“旅”という原点から歩みを進める、ルイ・ヴィトンの2026年新作モデル

2026.04.10

“旅の時間”を、どこまで機構として設計できるのか。ルイ・ヴィトンのウォッチメイキングは、この問いをさまざまな形で探究している。各都市の時刻を読み取る表示、音として時を告げる機構、そして分単位で時差を補正する仕組みといった時間設計の多様性。さらに文字盤の装飾や時刻表示の技法を通じて、時間は物質と造形の領域へと拡張し、新たな表現として立ち現れる。「旅」という原点から生まれたルイ・ヴィトンの時計は、いま時間表現の新たな領域へと歩みを進めている。

エスカル ワールドタイム フライング トゥールビヨン

エスカル ワールドタイム フライング トゥールビヨン
都市表示ディスクが外周を占めるワールドタイム表示に、センターフライングトゥールビヨンを組み合わせたハイコンプリケーション。グラン フー エナメルで描かれた24都市のフラッグは、多層焼成によって鮮烈な色彩と深い光沢を生むメティエダールの技法である。自動巻き(Cal.LFT VO05.01)。40石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約62時間。Ptケース(直径40mm、厚さ12.8mm)。50m防水。3646万5000円(税込み)。
奥山栄一、三田村優:写真
Photographs by Eiichi Okuyama, Yu Mitamura
安部毅、細田雄人(クロノス日本版):編集・文
Edited & Text by Takeshi Abe, Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年5月号掲載記事]


エスカルが導く、旅のメカニズムの現在地

エスカル ワールドタイム

エスカル ワールドタイム
ジャンピングアワーディスクと基準都市表示を組み合わせ、24タイムゾーンを直感的に読み取れる。単一針による24時間表示とミニチュアペインティングによる色彩豊かな都市リングが、旅の時間を視覚的なリズムとして提示する。自動巻き(Cal.LFT VO12.01)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約62時間。Ptケース(直径40mm、厚さ10.3mm)。50m防水。1441万円(税込み)。

 “旅の時間” という概念を、どのように文字盤という空間へ配置するか。ルイ・ヴィトンの「エスカル ワールドタイム フライング トゥールビヨン」は、都市表示ディスクが外周を占めるワールドタイム機構とフライングトゥールビヨンというふたつの複雑機構を統合したモデルである。24都市リング、昼夜表示を含む時ディスク、60秒で1回転するキャリッジ。多層構造の中でこれら機構の配置を成立させる設計が求められた。

 最大の課題は、ワールドタイム表示とセンタートゥールビヨンを限られた空間に収めることだった。時刻表示機構と調速機構のレイアウトを見直すことで、同一空間内に両者を配置。つまり、ルイ・ヴィトンは同作で複雑機構の併載ではなく、空間構造の再設計を行なったのだ。

エスカル ワールドタイム

フライング トゥールビヨンが採用するグラン フー エナメルの都市リングは、730~840℃の炉で5層・40回以上の焼成。その後は丁寧に研磨され、ガラス質の深い光沢と鮮やかな色彩を獲得する。製作には約80時間を要する。
エスカル ワールドタイム

エスカル ワールドタイムの都市リングは、35色の塗料を極細の筆で1色ずつ丁寧に塗布。顔料を定着させるための乾燥工程は各色で幾度も繰り返す。1枚のダイアル完成までに約1週間を要する精緻なメティエダールの手仕事だ。

 エスカル ワールドタイム フライング トゥールビヨンと「エスカル ワールドタイム」は、いずれもジャンピングアワーディスクと基準都市表示を組み合わせ、24タイムゾーンを読みやすく整理する構造を共有する。24時間表示は単一針で担われ、基準都市の切り替えも直感的だ。前者ではダイアル外周のフラッグをクロワゾネ技法のグラン フー エナメルで描き、スターシェイプ トゥールビヨンの回転運動が視線を構造の中心へ導く。一方、後者は2014年に誕生したアイコンを再構成するモデルであり、35色を用いたミニチュアペインティングによって色彩豊かな都市リングを実現した。

