ヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズ　ラグジュアリースポーツウォッチの新定義

　もうひとつ特筆すべき点はダイアルの造形であろう。ベースダイアル、レイルウェイトラック、インダイアルにそれぞれ異なった仕上げを盛り込んで、錯覚によるアニメーション効果を狙う手法は、近年のヴァシュロン・コンスタンタンが得意とするもの。インナーベゼルの内側だけをミラーポリッシュして、ダイアル面へのリフレクション効果を狙うあたり、なかなか堂に入った仕上がりである。

　セルモニ氏は新しいオーヴァーシーズを指して〝スポーツではなくスポーティ〟だと強調する。前２作と同様に、新しいオーヴァーシーズが掲げるコンセプトも〝旅〟で一貫している。ならばオーヴァーシーズが本質的な部分で、荒々しいスポーツウォッチではなく、よりエレガントな方向性を指向するのも自明なのである。70年代に起こったラグジュアリースポーツの黎明の中で、オリジンのひとつとされる２２２が、決してオーヴァーシーズへと至る〝起点〟ではないという事実もその傍証となろう。オーヴァーシーズの背景には、旅というシチュエーションの中で、往年のトラベルクロックやウォッチに求められた〝適切なヘビーデューティさ〟が垣間見えてくるのだ。