高精度と審美性を兼ね備えた腕時計で世界のウォッチエンスージアストから熱い視線を浴びるローラン・フェリエ。彼らは先ごろ一軒家から、より広くモダンなビルのワンフロアへとアトリエを移転した。その背景には何があるのか? その意図を解明しつつ、精度や美観のみならず、実用性にも富むローラン・フェリエの時計作りの核心に迫る。

Photographs by Masahiro Okamura (CROSSOVER)
名畑政治:文 竹石祐三:編集
Text by Masaharu Nabata, Edited by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2025年7月号掲載記事]
実用的かつ審美的な時計を生む、ローラン・フェリエの新拠点
ジュネーブの有名老舗ウォッチメゾンに37年間在籍した辣腕時計師ローラン・フェリエ氏。そこを退職した彼は2009年、古い友人のフランソワ・セルヴァナン氏、機械技師である息子クリスチャンらとともに独立ウォッチメーカー、ローラン・フェリエを設立した。翌年、初の製品「ガレクラシック トゥールビヨン ダブル スパイラル」を発表し、世の時計愛好家に存在を知らしめたのである。
その生産拠点がジュネーブ郊外に位置するプラン・レ・ワット地区の一軒家であった。このアトリエは時計愛好家にとっての理想。古びた館の一室で、腕利きの時計師たちがコツコツと時計の生産に勤しんでいるさまを想像しただけで心ときめく。
ところが先ごろ、同社は同じプラン・レ・ワット地区の大きなビルにアトリエを移転した。そこには一体、どんな意味があるのだろうか?
理由を聞くと実に明快。確かに一軒家のアトリエは理想に思えるが、実際は部品の設計から仕上げ、組み立てから精度検査まで、各部門が別々の部屋に分散し、円滑な生産が難しかったという。そこで移転した新アトリエは、近代的で広いワンフロア。しかも動線を時計師自身が考えたことで、合理的かつ快適な環境が構築できたという。

とはいえ、生産体制の基本は以前と同じ。ひとりの時計師が最初から最後までひとつの時計を組み立て、調整するという原則はしっかりと守られている。ここで重要なのが装飾部門。現在、アトリエに在籍する42名のスタッフのうち、12名が装飾専門の職人であり、16名が時計師だが、彼ら時計師も作業時間の30%を仕上げに費やすという。これをアトリエ全体の作業量の中で考えると、実にチームの約70%が装飾作業に携わっていることになる。つまり、ローラン・フェリエにおけるムーブメント装飾はブランドとして極めて重要な位置を占めているのだ。


事実、ローラン・フェリエの自社ムーブメントでは、基本的に同じキャリバーでも、古典的なコート・ド・ジュネーブ仕上げのバージョンと、サテンブラッシュ仕上げにルテニウム加工のモダンなバージョンの2種があり、それぞれモデルの個性に合わせて使い分けている。このようにムーブメントの仕上げでモデルの個性を際立たせる手法は、これまでほとんど見たことがない。加えて、所属する時計師全員がローテーションで作業を行い、最終的には自社の全キャリバーの組み立てを経験することで、全員があらゆるキャリバーに精通することを目指している。また、キャリバーによって個数は異なるが、2〜6個の時計を同時に組み立て、品質を比較しながら作業することで高いクォリティを保ちつつ、すべてのモデルが完成へと導かれる。さらに、すべての時計は精度と品質の向上を目指して2度組みを実施。その過程で全製品が完成まで数回にわたり時計製造責任者によるチェックを受ける。