 都市表示ディスクでの “時の魅せ方” に主軸を置いたウォッチメイキングによって、ルイ・ヴィトンは時間を “見る” 装置としての再設計に挑んだ。だが同社は、表示構造にとどまらず、時間そのものの扱いへ設計軸を拡張していく。それを象徴するのが、「エスカル ミニッツ・リピーター」だ。

エスカル ミニッツ・リピーター

エスカル ミニッツ・リピーター
澄んだ深みのある音色を追求したチャイミングウォッチ。6時位置のジャンピングアワーとレトログラード分針を備える。両表示はダンピング機構により同期。正時に時針が跳躍する瞬間、分針は制御された動きでゼロ位置へ戻る。自動巻き(Cal.LFT SO13.01)。48 石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約80時間。18KRGケース(直径40mm、厚さ12.3mm)。50m防水。5318万5000円(税込み)。

 時間を “鳴らす” という行為は、時刻表示とは異なる設計領域に属する。エスカルミニッツ・リピーターは、視覚と聴覚を同期させる構造を提示するモデルとして、ミニッツ・リピーター、ジャンピングアワー、レトログラード分針を統合する。

Cal.LFT SO13.01

エスカル ミニッツ・リピーターが搭載するCal.LFT SO13.01。リピーターを作動させるスライドピースは7時-8時位置の意匠に統合され、外観の均整を保ちながら機構をケースデザインに組み込む。受けやブリッジのコート・ド・ジュネーブや面取りなど、随所に施された伝統的な高級仕上げも見所だ。
フレイムギヨシェ文字盤

ミニッツ・リピーターには伝統的なローズエンジン旋盤による精緻なフレイムギヨシェ文字盤が採用される。放射状に広がる模様は光を強く反射し、レトログラード分針へ視線を導く役割を担う。均一な深さと圧力で彫り進める作業工程は高度な熟練を要し、視認性の確保にも寄与している。

 音色設計において重視されたのは、澄んだ深みのある響きだ。ゴングは耳による調整と精密測定を経て仕上げられ、組み立てから最終ケーシングまで同一の時計師が担う。ブラックポリッシュのハンマーとゴングは手作業で成形・切削。遠心調速機のほぼ無音の動作が、音の明瞭さを支える。

 同作のムーブメントは、25年に発表されたジェラルド・ジェンタのミニッツリピーターをベースとしている。しかし、音質を可能な限り保持しつながら、「エスカル」のラウンドケースへ適応させる必要があり、若干の設計変更が加えられた。また、リピーターを作動させるスライドピースは7時位置のラグの付け根から、8時位置までにかけてシームレスに統合されている。複雑機構を誇示するのではなく、ケースフォルムの整合を保つ構成である。

エスカル ツインゾーン

エスカル ツインゾーン
第2時間帯を副時針と副分針を用いて表示する。副分針が15分刻みで調整できるため、インド(UTC+5:30)やネパール(同+5:45)など非標準時差地域を含む世界のタイムゾーンに対応。ラグやインデックスはトランクの金具に着想を得た。自動巻き(Cal. LFT VO15.01)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約68時間。18KRGケース(直径41mm、厚さ12.52mm)。50m防水。881万1000円(税込み)。

 一方、「エスカル ツインゾーン」は時間を “調整する” ための構造だ。デュアルタイム(時・分)表示と12時位置にデイ&ナイトインジケーターを備えている。従来のGMTモデルが副時針のみを追加していたのに対し、本作は同軸上に4本の針を配置し、独立調整可能な副分針を追加することで、15分単位の補正を可能にした。30分や45分といった非標準時差地域を含む世界のタイムゾーンに対応する設計である。

エスカル ツインゾーン

エスカル ツインゾーンの文字盤には経線と緯線を刻んだ地球儀モチーフが配置される。サテン仕上げの表面は光を受けて豊かな立体的陰影を生み、旅の世界観を象徴する視覚的モチーフとして機能する。外周フランジにはトランクのビスを想起させるカボション状の型ミニッツマーカーが配された。
エスカル ツインゾーン

