【パイロットウォッチ特集】現役パイロットは、どのように“時”と向き合っているのだろうか?

2025.05.19

現代におけるパイロットウォッチの在り方を再考する。そんな『クロノス日本版』Vol.98「パイロットウォッチ礼賛」特集を、webChronosに転載。今回から、実際のパイロットにインタビュー。活動内容や現場での現実とともに、彼らの“時”との向き合い方に注目。第一回は、航空自衛隊のパイロットである曾我隆二さん、福田哲雄さんのインタビューだ。

パイロットにとって、パイロットウォッチがまだ“現役”だった時代

FEATURES

民間パイロットウォッチのための「GMT」機構を、ロレックスやブライトリングなどのモデルから理解する

FEATURES

三田村優:写真
Photographs by Yu Mitamura
鈴木幸也(本誌):取材・文
Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2022年1月号掲載記事]


Pilot’s Interview 1 曾我隆二さん、福田哲雄さん

 航空自衛隊は日本の空を守る唯一の組織である。24時間365日、日本周辺の空域を常時監視し、我が国の独立と平和を守っている。そんな彼らは、どのように“時”と向き合っているのだろうか? 航空自衛隊の現役パイロットに、その活動内容と現場の現実を直撃した。


「航空機は高速のため、搭乗前に時間を合せる『タイムハック』をパイロット全員で行います」

福田哲雄

現役パイロットの防衛省航空幕僚監部広報室広報班長の福田哲雄さん。
曾我隆二

同じくパイロットの同広報室報道班の曾我隆二さん。

 航空自衛隊のパイロットたちは日々、任務に応じた航空機に搭乗し、ミッションを遂行している。本誌の取材依頼に対し、現役のパイロットでもある防衛省航空幕僚監部広報室広報班長の福田哲雄さんが、コックピットの中の様子を解説してくれた。

「もちろん、過酷な環境です。特に、戦闘機の機動では、最大で約7G(Gは重力加速度)の負荷がかかります。つまり、体重が60kgの人なら、その7倍の420kgの重さが体全体にかかるということです。下向きにGがかかると、最悪の場合、脳に血がまわらず意識喪失に陥る可能性があります。ですが、下向きに重力がかかるプラスGよりも、むしろマイナスGのほうがキツイですね。エレベーターに乗っている時にフワッと体が浮くあの感覚です。プラスGよりもこのマイナスGによって気持ち悪くなることがあります。また、大きなGを経験した後は、体の一部が内出血を起こしていて、戦闘機から降機した後に、皮膚に斑点が浮き出ていることに気付くこともあるんです」

ハミルトン「カーキ X -ウィンド デイデイト オート クロノ」、カシオ「プロトレック」

左は、福田さんが愛用するハミルトン「カーキ X -ウィンド デイデイト オート クロノ」。購入時はレザーストラップだったが、任務中に汗をかいてもいいようにブレスレットに換装した。右は、曾我さんが常用するカシオ「プロトレック」。実用性は文句なし!という。

航空自衛隊のパイロットたちはチームで任務を遂行する。ミッションの前には全員の腕時計を秒単位まで合わせてコックピットに搭乗する。高速で飛行するパイロットにとっては“時間”こそがお互いを認識し合う必要不可欠な“ツール”なのだ。

 これほど過酷な環境下にあって、果たして彼らは、コックピット内でどんな腕時計をしているのだろうか?

「実は、腕時計には規定はありません。各自がそれぞれ自分の気に入った腕時計を装着しています。G-SHOCKをはじめ、意外と多いのが電波時計ですね。航空自衛隊は常にチームで行動します。航空機の速度は非常に速いことから時間管理が重要なのです。そのため、『タイムハック』と呼ばれる秒単位での時間合わせを、飛行するメンバー全員で行います」

F-2

米国の「F-16」をベースに日米共同で開発された「F-2」に登場するパイロット。

航空自衛隊のパイロットになるためには3つのルートがある。そのうちのひとつが高校卒業資格で入隊できる「航空学生」だ。若くして訓練を受けられるため、航空自衛隊の練度の高さにも寄与する。あとふたつのルートは防衛大学校への入学と、一般の大学を卒業してからの応募だという。

 それにしても、最大7Gの重力加速度がかかるというコックピット内で腕時計の耐久性は問題ないのだろうか?

「私の知る範囲では、飛行中に腕時計が壊れたという話は聞いたことがありません。各々、基本的に市販されている腕時計を使用していますが、問題ありません。むしろ正確さが重要です」

航空救難活動

航空自衛隊にとって重要な任務のひとつが航空救難活動である。救難ヘリコプターなどで、遭難した機体や乗組員を捜索・救助したり、東日本大震災のような災害時には被災者を救援・輸送したりする。
F-15

航空自衛隊の主力戦闘機の「F-15」。現在、全国に約200機が配備される。

 あまりに明瞭な回答に拍子抜けしてしまったが、ミッションは時間が重要であり、しかも現在も飛行前に「タイムハック」を行っていることを知ることができたのは貴重な経験であった。

 今日もまた航空自衛官が、この空の上で、そして時には陸上で、自身の腕時計を頼りに、日本の空を守ってくれていると思うと、とても心強い。


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