルバランシエール」。マッシブなプロポーションだが、外装にチタンを採用しているため見た目以上に軽い。手巻き(Cal.GF04x)。50石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。Ti(直径42.5mm、厚さ14.35mm)。10気圧防水。世界限定88本。要価格問い合わせ。

【ブランド公式サイトはこちら】
https://watch-yoshida.co.jp/products/411/21641
三田村優:写真
Photographs by Yu Mitamura
竹石祐三:取材・文
Text by Yuzo Takeishi
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年9月号掲載記事]


高級時計(オートオロロジー)の新流儀

アントニオ・カルチェがグルーベル・フォルセイのCEOに就任したのは2020年12月のこと。世界的なパンデミックによって、先行き不透明な状況下での就任劇ではあったものの、それから約2年半の間にグルーベル・フォルセイは劇的な成長を遂げた。2004年の創業から20年まで、同社の年間製造本数は90〜100本だったが、22年には約200本となり、売り上げも過去最高を記録。こうした成功の背景には、従業員(とりわけ仕上げ部門の人員)を以前の倍に増やしたことに加え、新しいセグメントの時計を、新たな価格帯で発売したことが要因としてあったという。

ダブルバランシエール コンヴェクス
ダブルバランシエール コンヴェクス
ふたつの脱進調速機を搭載した複雑機構モデルでありながら、ラグを廃してケースとテクスチャー感のあるラバーストラップを滑らかにつなぐことで、トレンド感のあるスポーティールックを実現。ダイアルの4-10時側をオープンワークにして複雑な構造を可視化させるのみならず、30°傾いたふたつのテンプによって奥行きが感じられ、まさにモダンな建築物のような表情に。ケースバックからもグレイン仕上げが施されたチタン製の地板を視認でき、繊細かつ高度な加工技術を感じ取れる。手巻き(Cal.GF04x)。50石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。Ti(直径42.5mm、厚さ14.35mm)。10気圧防水。世界限定88本。要価格問い合わせ。

【ブランド公式サイトはこちら】
https://watch-yoshida.co.jp/products/411/21638

「新しいコレクションでは、ブランドのアイデンティティを大切にしながらも、よりモダンなデザインを重視する方向で進めました。また当社は創業以来、ムーブメントのディテールを追求してきましたが、加えて全体的なクォリティの向上にもますます注力するようにしたのです」

 以前は製造本数が少なく、それゆえに限られた一部の時計愛好家やコレクターにのみ時計を提供してきたグルーベル・フォルセイだが、ブランドを強化していくため、若い世代のコニサーにリーチする戦略へと舵を切ったのだ。

バランシエール コンヴェクス S2
バランシエール コンヴェクス S²
初代「バランシィエ S」の力強い要素を踏襲しながらも、それらを強化してより現代化した「バランシエール コンヴェクス S²」。ダイアルの7時位置にセットされた30°傾いたテンプのデザインもさることながら、ケースは表裏ともに緩やかなカーブを描き、さらにベゼルは縦方向にわずかに沈み込んだ独創性あふれるフォルムを採用する。これによりモダンな雰囲気と軽快感を放つのはもちろん、手首へのフィット感も向上している。このモデルも、ケースバックからは地板が姿を見せ、繊細な仕上げが堪能できる。手巻き(Cal.GF09xv)。43石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。Ti(直径41.5mm、厚さ14.8mm)。10気圧防水。世界限定88本。要価格問い合わせ。

【ブランド公式サイトはこちら】
https://watch-yoshida.co.jp/products/411/21639

「そのために、私たちは5つの柱に基づいて商品開発を進めています。ひとつ目が独自の技術を開発するイノベーションで、次がハンドフィニッシュとウォッチメイキング。特にハンドフィニッシュについて、当社では1本の時計に300時間、400時間、あるいはそれ以上の時間を費やしています。3つ目が多層構造を意識した建築的デザインで、4つ目はレアでありエクスクルーシブであること。製造本数を限定することはもちろん、ひとつのキャリバーは5年しか製造しないので、この点からもグルーベル・フォルセイの腕時計は非常に稀少です。最後が精度で、高精度を追求することは、すなわち信頼性の向上にもつながります」

アントニオ・カルチェ

アントニオ・カルチェ。グルーベル・フォルセイCEO。1967年、イタリア生まれ。工学と経営学を学んだ後、94年にピアジェに入社してキャリアをスタート。2000年から05年にかけてマニュファクチュール パネライの責任者を務め、2007年にはコルムのCEO、2015年にはジラール・ペルゴのCEOに就任。20年より現職。

 こうした5つの柱を踏まえつつ、若い世代に向けて製作されたのが、22年に発表された「コンヴェクス」コレクション。同社がこれまで培ってきた高度な時計製造技術を駆使しながらスポーティーなルックスに仕上げた、まさに新生グルーベル・フォルセイを象徴する腕時計だ。現在は4モデルがラインナップされているが、中でも「ダブルバランシエール コンヴェクス」は、ディファレンシャルギアを挟んだふたつの脱進調速機が大胆にその姿を現し、同社らしい独創性が感じられる。

 一方で「バランシエール コンヴェクスS²」も30度傾けた脱進調速機を搭載してブランドの個性をしっかりと表現しつつ、先のモデルよりもシンプルな構造にすることで、スポーティーな雰囲気を強めている。いずれのモデルも外装にチタンを用い、重量を抑えているのも現代的なアプローチと言えるだろう。

 こうした新たな方向性のタイムピースに加え、グルーベル・フォルセイは昨年末、東京・渋谷区幡ヶ谷の時計店ヨシダとパートナーシップを締結した。これにより「日本は最も重要なマーケットのひとつになった」とカルチェは話すが、年内にはこの日本でさらなるニュースも用意されているというから、優れた審美眼を持つ日本のコニサーにリーチするのに、そう時間はかからないだろう。



Contact info: ヨシダ 東京本店 Tel.03-3377-5401
名古屋 ヨシダ Tel.052-243-5401
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グルーベル・フォルセイ 比類なき未来遺産

https://www.webchronos.net/features/87474/
【インタビュー】グルーベル フォルセイCEO「アントニオ・カルチェ」

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ニッチメーカー "グルーベル フォルセイ" の舵取りを担うCEOのビジョンとは

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