この徹底した製造システムと、それをより高い次元で実現すべく行われた新アトリエへの移転。聞けば、ローラン・フェリエにはブランドの基本理念として、こんな言葉があるという。それが「Happy watchmakers makethe best watches(幸福な時計師こそが最高の時計を作る)」。新工房はまさに「幸福な時計師」が働く時計作りの理想の新天地なのである。
ムーブメントの構造で見極める9モデルの真価
ローラン・フェリエの自社製ムーブメントは、効率に優れるナチュラル脱進機やプラチナ製マイクロローター、高精度なトゥールビヨンや古典時計に倣ったロングブレード・ラチェットシステムなど、多くの特徴を備えている。その自社製ムーブメントの特徴を解説しながら、各キャリバーを搭載する9モデルを紹介。購入時に検討しやすいガイドを参考に、最適なモデルを見極めていただきたい。
Cal.LF270.01
最上級の美観と性能を備えた自動巻きムーブメント
ローラン・フェリエの自動巻きムーブメント2号機で、実用に強いスイスレバー脱進機を搭載。ブリッジで保持されたオフセンターのプラチナ製マイクロローターはボールベアリングによる片方向巻き上げを採用し、高い安定性を実現。ローターには巻き上げ方向を示すシェブロン模様または3位入賞時のル・マンレース記録を彫り込み、ブリッジは職人の手作業による複数の工程を経て、面取りを丁寧に仕上げている。日付表示搭載。仕上げはコート・ド・ジュネーブ仕上げと、サテンブラッシュおよびルテニウム仕上げの2種。自動巻き。スイスレバー脱進機。部品数215個。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。直径31.60mm。厚さ4.85mm。
自動巻き。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径40mm、厚さ11.94mm)。3気圧防水。ピンバックル仕様:841万5000円(税込み)。フォールディングクラスプ仕様:869万円(税込み)。
【こんな方にオススメ】
・毎日決まった時間に巻くのは面倒 → 自動巻き
・オン・オフどんなスタイルにも → シンプルなラウンドのクラシックケース
・日付表示は必要 → スロープを付けて視認性を高めた日付表示窓
・控えめだが地味ではないデザインが好き → 伝統的な技法による高級感のある仕上げ、爽やかなアイスブルー、文字盤のセンタークロスライン

自動巻き。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。Tiケース(直径41.5mm、厚さ12.7mm)。12気圧防水。916万3000円(税込み)。
【こんな方にオススメ】
・アウトドアなどのオフタイムにも使いたい → 120m防水、ねじ込み式リュウズ
・ストレスフリーな着け心地がいい → 軽量なチタン素材、緻密なカーブのブレスレット
・手首で腕時計が目立ち過ぎない → すべて曲線で設計され手首になじむデザイン
・人に話したくなる開発秘話がある → ル・マン24時間レース、3位獲得へのオマージュ
Cal.LF116.01/ LF126.02
古典時計を思わせる審美性を備えた手巻きムーブメント
シンプルだが最上級の精度と審美性を兼備するCal.LF116.01。ブリッジはマイクロブラスト加工にブラックロジウム仕上げ。チラネジ付きテンプにブレゲ式ヒゲゼンマイを採用して等時性を高めている。香箱の逆転防止は巻き上げ時に心地よい感触が得られるロングブレード・ラチェットシステム。手巻きキャリバーに初のムーンフェイズを装備したCal.LF126.02は、逆戻し可能なアニュアルカレンダーも搭載する。手巻き。スイスレバー脱進機。部品数150個。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約80時間。直径31.60mm。厚さ4.35mm。Cal.LF126.02は部品数266個、25石、厚さ6.30mm、コート・ド・ジュネーブにロジウム仕上げ。パワーリザーブインジケーターをムーブメント裏面に装備。

手巻き。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約80時間。Tiケース(直径40mm、厚さ11.1mm)。3気圧防水。617万1000円(税込み)。

手巻き。25石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約80時間。18KRGケース(直径40mm、厚さ12.9mm)。3気圧防水。ピンバックル仕様:1496万円(税込み)。フォールディングクラスプ仕様:1551万円(税込み)。
【こんな方にオススメ】
・機械式の伝統に魅力 → ボール型リュウズ、ロングブレード・ラチェットシステム
・ロングパワーリザーブが良い → パワーリザーブ約80時間
・デザインはモダンでスタイリッシュがいい → チタン製ケース+グラデーションブルー文字盤(クラシック・オリジン)
・カレンダー調整を気にせず使いたい → ユーザーフレンドリーなアニュアルカレンダー搭載(クラシック・ムーン)
・職人の手仕事の技に魅力 → 意匠をこらしたムーンフェイズ表示搭載(クラシック・ムーン)
Cal.LF619.01
ムーブメント裏面に秘めた高機能トゥールビヨン
19世紀に製作された古典的な高精度時計へのオマージュとして開発されたCal.LF619.01は、メゾンの根幹をなすキャリバーだ。流麗な曲線のブリッジに支えられたトゥールビヨンには、ふたつのヒゲゼンマイが向かい合うように組み込まれ、テンプの重心移動を補正し合うことで高精度を確保。軽やかな手応えが特徴のロングブレード・ラチェットシステムを装備する手巻き式。仕上げはルテニウムコーティングのサテン仕上げとコート・ド・ジュネーブのロジウム仕上げがあり、モデルにより使い分けられる。手巻き。スイスレバー脱進機。部品数188個。23石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約80時間。直径31.60mm。厚さ5.57mm。

