初カーボンらしからぬ異素材巧者=チューダー「ぺラゴス FXD“アリンギ・レッドブル・レーシング”」を着用レビュー

FEATUREインプレッション
2024.04.02

世界的に快進撃を続けるチューダーが、初めてカーボンコンポジットケースに挑んだ「ペラゴス FXD“アリンギ・レッドブル・レーシング”」をじっくりと試す機会を得た。精悍にして端正なルックスと、信頼性の高いムーブメント、カーボンやチタンによる軽快な装着感など、その完成度はまさにサプライズ級だった。

チューダー ペラゴス FXD アリンギ・レッドブル・レーシング

チューダー「ぺラゴス FXD“アリンギ・レッドブル・レーシング”」Ref.M25807KN-0001
自動巻き(Cal.MT5813)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。C.O.S.C.認定クロノメーター。カーボンコンポジットケース(直径43mm)。200m防水。ファブリックストラップ。74万300円(税込み)。
大野高広:文・写真
Text and Photographs by Takahiro Ohno(Office Peropaw)
[2024年4月2日公開記事]


カメラマン泣かせの“ブラックに近いブルー”

 腕時計の撮影に慣れたプロのカメラマンでも画像に出しにくい色がある。「ぺラゴス FXD“アリンギ・レッドブル・レーシング”」のダイアルやストラップの「ブルー」は、その典型的なカラーといえる。オフィシャルWEBサイトに掲載されている正面のカタログ写真でイメージを膨らませていた筆者は、10日間の着用レビュー用に借りた現物を見て驚いた。ブルーの色味がかなりブラックに近い落ち着いた濃紺系で、ネット写真の何倍も好みのカラーリングだったのだ。

 このブルーはアリンギ・レッドブル・レーシングのチームカラーであり、また本モデルは、同チームの競技ヨットレースの船体AC75にあしらわれたレッドのアクセントを、インダイアル枠やクロノグラフ秒針、ストラップの先端などに採用している。そしてケースとベゼルインサートはブラックカーボンコンポジット製でマット仕上げ、インナーケースとケースバックは316Lステンレススティール製、リュウズとプッシュボタン、ベゼルはチタン製だ。これらはAC75のカーボン、チタン、ステンレススティールの素材構成にインスピレーションを得たものだが、チームに直接関係する演出といえば、45度の角度が付いたフランジの“Alinghi Red Bull Racing”の英字と、ケースバックに刻印されたロゴだけに抑えられている点も好感が持てる。

チューダー ペラゴス FXD アリンギ・レッドブル・レーシング

フランジにさりげなく、チーム名を英字でプリント。チタン製ベゼルの目盛り部に、ケースと同じマットブラックのカーボンコンポジット製インサートが与えられる。

チューダー ペラゴス FXD アリンギ・レッドブル・レーシング

ケースバックにアリンギ・レッドブル・レーシングのロゴがエングレービングされている。


ダイバーズの本質を追求してきたぺラゴス

 そもそもチューダーは、ロレックスの創業者ハンス・ウイルスドルフが自らの理念とする高品質な時計を広く提供するため、1926年に商標登録したブランドだ。創業当初こそ技術やパーツをロレックスと共有したが、やがて独自の路線を歩み始めた。2015年には自社製ムーブメントを完成させ、18年にはついに日本で正規ブランド展開が始まった。

 ダイバーズウォッチの本質を追求した「ぺラゴス」が誕生したのは12年。チューダーは1950年代から80年代まで、フランス海軍のサプライヤーとして時計を納品してきた歴史を持つが、その特殊任務を遂行する現役ダイバー部隊のための技術的仕様を具現化した「ぺラゴス FXD」は、2021年にデビューした。モデル名にあるFXDは、“固定”を意味するFiXeDの略で、その由来はケースに固定されたストラップバーにある。

チューダー ペラゴス FXD アリンギ・レッドブル・レーシング

ラグ部の固定バーが“FXD”の理由。ケースとブレスをバネ棒で連結する通常の構造と違って、ケース一体型のため、極めて堅牢性は高い。

 ぺラゴス FXD初のクロノグラフである本作は、チューダー初のカーボンコンポジット製ケースでもある。そのマットな質感と、チタン製リュウズ&プッシュボタンのコントラストはスタイリッシュにして精悍。フラットなサファイアクリスタルが、モダンなルックスをさらに強調している。しかも文字盤と指針のクリアランスは極少で、デイト表示と文字盤の隙間もわずか。このキリっとした表情は、極めて高度な工作精度のたまものなのだ。

