カール F. ブヘラ進化の法則

2017.06.01

Cal.A2000系

Cal.CFB A1000のDNAを受け継ぎながらも、新世代のベースムーブメントとして、さまざまな特徴を備えたCFB A2000。直径30.6mmで、実際にマネロ ペリフェラルに搭載されるA2050の厚さは5.28mmと、これも薄型だ。ペリフェラルローター自動巻き、33石、パワーリザーブ約55時間は、CFB A1000と共通しているが、テンプの振動数が2万8800振動/時に高速化され、さらにC.O.S.C.認定クロノメーターの高精度を誇る。今後、幅広いモデルへの搭載が期待される。

Cal.CFB A2000の開発に際しての方針、すなわち「改良、シンプル化、少ない部品で同機能」は、代表機構のペリフェラルローターでも早速実行された。外観だけからは分かりづらいが、CFB A1000では11個あったコンポーネントが3個に集約されている。それでも高効率の両方向巻き上げや、耐衝撃性は変わらないという。


Cal.CFB A2000において外観も機能もまったく別物になったのがテンプの部分。緩急針を持たないフリースプラングに変更され、テンワの4本のアームに調整用のウェイトを置くジャイロ式の設計に改められた。前作より少ない部品点数で構成され、安定した高精度を目指す。

 ペリフェラルローターが特徴の自社ムーブメント、キャリバーCFB A1000は、2013年のCFB A1011までファミリーを拡大してきたが、そうした過程ですでに次世代の自社ムーブメントを構想していたという。CFB A2000である。

 これもまたベースキャリバーの役割を担い、カール F. ブヘラの工房で開発された自社製の機能モジュールを追加してファミリーのバリエーションを形成すべく考えられたものである。この場合も拡張性を前提にして計画的に設計された基幹ムーブメントという役割は同じであり、外見の点でも、ペリフェラルローター、香箱、輪列、テンプなどのレイアウトは先のA1000と大差なく、一瞥では、ブリッジに施された装飾がコート・ド・ジュネーブに置き換えられたことぐらいしか気づかないほどだ。

 では、どこが違うのか? カール F. ブヘラで自社ムーブメントの開発を担うフィリップ・ルーリッヒ氏は、新しいA2000の開発に3つのガイドラインを導入したという。改良できる点は改良する、シンプルに改められるならそうする、少ない部品点数でより多くを達成する、というやり方である。そこから見て取れるのは、真摯に取り組むマニュファクチュールの姿だ。

 まず、あのペリフェラルローターが、同じようで微妙に違っているのだ。A2000では、これまで11個のコンポーネントで構成されていたこのローターをわずか3個で実現。機能自体を簡略化するのではなく、より少ない部品とシンプルな設計で同等の機能をスマートに実現するという方法論の具体的な成功例が新型ベースムーブメントに導入された改良型ペリフェラルローターなのだ。


 そして、決定的な違いはテンプの構造にある。初代A1000ではテンプ受けに緩急調整用のバーや調整をロックする装置を据えた特許のCDAS機構に特色があったが、これも一新。フリースプラングに置き換え、アームに慣性モーメントを調整するブロックを配置した新しいテンワを採用した。フリースプラングと慣性ブロック付きテンワを組み合わせて使用する場合のメリットは、一般的に高精度を安定して維持できるところにある。テンプの大幅な変更の狙いは、おそらくそこにある。実際、2016年発表の「マネロ ペリフェラル」に搭載されているA2000系のA2050は、テンプの振動数が毎時2万8800回に高速化して外乱にも強く、さらにC.O.S.C.認定クロノメーターの高精度となっている。認定クロノメーターは、完全自社開発製造のマニュファクチュールムーブメントとしては同社初だが、今後のファミリーの拡充においてもその高精度がキーポイントになるのは間違いない。

 このようにA1000を改良して進化したA2000だが、A1000の代替機として開発されたわけではない。補完関係と言えるふたつは、あくまでも並行して存在し、前者は近未来的なデザインの「パトラビ エボテック」シリーズ向け、後者は「マネロ ペリフェラル」から始まる新しいクラシカルなモデル向けというすみ分けがある。

 また、より量産に適していて、デザインを問わず、さまざまなモデルへの搭載も可能という汎用性も備わるA2000は、これからのコレクションの拡充や質的向上に活用されるはずだ。今後の展開が大いに楽しみである。

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