加速する自社開発 すべては〝リシャール・ミル〟を形にするために

2016.08.03

薄型化への創意工夫

近年の、特に高級時計における潮流のひとつに薄型化がある。
その流れを捉えた新作が、このRM 67-01 オートマティック エクストラフラットである。
これまで、角型や丸型ケースでは薄型モデルは存在したが、
リシャール・ミルのアイコンであるトノーケースでの本格的な薄型時計は初の試みだ。
それだけに、その実現のための細かい配慮と工夫は、非常に興味深く、創意に満ちている。
その開発の経緯を、引き続き、ムーブメント研究開発・設計担当のサルヴァドール・アルボナ氏にうかがった。

(左)斜めから文字盤を見ると、薄くするための数々の工夫がよく分かる。文字盤を廃し、代わりにスケルトナイズしたレール状の受けをムーブメントに載せ、その上にインデックスを配している。そのインデックスと時針は同じ高さに設置されているため、通常の文字盤の上に時分針を重ねる場合に比べ、厚さを低減できる。(右)裏蓋側にも同様に、薄くするための配慮がなされている。サファイアクリスタル製のケースバックに注目すると、ローターが回転する軌道の部分が円状に一段削り込まれている。ここにローターを収めることで、その分、ケース全体の厚さを詰めることができた。こうした細かい配慮の積み重ねが薄型化に奏功している。

 リシャール・ミル最初の自動巻きはRM 005。スケルトンではRM010がすでに存在します。今回目指したのは、この2モデルの中間にあるようなオープンワークと薄さを兼ね備えた自社開発ムーブメントを搭載したモデルです」。こう語るサルヴァドール・アルボナ氏は、その根底には新しい時計を作りたいという強い思いがあると強調する。

 実は、RM 005とRM 010は、いずれも外部のムーブメントメーカー、ヴォーシェ マニュファクチュール フルリエ製のエボーシュを採用したモデルだ。リシャール・ミルがオロメトリーに新社屋を建設する以前は、フルリエのヴォーシェで製造・組み立て・ケーシングされていたモデルである。まさに、同メゾンのファブレス時代を象徴する時計だが、それらと同等以上のスペックを持ち、しかも自社開発ムーブメントを搭載するというのが、今回の新作に課せられた条件であった。そこで設定されたのが、パワーリザーブ50時間以上、自動巻きで地板にチタンを採用するという仕様である。

「薄いムーブメントを作ろうとすると、小さいテンプを使用することが多いのですが、私たちは時計のパフォーマンスを守りたかった。よって、小さいテンプは採用せず、パフォーマンスを維持するのに十分な大きさのテンワを用いました」

 仕様を満たしつつ、時計を薄くするため、さまざまなアイデアが盛り込まれた。

「パーツを積み重ねてしまうとムーブメントに厚みが出てしまうので、歯車の輪列と自動巻き機構の配置を見直し、ムーブメントの全表面積を有効活用することを考えました。平面上に時刻用の輪列と自動巻き機構を重ならないように配置することで、パーツ同士が積み重ならないようにしたのです」

これはRM 67-01の素材違いのモデル。18Kレッドゴールド製のベゼルとケースサイドにはダイヤモンドがセッティングされ、薄型化をかなえたトノーケースに、一層の華やかさと煌めきを添える。ベゼルをねじ留めするケースサイドの柱部分にのみブラックダイヤモンドを配し、ダイヤモンドの輝きの中にもアクセントと立体感を与えている。予価2030万円。

 創意工夫はこれだけではない。文字盤と日の裏側の受けを同じ高さに収めるために、文字盤に替えて、チタン製のレールをムーブメントに載せ、これが文字盤と受けの役割を兼ねることで、スリム化に貢献。インデックスをこのレールの上に配し、時針の高さをインデックスの高さに揃え、ここでも若干の厚さを減じることができた。10時のインデックスの「0」が欠けているのは、同じ高さにある時針の軌道と重なるため、時針を通すために「0」の一部を削った結果である。こうした細かい配慮と工夫が実現できたのは、傘下にケースメーカーのプロアートを擁し、細部に至る調整の意思疎通が極めてスムーズだからにほかならない。

 こうして見てくると、当初は生産設備を持たない、アイデアとコンセプトありきのファブレスであったリシャール・ミルが、オロメトリーに新社屋を建設した2007年以降、着々と生産体制を整備・拡充した結果、今やムーブメントの自社開発と、複雑なケースの自製までも可能にするリアルマニュファクチュールへと変貌を遂げた事実が浮かび上がる。

 アルボナ氏が、ブランドの方針すなわちミル氏の意向に沿ってムーブメントを自社開発するように、オロメトリーとプロアートの拡充も、ムーブメント同様、すべては、ミル氏が思い描く〝リシャール・ミル〟を形にするための内製化なのだ。ここに来て、トゥールビヨンをはじめとする本格的なコンプリケーションの自社開発と内製化も、いよいよ視野に入ってきたと言っても過言ではあるまい。

   
RM 67-01 オートマティック エクストラフラット
縦31.25×横29.10×厚さ3.60mmというサイズに収められたCal.CRMA6は、薄くても平板な印象にならないように、香箱から輪列、ローターや受けに至るまで、随所にスケルトン加工を施すことで、文字盤側にも裏蓋側にも視覚的な奥行きを生み出し、見事な立体感を与えることに成功している。自動巻き(Cal.CRMA6)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。グレード5Ti(縦47.52×横38.70mm、厚さ7.75mm)。50m防水。予価970万円。
   
リシャール・ミルの自社開発ムーブメントの研究開発と設計を担うサルヴァドール・アルボナ氏。2012年に発表されたRM 037が搭載する初の自社設計ムーブメントCRMA1の開発から、今年発表された最新の薄型ムーブメントCRMA6に至るまで、同社の自社開発ムーブメント全般を担当する。