チューダー ペラゴス FXD アリンギ・レッドブル・レーシング

マットブラックのカーボンコンポジットケースと、チタン製の回転ベゼル、リュウズ&プッシュボタンの対比が絶妙。ケースバックからサファイアクリスタルまでの厚さは実測値で13.5mmだ。


クロノグラフと回転ベゼル、計時装置の操作感

 プッシュボタンを操作してみる。クロノグラフ秒針の動き出しは、垂直クラッチらしくスムーズで秒飛びはない。しっかりとした押し心地は、ベースとなったブライトリングCal.01と同様、指からムーブメントへとダイレクトに力が伝わっていく感触だ。これはコラムホイールを“引いて”動かすのではなく、“押して”駆動させる構造に起因する。航空時計として名高いブライトリングがこのクロノグラフ操作を数値化してコントロールしている理由は、プッシュ操作が柔らかいとパイロットグローブ装着時に押した感覚が分かりにくいためだ。ぺラゴス FXD“アリンギ・レッドブル・レーシング”も、同様の明確な押し心地で好印象を受けた。ただし、リュウズによる主ゼンマイの巻き上げがやや重いのもCal.01と同様で、やや味気ない。このあたりは個人の好みの問題で、レーシングヨットの世界観を持つ腕時計であれば、逆に気にするほうが間違っているのだろう。

 もう少しブライトリングCal.01にまつわる情報を付け加えておこう。デイト表示は深夜12時になると瞬時に切り替わるタイプで、時間帯に関係なくいつでも日付の早送りを行うことができるのも便利。華々しいスペックを持つわけではないが、奇をてらわない実直な設計で、ベースムーブメントとして極めて優秀だ。これにチューダーが、非磁性のシリコンヒゲゼンマイを備えたフリースプラングテンプに改めており、ローターはタングステン製のモノブロック、もちろんC.O.S.C.クロノメーター認定を受けており、組み上げられた状態で日差-2秒~+4秒という高い基準を達成している。パワーリザーブは約70時間だから、金曜の夜に腕時計を外しても、月曜日の朝には再び主ゼンマイを巻く必要はない。

 アイコニックなスノーフレーク針も健在だ。スクエア型アワーマーカーと併せて発光面を最大化したデザインは、1960年代にチューダーが考案したもの。夜光のスーパールミノバは強力なグレードXが使用されており、過酷な条件下でも最適な視認性を確保するため、発光性セラミックス混合物で作られている。だが、3針ダイバーズウォッチのコレクションと違って、クロノグラフとスノーフレーク針の組み合わせは計測時に注意点がある。菱形部のサイズが大きいため、ダイアル表示の妨げになることがあるのだ。具体的には時針が45分積算計の上にくる3時前後の時間帯は、積算計の20分を超える目盛り(積算計の左側)が菱形部に隠れて見えなくなる可能性がある。その場合は回転ベゼルを併用するなどの工夫が必要だ。

チューダー ペラゴス FXD アリンギ・レッドブル・レーシング

スーパールミノバの中でもグレードX1は最高レベルの光量。標準グレードと比較して、2時間後に最大60%の性能向上を示す。

 スタートダッシュが重要なレガッタレースの場合、スタート時間までのカウントダウン計測が重要で、そのため回転ベゼルはダイバーズウォッチのような経過時間目盛りではなくカウントダウン目盛りとなる。その回転ベゼルの操作感が特筆もので、120クリックがすこぶる気持ちいい。全周1分刻みの目盛りと、逆回転防止式ではなく両方向に回して素早くセットできるのも、日常的に使うには都合がいい。また外周部の滑り止めは、親指で外周をなぞると肌が少し引っ掛かる感じがするほど効果が高く、極めて優れた操作性といえる。


ファブリックストラップが使いやすい!

