グランドセイコーの2026年新作のうち、時計ライター・佐藤しんいちが、直径33mmのケースにグランドセイコーが誇る9Fクォーツムーブメントを搭載させた「ヘリテージコレクション キャリバー9F 33mm」を深掘りする。本作のケースは、9Fクォーツムーブメントとしては最小サイズとなるCal.9F51の登場によって実現したもので、日本人の平均から見て太めの手首を持つ筆者に、そして女性にフィットするユニバーサルなデザインとなっている点が注目点だ。

Text by Shin-ichi Sato
[2026年7月14日公開記事]
9Fクォーツムーブメント搭載モデルとしては最小の直径33mmケースが登場
グランドセイコーの2026年の新作の中から注目モデルを深掘りする本企画。今回は、「ヘリテージコレクション キャリバー9F 33mm」を取り上げる。本作は、その名前が示すように、グランドセイコーが誇る9Fクォーツムーブメントを搭載したケース径33mmのモデルである。今回は、9Fクォーツムーブメントの持つ実力を振り返りつつ、直径33mmというサイズ感が生み出す本作の印象について深掘りしてゆきたい。
グランドセイコーが誇る9Fクォーツムーブメントの実力
9Fクォーツムーブメントとは、1993年にデビューしたCal.9F83を祖とするムーブメントの系譜である。Cal.9F83は、“究極のクォーツ”、“クォーツを超えたクォーツ”が目指され、長年にわたって培われてきた機械式ムーブメントとクォーツ式ムーブメントの技術を結集して開発され、現在にも引き継がれている多くの新機構が搭載されていた。そこでここでは、9Fクォーツムーブメントの技術的特徴について振り返ろう。
①突き詰められた高精度
クォーツ式の時計の心臓部となる水晶振動子は、安定した物質である水晶を原料としているが、わずかな個体差は避けられず、しかもそれが経年変化によって現れることもある。そして、このような個体差が時計の誤差の原因となる。そこで9Fクォーツムーブメントに搭載される水晶振動子は、加工後に3カ月間のエージングを経て、基準内かつ安定した精度となったもののみが使用されている。さらに、このような手間と時間をかけて作られた水晶振動子でも個体差は避けられないため、9Fクォーツムーブメントでは制御ICに個体差の情報を書き込んでおき、より誤差の少ない作動を実現する手の込み様だ。

このようにして生み出された高精度の作動も、あくまである一定の温度条件に限ったものである。水晶は温度変化によって振動の周波数がドリフトする特性を持つ。そこで9Fクォーツムーブメントでは、1日に540回も内部の温度をセンシングし、温度ドリフトを自動的に補正。着脱や、屋外と屋内の行き来、季節の変化に伴う温度変化が精度に与える影響を最小化している。
さらに、通常のクォーツムーブメントに搭載されない緩急スイッチも搭載しており、長年にわたる使用による誤差の補正や、ユーザーの好みに合わせた調整が可能となっている。
②太く重い針を正確に駆動する「ツインパルス制御モーター」
グランドセイコーのデザインコードである「グランドセイコースタイル」の中には、ストレート形状のインデックスと、多面的なダイヤカットが施されたドーフィン型の時分針が含まれている。これは、初代グランドセイコーから受け継がれてきた伝統のデザインで、時計の顔を決める重要な要素となっている。ただし、太い針は重いため、力の強い機械式時計では駆動可能であっても、一般的なクォーツムーブメントでは搭載が難しいものだ。

これに対して9Fクォーツムーブメントは、出力トルクを高めつつ、「ツインパルス制御モーター」によって、デザインの要となる太く重い針を安定して駆動している。一般的なクォーツムーブメントは、1秒に1ステップで動くが、9Fクォーツムーブメントでは1秒に2ステップ動く機構となっており、高い駆動力と省エネルギーを両立している。
③安定した針の動きを生み出す機構
このほかにも、9Fクォーツムーブメントには、太く重い針を安定した滑らかな動きとするための機構が盛り込まれている。その機構のひとつである「3軸独立ガイド構造」は、時分秒の3本の針を取り付ける軸を互いに干渉させないガイド構造で、それぞれを独立して回転させることにより、滑らかな動きを実現するものである。またこれは、正確な時計に欠かせない、正確な時刻合わせを可能とする機構にもなっている。
もうひとつが「バックラッシュオートアジャスト機構」である。歯車が作動するためには遊び(バックラッシュ)が必要である一方で、遊びが原因で秒針の震えが生じてしまう。この震えを抑えるバックラッシュオートアジャスト機構は、内部に機械式腕時計の心臓部であるヒゲゼンマイが搭載されており、ヒゲゼンマイが生み出す反発力によって、秒針の動きを安定させる仕組みとなっている。機械式時計についても高い技術力を持つ、グランドセイコーならではと言えるだろう。
高い完成度を誇る9Fクォーツムーブメントを搭載した33mmモデルが実現
9Fクォーツムーブメントについては、まだまだ語るべき点が残されているが、そろそろ新作の深掘りに移ろう。新作であるヘリテージコレクション キャリバー9F 33mmのRef.SBGX359、Ref.SBGX361の持つ直径33mmケースのスタイリングが実現したのは、最もシンプルな構成であったCal.9F61をベースにして、精度・性能はそのままに、長径を0.6mm小型化した新ムーブメントのCal.9F51が開発されたためだ。

