現代におけるパイロットウォッチの在り方を再考する。そんな『クロノス日本版』Vol.98「パイロットウォッチ礼賛」特集を、webChronosに転載。今回から、実際のパイロットにインタビュー。活動内容や現場での現実とともに、彼らの“時”との向き合い方に注目。第一回は、航空自衛隊のパイロットである曾我隆二さん、福田哲雄さんのインタビューだ。
Photographs by Yu Mitamura
鈴木幸也(本誌):取材・文
Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2022年1月号掲載記事]
Pilot’s Interview 1 曾我隆二さん、福田哲雄さん
航空自衛隊は日本の空を守る唯一の組織である。24時間365日、日本周辺の空域を常時監視し、我が国の独立と平和を守っている。そんな彼らは、どのように“時”と向き合っているのだろうか? 航空自衛隊の現役パイロットに、その活動内容と現場の現実を直撃した。
「航空機は高速のため、搭乗前に時間を合せる『タイムハック』をパイロット全員で行います」


航空自衛隊のパイロットたちは日々、任務に応じた航空機に搭乗し、ミッションを遂行している。本誌の取材依頼に対し、現役のパイロットでもある防衛省航空幕僚監部広報室広報班長の福田哲雄さんが、コックピットの中の様子を解説してくれた。
「もちろん、過酷な環境です。特に、戦闘機の機動では、最大で約7G(Gは重力加速度)の負荷がかかります。つまり、体重が60kgの人なら、その7倍の420kgの重さが体全体にかかるということです。下向きにGがかかると、最悪の場合、脳に血がまわらず意識喪失に陥る可能性があります。ですが、下向きに重力がかかるプラスGよりも、むしろマイナスGのほうがキツイですね。エレベーターに乗っている時にフワッと体が浮くあの感覚です。プラスGよりもこのマイナスGによって気持ち悪くなることがあります。また、大きなGを経験した後は、体の一部が内出血を起こしていて、戦闘機から降機した後に、皮膚に斑点が浮き出ていることに気付くこともあるんです」
これほど過酷な環境下にあって、果たして彼らは、コックピット内でどんな腕時計をしているのだろうか?
「実は、腕時計には規定はありません。各自がそれぞれ自分の気に入った腕時計を装着しています。G-SHOCKをはじめ、意外と多いのが電波時計ですね。航空自衛隊は常にチームで行動します。航空機の速度は非常に速いことから時間管理が重要なのです。そのため、『タイムハック』と呼ばれる秒単位での時間合わせを、飛行するメンバー全員で行います」
それにしても、最大7Gの重力加速度がかかるというコックピット内で腕時計の耐久性は問題ないのだろうか?
「私の知る範囲では、飛行中に腕時計が壊れたという話は聞いたことがありません。各々、基本的に市販されている腕時計を使用していますが、問題ありません。むしろ正確さが重要です」


あまりに明瞭な回答に拍子抜けしてしまったが、ミッションは時間が重要であり、しかも現在も飛行前に「タイムハック」を行っていることを知ることができたのは貴重な経験であった。
今日もまた航空自衛官が、この空の上で、そして時には陸上で、自身の腕時計を頼りに、日本の空を守ってくれていると思うと、とても心強い。