フランス料理「エステール」(丸の内)/この世ならぬ美味のクリエイター

2023.11.10

パレスホテル東京のフランス料理「エステール」。2023年1月より新たに小島景シェフを迎え、第2章が幕を開けた。食べ手の心を掴み、虜にする、その魅力に迫る。

熊本産和牛 野菜のフォンダン

熊本産和牛 野菜のフォンダン
カリフォルニアのティナ・フレイ氏によるレジン製のクローシュが外されると、同氏のソースポットからオックステールなどから出汁を取った艶やかなソースが注がれる。熊本県産の和牛は、備長炭で丁寧に火入れ。下に添えた、すりつぶした野菜とビネガーのソースも肉の味わいを際立たせる。仏産のジロール茸、山梨県白州産の椎茸とたもぎ茸を添えて。
外川ゆい:取材・文 Text by Yui Togawa
三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
[クロノス日本版 2023年11月号掲載記事]


豊かな人生が紡ぐ、物語ある味わい

小島 景

小島 景(Kei Kojima)
1964年、東京生まれ、鎌倉育ち。1988年に渡仏し、「アラン・シャペル」などで研鑽を積む。2001年に再渡仏して「ル・ルイ・キャーンズ アラン・デュカス」に勤務し、03年には副料理長に就任。帰国後、08年「ブノワ東京」料理長、10年「ベージュ アラン・デュカス 東京」総料理長を経て、23年1月より現職。

「景色が違って見えました」。これは、小島景シェフが、モナコの3つ星レストラン「ル・ルイ・キャーンズ アラン・デュカス」を勤め上げた時を振り返っての言葉だ。それほど濃密な5年間だった。「フランク・セルッティ シェフとの日々は、発見と感動の連続でした。仕事が美しく、厨房に指紋ひとつありません。全員定規を持っていて、料理は秒単位で提供。そして、よく『味をみろ』と言われ、しっかりと自分の舌で覚えました」。

 小島シェフの言葉は、まるで映画のワンシーンのように想像でき、惹き込まれていく。話術も優れているのだが、料理への愛情と相手に伝えたいという情熱がそうさせるのだ。そして、その想いは、小島シェフが仕立てる料理と重なる。

 今回紹介している肉料理についてはこう語る。「熊本産和牛は、和牛とスイス原産のシンメンタール種を交配させたあか毛和牛ですが、シンメンタールは、師であるセルッティ シェフが非常に好んで使用していた牛でした。茸の下に隠れた野菜は、バイヤルディという南仏の料理から発想を得たものです。通常ズッキーニや茄子などを重ねるのですが、人参や赤玉葱、セロリ、カブを使っています」。

 毎朝、鎌倉市農協連即売所で野菜を仕入れてから厨房に入る日課は、前職から変わらない。聞けば、休日も寝ていればいいのに朝から訪れてしまうのだと控えめに笑う。味や技術に加え、シェフの経験を投影した料理は、豊かなエピソードをも味わうような感覚に浸ることができる。

「本当にお客様は満足してくれたのか」と常にサービススタッフに確認する小島シェフ。料理人として何年経っても変わらないことは「喜んでもらえる料理をつくること、それがすべて」という想いが根底にある故の心配なのだろう。ホスピタリティも素晴らしく、非日常の特別な食事でありながら、親しみやすいスタッフの会話にも心が和む。「大地と海の出会いの物語を紡ぐ場所」をコンセプトに掲げるフランス料理「エステール」は非常に自然体だ。レストランと料理人の想いや生き方がしっかりと重なり合うからこそ、食べる人の心に感動が生まれるのだと思い知らされる。


フランス料理「エステール」

フランス料理「エステール」

店名は、デュカス氏の生まれ育ったオクシタニー地方の言葉で「母なる大地」の意。清々しい空間は、外に広がる豊かな自然と調和しながら、和紙をメインの素材に使用してシンプルに統一されている。

東京都千代田区丸の内1-1-1 パレスホテル東京 6F
Tel. 03-3211-5317
月・火曜定休(祝日の場合は営業)
11:30~L.O.13:30、18:00~L.O.20:00
ランチコース1万2000円~、ディナーコース2万2000円~(サービス料15%別)


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