クォーツ(Cal.9F51)。9石。SSケース(直径33.0mm、厚さ9.1mm)。10気圧防水。各44万円(税込み)。
男性は、より大型のモデルによって9Fクォーツムーブメントの完成度を味わうことができてきたのであるが、女性にとっては着用が難しいサイズというのが、これまでのラインナップであった。ここに追加されたのが直径33mmの本作であり、男性にとってはコンパクトに、女性にとってはやや大柄ながら実用的なサイズ感となっているという点が、本作に注目した最大のポイントだ。
男性にはコンパクトなモデルとしてフィット
ホワイト文字盤のRef.SBGX359を、手首周長約18cmの筆者が着用してみた。ビジネススタイルを意識した、厚手のオックスフォードシャツとのコーディネートは良好で、よりドレッシーなブロードシャツにもマッチする上品な仕立てである。コンパクトで、厚さ9.1mmと薄い仕立てによって袖への収まりも良好だ。筆者の手首サイズは、日本人平均よりも太いと思われるため、写真から受けるコンパクトな印象は、もう少し割り引いて考えて良いだろう。

女性が着用すると存在感がありつつフィットするサイズ感
せっかくなので女性にもフィッティングしてもらった。直径33mmのケースは、女性の手首には存在感のある、やや大きめのサイズ感となる。ただ、ラグ部分は飛び出しておらず、薄い仕立てであるため収まりが良く、実用的なシルエットと言えるだろう。曲線を主体としたケースデザインによって柔らかい印象を生み出しつつ、エッジの効いたインデックスと時分針が全体を引き締めている。

なお、女性視点の本作のインプレッションは、伊藤むつよ氏が大いに語っているため、そちらもチェックいただきたい。
文字盤には定番の「雪白(ゆきしろ)パターン」
文字盤には、2005年より採用が続けられている、人気の“雪白パターン”の型打ちが施される。これは、本作の製造地、セイコーエプソン塩尻事業所内の「信州 時の匠工房」から望む穂高連峰で見られる、自然の風景を表現したものだ。穂高連峰では冬の時期になると、未踏の雪原に冷たく乾いた風が吹きつけ、風雪紋が生じることがある。この風雪紋は、風の方向に向かったランダムな凹凸が特徴となっている。この風雪紋を文字盤のデザインとして取り入れたのが“雪白パターン”である。ホワイト文字盤のRef.SBGX359では、特殊な銀メッキ加工を取り入れ、白い塗料を使わずに繊細な風合いを生み出しており、真っ白な中にわずかな表情の変化がある点が見どころだ。

ブルー文字盤のRef.SBGX361は、雪面に澄み切った空の色が反射した“雪白ブルー”となっている。空の青から着想を得た、濃すぎない繊細なブルーの色調が魅力で、個性的でありながらシックな印象であるため、さまざまなコーディネートに取り入れやすいことだろう。
デザイン面で気になる点も残った
本作は、日本人平均より太めの手首を持つ筆者から女性に至るまで幅広くフィットする、ユニバーサルなデザインであることは間違いないが、男性目線で少し気になった点も述べておこう。気になったのはブレスレットの仕立てだ。本作に組み合わされるブレスレットは、ラグ幅が細く、そこからさらに絞り込まれるデザインだ。また、リンクが細かく、遊びも大きめで柔らかな仕立てとなっている。これらは、男女双方に良好な着用感を提供することに寄与しているのは間違いない。一方で、絞り込みの効いたデザインや、細いバックルをはじめとした各種デザインから、筆者は女性向けデザインを思わせる繊細さを感じた。
もし、男性ユーザーの中で筆者同様にこの点が気になるのであれば、絞り込みの小さいレザーストラップに換装することを提案しておこう。筆者の見立てでは、よりクラシカルでドレッシーな印象になり、新たな魅力を見せてくれることだろう。
店頭でチェックすべき注目のコンパクトモデル
筆者はこれまで、男性向けドレスウォッチやインフォーマルウォッチについて語る際、「市場の標準的なケースサイズは直径40mm」と述べてきた。2026年時点の全社のラインナップを見れば、この“標準値”に誤りはないはずだ。しかし、各社の新作に目を移すと確実に小径化の波は迫っており、標準が書き換わる日が来るかもしれない。歴史を振り返っても、長らく36mm程度が標準であり、さらに時代をさかのぼると直径33mmのモデルも多かった。
このような背景の下、ラインナップに追加されるヘリテージコレクション キャリバー9F 33mmの2モデルは、機能面の妥協なく、グランドセイコーの誇る9Fクォーツムーブメントを堪能できる仕上がりとなっており、完成度は高い。コンパクトなモデルを求める男性ファンや、着用可能な9Fクォーツ搭載モデルを待ち望んでいた女性ファンだけでなく、今後のトレンドに注目する意味でも、店頭でチェックすべきではなかろうか。





