モリッツ・グロスマン あるマイスター時計師が語る半生とグラスヒュッテ高級時計産業の歩み

2016.12.02
三田村優、吉江正倫:写真 Photographs by Yu Mitamura, Masanori Yoshie
鈴木裕之:取材・文 Text by Hiroyuki Suzuki

グラスヒュッテ近郊に生まれて、
グラスヒュッテで時計を作り続けて…

東西ドイツの再統合を機に、ドイツ高級時計産業の聖地に返り咲いたザクセン州グラスヒュッテ。
現在モリッツ・グロスマンで、主任設計者の任にあるイェンス・シュナイダーは、
東ドイツ時代にグラスヒュッテ近郊の小都市で生まれ、
旧GUBとA.ランゲ&ゾーネでマイスター時計師としてのキャリアを重ねてきた人物だ。
我々がよく知るグラスヒュッテ近代史の概要は、敗戦を経て共産主義国となり、
名のあるさまざまな時計工房が人民公社に統合された後に、そこから再び発展を遂げるというもの。
つまりは、“暗黒のGUB時代”と“奇跡の復興”の対比構造だ。
しかしそんなステレオタイプなヒストリーが実在するだろうか?
実際に東ドイツ時代を生きたイェンス・シュナイダーという時計師自身の言葉を借りながら、
彼の大らかな人となりと、グラスヒュッテ高級時計産業の底流にたゆたう牧歌的な横顔に迫ってみたい。