[ブレゲ・マニュファクチュール探訪]冷静と情熱が出会うところ

2016.08.03

面取り&彫金
BEVELLING & ENGRAVING

驚くほどの自由さを与えられているのが、面取りや彫金といった仕上げ部門だ。
使うツールは不問、明確な指示書もなく、仕上げる個数も決められていないというから、
合理的で機能性を重視する部品の製造現場とはむしろ真逆と言える。
新棟の2階にある仕上げ部門では、数多くの職人たちが、自分たちのペースでゆったりと作業に取り組んでいた。

(右)スケルトントゥールビヨンの面取り。普通はCNCマシンで粗く加工するが、このモデルでは一切そのプロセスを用いていない。「職人が一から角を丸めているところに意義がある」とのこと。(上左、上中)錫板で部品の表面をならす工程。何度も磨いては、目で確認し、再び磨く。(下左、下中)彫金の工程。一部のモデルは、ムーブメントの製造番号も手作業で彫り込まれる。テーブルの上に貼られた付箋には、製造番号が書かれており、作業が終わったら横線を引いて消していく。大メーカーとは思えないほどプリミティブなやり方が残されている。

 だが、製造工程を支配していた厳格さは、2001年に落成した新棟の2階では一変する。面取りと彫金部門で見られたのは、驚くほどの自由さだった。仕上げのすべてが手作業によるのは当たり前だが、意外だったのは、仕上げ用のツールがまったく指定されていないことだった。あるエングレーバーいわく「美しい仕上げが施せるならば、木でもプラスチックでも道具は何でも許されている」。他社では考えられない自由さだ。

ロリエントには約20人のエングレーバーが所属している。ヌーシャテルの学校で学んだ後、入社して高度なテクニックを覚えていくのが普通だという。体系的に学ぶわけではないため癖があり、「彫金を見れば、誰が手掛けたかすぐに分かります」とのこと。工具はもちろんのこと、固定するジグなども人によって異なる。