チューダーが日本で正規販売が開始され約5年、登場した製品にはひとつもハズレがない!

FEATURE役に立つ!? 時計業界雑談通信
2024.02.11

2024年4月9日から開催予定のWATCHES & WONDERS GENEVA 2024(W&WG 2024)。その出展ブランドの中でも、筆者にとって新作が楽しみなブランドの筆頭がチューダー(TUDOR)だ。ところが、このブランドの“日本における正規販売”がスタートしたのは2018年10月末。つまりチューダーは、正規に日本へ上陸してわずか5年間で日本の時計業界をリードする“絶対に見逃せないブランド”になったのだ。今回はその歴史と魅力を改めて確認したい。

©Yasuhito Shibuya 2024
2023年、「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ2023」でのチューダー・ブースでのプレゼンテーション。
渋谷ヤスヒト:取材・文 Text by Yasuhito Shibuya
[2024年2月11日公開記事]


誰もが待ち望んでいた“幻の時計ブランド”

 2018年10月29日、東京・品川の寺田倉庫B&Cホールで開催された「チューダー」のローンチイベントのことを筆者は今も鮮明に憶えている。あのときは「ついに」「やっと」という気持ちだった。なぜなら、日本で時計ブームが起きた1990年代から現在まで、これほど日本での展開が望まれていたブランドはなかったからだ。

 それまで、時計好きが「チュードル」と呼んでいたチューダーは長い期間、日本では正規販売されておらず、どうしても欲しければ、製品保証が期待できない並行輸入でしか手に入らない“幻のブランド”だった。

 筆者がまだ子供だった1960年代には日本でも正規販売されていたらしい。そして1970年代以降、それは中止され、まさに“幻のブランド”になった。ただ海外では正規販売されており、並行輸入のカタチで流通していた。また、並行輸入モデルまで紹介する時計雑誌にはよく登場していた。ただ自分が編集を担当していた時計専門誌で取り上げたこともないし、他人にオススメしたこともない。なぜなら時計に限らずモノの取材を続けてきて、正規販売品とそうでないモノとの違いをよく知っているからだ。

 それだけに2018年秋からの「チューダー」というブランド名での日本での正規販売の開始はうれしいサプライズだった。

1952年のチューダーの広告。ハンス・ウイルスドルフの顔写真入り。掲載媒体は「K&C Rolex Army Times」との記述がある。中央の削岩機を使う男性のイラストにも注目!

 ただ多くの人にとって「チューダー」は初めて知るブランドだろう。1926年に「ロレックス」の創始者ハンス・ウイルスドルフが「ロレックスの技術と信頼性をもって、確固たる品質と先駆性を備えた腕時計を提供し、新たな市場を開拓する」ためにスタートさせたこのブランドは1950年代に、過酷な現場で働く人々のイラストを使った広告と、兄貴分とも言えるロレックス譲りの精度、防水性、堅牢性、さらに新たな市場を拓くための魅力的な価格設定ですぐに世界的な人気を獲得。1950年代〜60年代にかけてはダイバーズ、1970年代に入るとクロノグラフも登場。汎用ムーブメントを採用しながら、兄貴分とは違う独自のスタイルで独自の市場を開拓していった。


外装もムーブメントも独自の魅力を追求!

 そしてチューダーは、2000年代初頭に主なマーケットだったアメリカと、創業地であるイギリスでの販売を一時中止する。このあたりの理由は不明だが、今から考えると“根本的なリブランディング”のためだろう。そして2009年には「新生チューダー」と呼べるニューモデルが誕生する。2013年にアメリカ、2014年にイギリスでの販売が再開される。こうした経緯を考えると、2018年10月からの日本での正規販売開始も、このリブランディングを経て、満を持して行われたものなのだろう。

©Yasuhito Shibuya 2024
(左)2018年3月にスイス・バーゼルで開催されたバーゼルワールドのチューダー・ブース。
(右)ダイバーズウォッチ「ブラックベイ」の展示が目に留まった。このときはまだ日本での正規販売開始前のこと。「ぜひ日本でも!」とすぐに思った。何しろ、マニュファクチュール・ムーブメントまで展示されていたのだから。

 筆者が、個人的にチューダーが気になり出したのは、2018年3月、“今はなき世界最大の時計宝飾フェア”になったバーゼルワールドのチューダー・ブースのショーケースに飾られていたダイバーズウォッチ「ブラックベイ」を観たとき。精悍なそのデザインは兄貴分ともまったく違うもので、正直それ以上に魅力的だった。しかもショーケースには搭載ムーブメントが飾られ「マニュファクチュール」と書かれている。つまり外装もムーブメントも完全にオリジナルなのだ。だから同年の秋、10月29日のローンチイベントの招待状が届いたときは、本当にうれしかった。

 その後、新型コロナウイルス禍でバーゼルワールドが消滅し、新作発表の場がオンラインのバーチャルフェアとなった2020年の「WATCHES & WONDERS GENEVA 2020」以降の新作は、マニュファクチュール・ムーブメント採用モデルを筆頭に、素晴らしいものばかり。あまりに魅力的なモデルが多いのでとてもここでは書き切れない。具体的なモデルはwebChronosのチューダー関連の記事をキーワードで検索してほしい。

©Yasuhito Shibuya 2024
こちらは2019年3月に開催された(事実上最後となった)バーゼルワールドでのチューダー・ブースの新作展示。この年から取材可能になった。

 驚くべきことに、日本で正規販売が開始されて以降の約5年間に登場した製品にはひとつも「ハズレ」がない。どれも、見れば見るほど、知れば知るほど秘められた魅力が見えてくる。“心地よい環境に漫然としない人々のための時計”という、公式ウェブサイトの「マニフェスト」にもある通り、日常から極限まであらゆる冒険に着けて行きたい、冒険心をくすぐられるものばかりだ。


現代最先端の時計作り

 なぜこんな“奇跡”が可能なのか? その答えはハッキリしている。残念ながら取材したことはないが、2021年にル・ロックルに完成し、稼働している、徹底した生産管理と自動検査システムを備えたチューダー・マニュファクチュールは、時計業界でも間違いなく世界No.1の時計ファクトリーだろう。

2021年に完成したル・ロックルのチューダー・マニュファクチュール。チューダーのロゴが大きく掲げられた手前の赤い建物がチューダー・マニュファクチュール。その奥が、チューダーのムーブメントを手掛けるケニッシ マニュファクチュール。

 クルマや家電など、さまざまな工業製品の開発製造現場を取材してきたモノジャーナリスト、工場取材のプロとして言わせてもらうと、あの魅力的な価格設定で、しかも時計業界の中で飛び抜けた機能と品質を実現した腕時計を年間数万本単位で製造できるのは、世界でもチューダー・マニュファクチュールだけだ。

 複雑時計の愛好家の方には異論をお持ちの方もいるだろうが、天才的な設計者と“神の手を持つ時計職人”が何年もかけて究極の複雑時計を数本作ることよりも、間違いなくこちらの方が難しいし、素晴らしい。

 チューダーは魅力的な製品とともに、機械式時計という精密機械の効率的な大量生産という、モノづくりの中でもいちばん難しいジャンルで、他の追随を許さない金字塔を打ち立てたのだ。しかもその“新しい”歴史は始まったばかり。果たして来る4月にまたどんな新作を披露してくれるのか。今から楽しみで仕方がない。


チューダーの信頼の証し、ギャランティーカードについて解説

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全国のチューダー販売店が選ぶ! 長年の愛用をおすすめしたいモデルBEST5

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【スペックテスト】チューダー「ペラゴス 39」[83点]

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