 実をいうと、これまでNATOストラップは個人的にあまり好きではなかった。着用時に時計を左手首に乗せたあと、右手だけで尾錠にストラップを通し、ピンを穴に入れて固定するのが苦手で、いつも手間取るからだ。

 しかし、ぺラゴス FXD“アリンギ・レッドブル・レーシング”の尾錠はピンを穴に通すタイプではなく、フック&ループ方式、いわゆるバリバリバンド(面ファスナー)である。着用2日目には、ストラップの先を少しだけ穴に差し込んでおいて手首を通せば、フォールディングバックルのようにスムーズに着脱できることを発見した。また原稿を書く際も、手首の裏側に尾錠やバックルがないため、まったくパソコン作業の邪魔にならない。これなら仕事がはかどる(……はず?)。

チューダー ペラゴス FXD アリンギ・レッドブル・レーシング

チタンバックルにストラップの先を少し入れると、バリバリバンド部が引っ掛かる。そこに左手を通せば、フォールディングバックルのように着脱がスムーズ。

チューダー ペラゴス FXD アリンギ・レッドブル・レーシング

筆者の腕に固定すると、ファブリックストラップの先端はこの位置に。面ファスナー部に幅があるため長さを調整しやすく、ウェットスーツの上からでも着用可能だ。ただし、フリースなどを着用していると、余ったバリバリ部に毛玉ができやすいのが難点。

チューダー ペラゴス FXD アリンギ・レッドブル・レーシング

パソコンのキーボードを打つ際、分厚いバックルや尾錠は邪魔になるが、手首の裏側はご覧のとおりスッキリ。もともとチューダーはシングルピースのファブリックストラップを2010年に採用した先駆者であり、今回のジャカード織りリボンとセルフグリップ着脱システム、チタンバックルの組み合わせは、フランスのジュリアン・フォール社とぺラゴス FXD用に共同開発したもの。


誰かに見せびらかしたくなるほどスタイリッシュ

チューダー ペラゴス FXD アリンギ・レッドブル・レーシング

 ケース径は43mmと堂々たるサイズながら、重量はストラップ込みでわずか90g(計測値)。本体が重いとブレスで重量バランスを取るか、ストラップなら本体が手首からずれ落ちないよう締め付ける必要も出てくるが、これほど本体が軽量ならファブリックストラップとも相性がいい。手首が細い方も43mmのケースサイズに臆することなく、まずはショップで試着してみることをおすすめする。

 この10日間、とにかく肌身離さず着け続け、濃密な時間をともに過ごしたが、最初から当たり前のように筆者の左手首に収まった気がする。おそらく誰がオーナーになっても使いやすいオールマイティなモデルなのだ。フラットな形状のためシャツの袖口を傷めることはないし、ブルーといってもブラックに近い落ち着いた色味で、ケースも文字盤もマットな仕上げのため、ビジネスシーンで悪目立ちすることもなかった。200m防水機能を備えているため、外出中に突然の大雨にあっても安心だ。必要ないときは着けているのを忘れるほど軽快で、時間を確認したいときは昼夜関係なくいつでも明確に時刻表示してくれた。

 一方、研ぎ澄まされた機能美は時に周囲の目を引きつけた。電車のつり革をつかんだ左手に視線を感じることも何度かあった。手首から外して眺めると、絶妙な赤のアクセントを含めて、そのカッコよさに惚れぼれとした。誰かに見せびらかしたくなる、それほどスタイリッシュ感が際立っていた。堅牢な作りに高性能を詰め込み、さらにデザインと最良の価格も追求した「ぺラゴス FXD“アリンギ・レッドブル・レーシング”」は、ミドルレンジでまさに無敵のクロノグラフではないだろうか。


Contact info:日本ロレックス / チューダー Tel.0120-929-570


チューダーとアリンギ・レッドブル・レーシングとのパートナーシップを記念した「ペラゴス FXD」の新作を2モデル発表

https://www.webchronos.net/news/98850/
こういう時計を待っていた! 注目の新作、チューダー「ペラゴス 39」

https://www.webchronos.net/features/84393/
海軍スペックの“大人な”ダイバーズ。チューダー「ペラゴスFXD」を実用レビュー

https://www.webchronos.net/features/89244/