2024年に発表されたブライトリング創業140周年記念限定モデルに積まれていた初の自社製永久カレンダークロノグラフムーブメントCal.B19が、レギュラーモデルのナビタイマーに搭載された。ステンレススティール製ケースにアイスブルーの文字盤を合わせ、とても爽快なルックスに仕上がっている。同社開発部門トップのコメントを交えながら、その魅力を深掘りする。

70年以上にわたり、ブライトリングの象徴であり続けるアイコニックピースに、創業140周年を記念して発表された同社初の自社製パーペチュアルカレンダークロノグラフムーブメントCal.B19を搭載。プラチナ製ベゼル、バタフライ式の7連SS製ブレスレットを装備。COSC認定クロノメーター。自動巻き(Cal.B19)。39石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約96時間。SSケース(直径43mm、厚さ14.94mm)。3気圧防水。482万9000円(ブレスレット仕様)。
Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
吉田巌:編集・文
Edited & Text by Iwao Yoshida
[クロノス日本版 2025年7月号掲載記事]
永久カレンダークロノグラフをついにレギュラーモデルに搭載
クロノグラフの名門ブライトリングは、2024年に創業140周年を迎えた。それを記念し、ナビタイマー、スーパー クロノマット、プレミエの3つのコレクションから、18Kレッドゴールド製ケースの限定モデルを発表。いずれも初の自社製永久カレンダークロノグラフムーブメント、Cal.B19を搭載していることが大きな話題を呼び、日本ではあっという間に完売してしまった。
多くの時計ファンは、B19が将来的にレギュラーモデルに搭載されることを期待していたが、早くもその夢がかなった。トップバッターとして選ばれたのは、SS製ケースのナビタイマー。ご覧の通り、すこぶる美しい仕上がりである。
デザイン的なハイライトは、澄み切った空を想起させるアイスブルーの文字盤カラー、そして12時位置にセットされた精巧な月を描いたムーンフェイズだ。1952年に世界初の航空用回転計算尺付きのクロノグラフとして誕生して以降、多くのパイロットに愛され、やがてNASAの宇宙飛行士スコット・カーペンターが着用した24時間運針の派生モデル(コスモノート)を生んだナビタイマーの歴史とリンクする佇まいだ。コレクションの象徴的なディテールである刻み入りの回転ベゼルはプラチナで作られており、高級感も申し分ない。同社製品開発部門トップを務めるイヴァン・グレグイッチは語る。
「B19はユーザーエクスペリエンスの最適化を図るため、可能な限り多くの調整をリュウズで行えるようにしました。そのためケース側面に配されるカレンダーのコレクター(調整装置)を最小限にでき、これもナビタイマーの洗練された美観を保つことに貢献していると考えます。左サイドにあるふたつのコレクターは、右サイドのリュウズやプッシュボタンと完璧なバランスを成す位置に配置。こうした細部への情熱も審美眼の高い人々に響くと確信しています」

ところで、B19の開発はいつ頃から始まったのだろうか。改めて説明すると、こちらは2009年に初の完全自社開発・製造の自動巻きクロノグラフとして登場し、以降、ブライトリングの基幹ムーブメントであり続けるCal.01をベースに、瞬時日送り式の永久カレンダー機構を組み込んだものだ。
「開発は21年から始まりました。当初、Cal.01の設計には永久カレンダーを組み込む構想は含まれていませんでした。度重なる改良を経て、いよいよ複雑機構を統合する基盤にふさわしいムーブメントになったと判断したからです」

補足すると、現在の01は第3世代である。もともと01は、約70時間ものパワーリザーブ、針飛びしにくい垂直クラッチ、コンパクトながら回転効率に優れる両方向巻き上げ機構、さらにメンテナンスしやすいモジュール構造と、ブライトリングが「世界最高のクロノグラフ」と豪語するにふさわしい性能を備えていた。しかし、そこに甘んじることなく改良に努め、第3世代では垂直クラッチやリセットハンマー、緩急針や自動巻き機構など、ほとんどの部品が変更されている。
B19のベースムーブメントは、実はこの最新の01をさらに進化させたものだ。パワーリザーブは約96時間と大幅に延び、テンプは緩急針ではなく、衝撃に強いフリースプラング式を採用する。


「閏年や、28日、30日、31日の月を自動で補正し、大幅な調整を行うことなく約1世紀にわたり正確に作動し続ける永久カレンダーは、時計製造の歴史において最も洗練され、最も権威ある複雑機構のひとつ。私たちの目標は、それを限定モデルだけでなく、主力ラインでも使用できる、極めて堅牢で信頼性の高いムーブメントに載せることでした。それはかなえられたと自負しています」
もちろんブランドのファンにとっては、B19の永久カレンダーモジュールが、パートナーシップを結ぶデュボア・デプラ製ではなく、ブライトリングが一から起こしたものであることも大きな魅力と映るはずだ。リュウズを回すだけですべてを早送りできるこのモジュールは、いくつかの機構で特許も取得している。

ブライトリング自社製ムーブメントの最新進化形であるCal.B19を搭載したナビタイマーは、ブラックのアリゲーターストラップを装備したモデルも用意される。インサイドベゼルの黒とマッチし、アイスブルー文字盤をクールに引き締めている。プラチナ製ベゼル。COSC認定クロノメーター。自動巻き(Cal.B19)。39石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約96時間。SSケース(直径43mm、厚さ14.94mm)。3気圧防水。475万2000円(アリゲーターストラップ仕様)。
そんな肝いりのハイコンプリケーションムーブメントを搭載しながら、新作は価格をぐっと抑えているのも驚きだ。「この新しいナビタイマーのリリースは、私たちの戦略的な歩みの一環です。経営体制が変わった2017年以前のブライトリングは航空時計の名門というイメージでしたが、現在ではより洗練されたブランドへと進化し、独自のモダンレトロな世界観を体現する存在となっています。そして今後も、よりカジュアルで包括的、かつサステナブルなラグジュアリーの在り方を提案する〝ネオラグジュアリー〞のリーダーであり続けたいと願っています。このモデルは、そんな〝新生ブライトリング〞をより幅広い層に知らしめるとともに、ブランド価値をさらに高める契機になると考えています」
おそらく今後、B19はプレミエやクロノマットのレギュラーモデルにも搭載されるだろう。自社製の永久カレンダークロノグラフを得て、ブライトリングはますます時計界の高みで飛翔を続ける。

スイス連邦工科大学を卒業後、1992年にピアジェでキャリアをスタート。94年にタグ・ホイヤーの製品開発マネジャーとなり、2001年以降はLVMHグループ傘下のルイ・ヴィトン、ブルガリの時計部門の要職を歴任。17年にブライトリング入社。同社のリブランディングを指揮。24年より現職となり、グローバルな製品戦略をリード。