手巻き。23石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約80時間。18KYGケース(直径41mm、厚さ12.5mm)。3気圧防水。ピンバックル仕様:3366万円(税込み)。フォールディングクラスプ仕様:3421万円(税込み)。

手巻き。23石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約80時間。Tiケース(直径44mm、厚さ13.4mm)。10気圧防水。3272万5000円(税込み)。
【こんな方にオススメ】
・ブランド最高峰のモデルを持ちたい → GPHG受賞のトゥールビヨン搭載
・他のブランドにはない独自の特徴 → ダブルバランススプリング機構
・古典的なデザインに魅力 → グラン フー エナメルで古典的に仕上げた文字盤(クラシック・トゥールビヨン)
・伝統的な複雑機構だが、現代らしいデザイン → オールチタン製ケース&ブレスレット+サーモンピンク文字盤(グランドスポーツ・トゥールビヨン)
・人に話したくなる開発秘話がある → ル・マン24時間レース、3位獲得へのオマージュ(グランドスポーツ・トゥールビヨン)
Cal.FBN229.01/ LF230.02
ナチュラル脱進機採用の高性能自動巻きムーブメント
ラチェット機構による片方向巻き上げのマイクロローターを搭載し、ブリッジとローターそれぞれに施された繊細な装飾にも目を奪われるCal.FBN229.01。心臓部はテンプに2回のダイレクトインパルスを与えることで、1回の振動で2回のテンプの再スタートを可能とし、エネルギー効率を最大限に高めたナチュラル脱進機を採用。ゴールドローターであればナチュラル脱進機と分かる。自動巻き。部品数186個。35石。2万1600振動/ 時。パワーリザーブ約72時間。直径31.60mm。厚さ4.35mm。デュアルタイム機構を組み込んだ一体型ムーブメントがCal.LF230.02。直径や振動数、パワーリザーブは同一だが、部品数288個、44石で、厚さは5.80mmとなっている。

自動巻き。35石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KRGケース(直径40mm、厚さ11.1mm)。3気圧防水。ピンバックル仕様:1309万円(税込み)。フォールディングクラスプ仕様:1364万円(税込み)。

自動巻き。35石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KWGケース(直径41mm、厚さ11.1mm)。3気圧防水。ピンバックル仕様:1309万円(税込み)。フォールディングクラスプ仕様:1364万円(税込み)。

自動巻き。44石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KWGケース(直径41mm、厚さ12.64mm)。3気圧防水。ピンバックル仕様:1683万円(税込み)。フォールディングクラスプ仕様:1738万円(税込み)。
【こんな方にオススメ】
・クロノグラフ等のにぎやかな文字盤の複雑機構はすでに所有 → 繊細な針とインデックスのみのシンプルな文字盤(クラシックまたはスクエア・マイクロローター)
・でも、複雑機構ムーブメントが好き → ナチュラル脱進機
・職人の手仕事の技に魅力 → シャンルヴェエナメルの文字盤(クラシック・トラベラー)
ローラン・フェリエ取り扱いショップリスト
【東京】 タカシマヤ ウオッチメゾン 東京・日本橋 Tel.03-3211-4111
アワーグラス銀座 Tel.03-5537-7888
【神戸】 カミネ Tel.078-321-0039
【高松】 アイアイイスズ 本店 Tel.087-864-5225
【福岡】 大丸福岡天神店 Tel.092-712-8181