ロベルト カヴァリ バイ フランク ミュラー 巨匠たちが拓いた 新たな境地

2016.12.02
奥山栄一:写真
Photograph by Eiichi Okuyama
広田雅将(本誌):文
Text by Masayuki Hirota

イタリアを代表するファッションブランド、ロベルト・カヴァリ。
世界中のセレブリティに愛されるゆえんは、その豪奢な仕立てと、他社には真似できないプリント技術にある。
創業40周年を迎えた2010年、創業者のロベルト・カヴァリは「時計を作る予定がある」とメディアに公言した。
果たして、彼がコラボレーションを組んだのは、同じくユニークなスタイルを持つもうひとりの「巨匠」、フランク・ミュラーであった。

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10角形のケースを持つのが本作。ケースはカーボン製、ベゼルはセラミックス製(!)という構成を持つ。ベゼルの上面に筋目加工を施すなど、仕上げも凝っている。クォーツらしからぬ太い時分針を載せているため、視認性も良好だ。フランク ミュラー グループの経験を感じさせる1本だ。クォーツ(ロンダ5040)。カーボン(直径40mm)。50m防水。11万3000円。

 ロベルト・カヴァリというファッションデザイナーは、時計業界におけるフランク・ミュラーに似ている。両者はそれぞれの業界における新参者だったが、他にはないスタイルを生み出すことで、圧倒的な立ち位置を得た。ファッション業界に柄のプリントを普及させたのはカヴァリであり、とりわけラグジュアリーブランドがプリントのヒョウ柄を使うようになったのは、彼の出現以降である。ロベルト・カヴァリ ブランドの40周年に際し、『ニューヨークタイムズ』紙は、その創業者兼デザイナーをこう表現した。いわく「ヒョウ柄の帝王」。『ハーパースバザー』誌もまた「カヴァリはヒョウ柄の人生を歩んでいる」と記した。

 フランク・ミュラーもまた、ユニークなトノウ・カーベックスケースで地歩を築いた人物だ。カヴァリのヒョウ柄を真似してもオリジナリティーを発揮できないのと同様、フランク・ミュラーのケースを模倣しても、それは〝コピー〟としか理解されないだろう。

 そのカヴァリは創業40周年記念として時計をリリースしたい、と『ニューヨークタイムズ』に語った。果たせるかな、彼が手を組んだのは、同じような立ち位置にあり、しかも旧友のフランク・ミュラーであった。

 2012年、ロベルト・カヴァリとフランク・ミュラーは新しいコラボレーション「ロベルト カヴァリ バイ フランク ミュラー」に関する発表を行った。

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トレンドのスタッド(飾り鋲)をあしらったモデル。多彩な色調を好むカヴァリとしては珍しく、男性用の時計には落ち着いた色味を与えてきた。文字盤と針の形状はオーソドックスだが、半面、造形はかなり立体的だ。価格を考えれば、非常に優れた出来といえる。クォーツ(ロンダ515)。SS(直径43mm)。50m防水。6万3800円。

「私たちは多くの原則を共有している。そのひとつが、情熱を持って生きることだ。したがって、コラボレーションのアイデアは自然と湧き上がってきた」とフランク・ミュラーは語った。

「ロベルト・カヴァリは、世界的なレベルにある、イタリアで最も格式のあるファッションブランドのひとつだ。コ・ブランディングをするならば、それは彼とすべきというのは明らかだった。時計は私たちのサポートの下、ロベルト・カヴァリ グループがデザインし、技術的な部分は私たちが担う」(フランク・ミュラー)

 フランク ミュラー グループがロベルト・カヴァリに提供したのは、複雑時計のムーブメントではなく、ケースの製造技術だった。カヴァリが卓越したプリント技術を持つのと同じく、フランク ミュラー グループも、複雑なケース製造の技術に非凡なノウハウを持っている。カヴァリは、他では作れないケースをフランク ミュラーに期待したのである。

 ロベルト・カヴァリとフランク ミュラーが共同して作った時計と聞けば、よほど高価なものを想像する。しかし、プレスリリースにはこう記されていた。「エントリープライスは1250〜3000ユーロ」。彼らは、時計好きよりも、ファッション好きに訴求しようと考えたのである。事実、ロベルト カヴァリ バイ フランク ミュラーが置かれたショップは、そのほとんどがロベルト・カヴァリまたはそのディフュージョンの店である。

 しかし、その造形を見れば、フランク ミュラー グループが設計と製造に関与したことは分かる。どのモデルも、ケースはトノウ・カーベックス同様、鍛造で複雑な造形を与えられている。形を簡潔にすれば製造コストは下げられたが、カヴァリはそれを好まなかったわけだ。その好例がこの2作だろう。

「RV1G018L0011」(3針モデル)は、ベゼルにスタッド状のエンボス加工を施したもの。ファッションのトレンドを意識したデザインだが、鍛造でこの造形を成形するのはかなり難しい。エッジをさらに立たせることは可能だったはずだが、おそらく袖に引っかかることを考えて、落としたのだろう。より複雑なのが、「RV1G009L0101」(クロノグラフ)である。10角形のベゼルはセラミックス製、ケースはカーボンファイバー製と野心的な構成を持つ。

 この2本をファッションウォッチと見なすのは容易だ。しかし価格を抑え、個性的な造形を加えるのは決して容易ではない。ふたりの巨匠たちが、このコラボレーションに本気で取り組んできた証しである。

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