2023年、自身の名を冠したブランド「ビバー」を立ち上げたジャン-クロード・ビバー。同年、カリヨン・トゥールビヨンなど、いきなり超ド級のコンプリケーションを発表して大いに時計業界の注目を集めたが、翌24年には、一転してシンプルなマイクロローター自動巻きの3針モデルをリリースし、その完成度の高さで再び世界の目利きたちをうならせた。
Photograph by Eiichi Okuyama
鈴木幸也(本誌):取材・文
Edited & Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年5月号掲載記事]
見えない部分を完璧にマスターする。それが原理原則

ビバー創業者。1949年、ルクセンブルク生まれ。オーデマ ピゲでキャリアを積み、ASUAGグループ(現スウォッチ グループ)に入社。82年にブランパンを再興し、機械式時計の復興に貢献。2004年、ウブロCEOに就任。「アート オブ フュージョン」をコンセプトに、2年間で売り上げを約4倍にまで拡大させた。14年、LVMHグループ時計部門プレジデントに就任。23年、自身の名を冠したJCビバー(現ビバー)を創業。
「最初の時計は私自身を表現するのに最適なモデルは何かを考えました。ウォッチメイキングの最高峰と言えるものこそが、自分を体現するのにふさわしいと思い至り、カリヨン・トゥールビヨンを出しました。ただ、これを実現するには当然、価格帯も非常に高くなってしまい、誰もが購入できるモデルではなかったと思います。そこで、もう少し手の届きやすい価格帯のものを創ろうということになりました。ミニッツリピーターやトゥールビヨン、カリヨンをなくして、しかし同じクォリティのモデルでありながら、複雑機構のないシンプルな3針のモデルをビバーのエントリーモデルとして考案し、昨年発表しました」
ビバーは、この新作「オートマティック」を「自身のキャリアの中のこの30年において最高のモデル」と語ったが、そう語らせたのはなぜか?
「ビバーウォッチのコンセプトとして〝マスター・ザ・インヴィジビリティ〞があります。すなわち〝見えない部分を完璧にマスターする〞という原理原則です。したがって、内部に格納されているすべての部品も完璧に仕上げるというのがブランドのコンセプトです。例えば、通常は外からは目に見えないネジひとつ取っても、そのネジ頭にはブラックポリッシュを施しています」

2024年発表の3針+ノンデイト+マイクロローター自動巻きのシンプルウォッチ「オートマティック」。創業直後は、ハイエンドなコンプリケーションのみであったが、エントリーモデルとしてラインナップに追加された。これは文字盤にブラックエナメルを採用したアワーグラス銀座限定モデル。自動巻き(Cal.JCB.003)。36石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約65時間。18KRGケース(直径39mm、厚さ10mm)。8気圧防水。限定3本。1743万5000円(税込み)。
1本のネジ頭をブラックポリッシュするのに約45分かかるという。
「ネジは全部で92本ありますが、1本あたりこれだけの時間をかけても決して手を抜かずに仕上げます。これこそが、オートマティックを指して、私がこの30年のキャリアにおいて最高の時計と呼んだゆえんです。実際、ひとりの職人が1本の時計のネジ全部を磨くのにかかる時間は約69時間です。これはフランスだと2週間かかる仕事量になります。見えないネジの仕上げに2週間もかかるんですよ!(笑)」
ビバーは、この〝マスター・ザ・インヴィジビリティ〞こそが、自身を導くガイドラインだと明言する。
「時間そしてコストを考えると、これは驚異的なことですが、時計の機能や性能に貢献することではまったくありません。見えないところに、これだけの手間とコストをかけることが凄いことなんです」