ツインゾーンは同軸上に4本の針を配置する。ローカルタイムを示すソリッド針とホームタイムを示すスケルトン針でふたつの時間を同時表示。リュウズは2ポジション操作となり、第2時間帯の副分針を独立調整して15分単位の時差補正を可能にする。非標準時差地域にも対応する設計だ。

 音を鳴らす機構と、分単位で調整する仕組み。ルイ・ヴィトンは表示を超え、時間を機械的な操作対象として再定義する。次に問われるのは、その時間がいかなる物質に宿るのかという問題である。

 “時間” は機構として設計されるだけではない。素材や造形を通じて、物質として立ち現れることもある。ルイ・ヴィトンのウォッチメイキングは、その段階へと歩みを進めている。

エスカル オトマティック イエローゴールド&タイガーズアイ

エスカル オトマティック イエローゴールド&タイガーズアイ
外装に天然鉱物タイガーズアイを用い、繊維状構造に沿った光の反射で独特なキャッツアイ効果を狙ったモデル。タイガーズアイは繊維方向を見極めた精密なカットと振動・温度上昇を抑えた加工条件により、破損リスクを抑えながら慎重に形成される。自動巻き(Cal.LFT023)。32石。2万8800 振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KYG×タイガーズアイケース(直径40mm、厚さ10.34mm)。30m防水。世界限定30本。836万円(税込み)。

エスカル オトマティック イエローゴールド&タイガーズアイ

ミドルケースはダイアルと同じ天然鉱物タイガーズアイのリングを一体化。繊維状構造に沿った光の反射がキャッツアイ効果を生み、18KYGとの美しい調和が確認できる。ベゼルとケースバックは石よりわずかに張り出し、軽度の衝撃から保護する設計に。

「エスカル オトマティック イエローゴールド&タイガーズアイ」は、装飾石をケース構造そのものへ取り込む試みである。ミドルケースには天然鉱物タイガーズアイのリングが一体化され、ラグやベゼル、リュウズには18KYGが用いられる。鉱物の温かな色彩と金属の柔らかな輝きが重なる構成だ。タイガーズアイはモース硬度7の比較的硬質な石でありながら、繊維状の内部構造を持つ。この構造がキャッツアイ効果を生む一方、加工には破損や欠けのリスクを伴う。そこで原石は亀裂や内包物の少ないもののみが厳選され、振動や温度上昇を抑えた条件で加工される。繊維の方向を見極めながらリングを形成し、研磨によって光沢を引き出す工程には宝石加工職人の感覚が不可欠だ。ダイアルとケースリングの最終組み合わせは、模様の向きや色調の調和を基準に職人が判断する。自然の物質と人の技術が交差するプロセスである。

タンブール オトマティック コンバージェンス ギョーシェ

タンブール オトマティック コンバージェンス ギョーシェ
アーチ状の文字盤開口部に2枚の回転ディスクを配し、中央のロザンジュマーカーで時刻を読み取る独創的表示。ローズエンジンとストレートラインエンジンという2種の手動旋盤で彫り分けられたギヨシェ装飾の深い線刻が、光の対比を際立たせる。自動巻き(Cal. LFT MA01.01)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。18KRGケース(直径37mm、厚さ8mm)。30m防水。896万5000円(税込み)。

タンブール オトマティック コンバージェンス ギョーシェ

プレート表面には2種のギヨシェ模様が彫り分けられる。中央の放射状の線と外周の波紋状装飾が光を反射し、ドーム状のケースに立体的な陰影を生む。エングレービングの深さは一般的なダイアルギヨシェの約3倍に達し、最終研磨後も線の対比が際立つ。

