apothéose(虎ノ門)/この世ならぬ美味のクリエイター

2024.04.07

パリで5年連続ミシュラン一つ星を獲得した北村啓太氏が、頂点を狙うべく凱旋帰国。自身の想いをかたちにしたフレンチガストロノミー「apothéose」が誕生した。


北海道のブランドニラ「北の華」のオイル、長芋、根付きパクチー、霜降りの鯛、岩塩で焼いた蓮根、紫雲丹、はこべを重ね、仕上げに「いのちの壱」を使ったお米のブイヨンをかけたスペシャリテ。風味や食感、温度帯も多彩ながら秀逸な一体感ある一皿に。鯛はパリでお世話になった魚屋「Les vents du large」からのご縁で、明石の魚屋「つる一」の鶴谷真宜氏より。
外川ゆい:取材・文 Text by Yui Togawa
三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
[クロノス日本版 2024年3月号掲載記事]


心に響く数々が記憶に刻まれる

北村啓太

北村啓太(Keita Kitamura)
1980年、滋賀県生まれ。辻エコールキュリネール大阪あべのを卒業後、「La Napoule」「Les Créations de NARISAWA」にて8年間にわたり成澤由浩氏に師事。2008年に渡仏し、「Pierre Gagnaire」「Chez les Anges」などの名店を経て、「Au Bon Accueil」のシェフに就任。「ERH」では5年連続で一つ星を獲得。23年に帰国し、「apothéose」をオープン。

「apothéose(アポテオーズ)」とは、フランス語で最高の栄誉、至上の栄光、頂点、見事な開花の意。その名に相応しく、2023年11月にオープンしたレストランは、虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの最上階に位置する。「このままパリで二つ星を狙うか、日本に帰国して店を開くか」と悩んだ末の北村啓太氏の答えだ。

 エレベーターをいくつか乗り継いで辿り着くと、まずアペロスペースで一服。時間をかけて丁寧に抽出したお茶でおもてなしが始まる。扉が開くと、厨房と厨房の間を通り抜けるかのようにダイニングへと進む。テーブルにはよくあるウェルカムプレートではなく、最初のアミューズブッシュへと導くオブジェが置かれているので、訪れた際のお楽しみに。「apothéose」には、北村氏からゲストに向けた“贈り物”と呼びたくなるいくつもの仕掛けがちりばめられている。香りや音もここにしか存在しないオリジナルだ。

 スペシャリテにもハッとする仕掛けが隠されている。優美な一皿に真っ白なソースが注がれると、二重の円が出来上がり、その光景にうっとり。緩急ある緻密な構成だが、口へ運ぶと自然と心地よい。鯛が主役かと思いきや、小田原の「いのちの壱」というブランド米で作るブイヨン在りきで完成する一皿だ。北村氏は、農家、酪農家、漁師といった生産者への敬愛の念に溢れている。そのため、小さな一皿にいくつものストーリーが詰まっている。

 ちなみに、この「米」が登場するのは、コースのなかで料理の最後。「日本料理のように締めにご飯ものでほっこりとしていただければと考えました。お肉料理はお腹に余裕がある中盤にご堪能いただき、そのすぐ後には野菜を主役にした一皿が続きます。これはフランスの食文化に由来していて、身体にも優しい食べ方です」。

「apothéose」での時間には、非日常の昂揚を感じながらも、心が穏やかに満たされるという相反するような感情を同時に覚える。北村氏は、技術や感性が優れているのは勿論、人の心を見事に掴む。それ故、料理とレストランを形成する要素ひとつひとつが食べ手の心に届く。ディナーを終えたゲストたちは皆、北村氏率いるチームに喝采を送るだろう。


apothéose(アポテオーズ)

apothéose

食材を巡る旅で出逢った88個の音の素材を「SOUND CoUTURE」がデザインしたサウンドが包み込む店内。内装デザインは「スペース・コペンハーゲン」、香りは「アロナチュラ」によるもの。

東京都港区虎ノ門2-6-2
虎ノ門ヒルズ ステーションタワー49F(TOKYO NODE内)
Tel.03-6811-2573
日曜・月曜定休
17:30~23:00(L.O.19:30)
おまかせコース2万5000円~(サービス料12%別)


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