 一方、「タンブール オトマティック コンバージェンス ギョーシェ」は、時間の “見え方” を再設計するモデルである。12時位置のアーチ状の開口部には2枚の回転ディスクが配され、上部が時、下部が分を表示する。中央のロザンジュマーカーが現在時刻を示す。開口形状はパリ郊外のアニエールにあるヴィトン家邸宅のインテリア建築に着想を得たもので、視認性を確保しながら時間の移ろいを視覚的に示す。ダイアル表面には手動旋盤によるギヨシェ彫りが施される。文字盤外周には同心円状の波紋、中央には放射状の線が刻まれ、1850年製ローズエンジンと1935年製ストレートラインエンジンという異なる手動旋盤で彫り分けられる。わずかに湾曲したケース表面を削り出す工程では刃の深さと圧力を調整する必要がある。エングレービングの深さは一般的なダイアルギヨシェの約3倍に達し、最終研磨後も線のコントラストが際立つ。約16時間を要する装飾は、光と質感を制御する構造的表現でもある。

ルイ・ヴィトン カミオネット

ルイ・ヴィトン カミオネット
アニエールの工房と顧客を結んだ配送トラックを再解釈したタイムオブジェ。高級クロックマニュファクチュール、レペ1839と共同開発した機械式ムーブメントを車体中央に搭載し、ふたつの回転シリンダーで時分を表示。手巻き(Cal.LʼEpée 1839 MV.7417/101)。21石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約8日間。アルミニウム×スティールケース。高さ18cm。横35.3cm。重さ7kg。1032万9000円(税込み)。

 ここまで見てきた新作モデルは、時間を異なる層で扱っている。機構としての時間、素材としての時間、表示としての時間。ルイ・ヴィトンのウォッチメイキングはそれらを横断し、時間を物質と造形の領域へ拡張する。その延長線上に位置するのが、「ルイ・ヴィトン カミオネット」だ。

ルイ・ヴィトン カミオネット

荷台にはモノグラム・キャンバスのミニチュアトランクが収められる。ナンバープレート「LV 1854」はメゾン創業年を示し、歴史的な配送トラックへのオマージュとなる意匠。実在した車両のシルエットを踏襲した車体はアルミニウムとスティールが用いられる。
ルイ・ヴィトン カミオネット

トランクを開くと現れるキーは、ムーブメントの巻き上げと時刻調整を行うための専用工具。トランク金具を想起させるシルエットで、往年の手回しクランクを思わせる造形だ。単なる装飾にとどまらず、内部の機械式クロックに動力を与える実用的な役割を担う。

 20世紀初頭、アニエールのアトリエと顧客の間を結んだ配送トラックを着想源とするこの作品は、メゾンの旅の歴史をタイムオブジェとして再解釈したもの。サフランとブルーの車体はアルミニウムとスティール製で、その内部にはレペ 1839と共同開発された機械式ムーブメントが収められる。キャビン中央のバランスホイールが鼓動し、ボンネット内部に収められたふたつの回転シリンダーが時分を表示する。透明パネル越しには脱進機の動きも観察できる。荷台にはミニチュアのモノグラム・トランクが収められ、その内部には巻き上げと時刻調整を行うキーが隠されている。実用品としての車両と時計の機械構造、メゾンのトランク文化が一体化した作品である。

 鉱物、装飾、造形。ルイ・ヴィトンが示しているのは、時間が単に機械の内部に閉じた概念ではないということだ。時間は機構として設計され、表示として構成され、素材として触れられ、そして物語として形を持つ。旅という原点から出発したメゾンの時計は、今、機構・素材・造形を横断する領域へと拡張しつつある。



Contact info: ルイ・ヴィトン クライアントサービス Tel.0120-00-1854


ルイ・ヴィトンの2026年新作時計は「エスカル」がすごい! 発表された5モデルを一挙紹介

FEATURES

ルイ・ヴィトンの伝統と革新を併せ持つ実力を物語る「タンブール コンバージェンス」

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ルイ・ヴィトン「エスカル」に、タイガーズアイを採用した数量限定モデルが登場!【LVMHウォッチウィーク】

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