多くのメーカーがマニュファクチュール化を目指す中にあって、独自の路線を歩むティファニー。時計部門の副社長を務めるニコラ・ボーは、その理由を明快に語る。
Photograph by Yu Mitamura
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年7月号掲載記事]
ティファニー ブルーとは空の色であり永遠の色です

ティファニーオルロジュリー部門の副社長。ISG経営大学院卒業後、カルティエに入社。ボーム&メルシエでマーケティングと製品開発の責任者を務めた後、2002年にシャネルに移り、J12コレクションを質・量共に充実させた。その経験を買われて、1021年にティファニーに入社。ジュエリーとのシナジー、製造体制の見直しなどで、時計部門を再離陸させることに成功した。
「私たちの出発点は、常に意匠なのです。まずデザインがあり、それを尊重するムーブメントを探す。見つからなければ、ビスポークで開発する。というのもゼロからすべてを作るよりも、卓越したスペシャリストたちとビスポークで創り上げることを私たちは重視しています。ティファニーにとって最も重要なのは、クラフツマンシップ、セッティング、宝石を扱う卓越した専門性、そして開発全体を自分たちの理念に基づいて行うこと。ムーブメントは極めて専門化された仕事ですから、ゼロから車輪を再発明するよりも、最高峰のスペシャリストと組みたいのです」
デザインありきの姿勢は、ティファニーが採用するソーラークォーツにも貫かれている。機械式への回帰トレンドが強まる中、女性向け高級腕時計でクォーツを使うことが不利にならないかと問うと、ボーはこう答えた。「デザインに十分薄く納まる機械式ムーブメントを、今のところ私はまだほとんど見ていません。50〜70年前には今日よりずっと小さな機械式ムーブメントが存在しましたが、構造的に繊細で、信頼性の面で課題がありました」。実用と美意識の両立、それがティファニーのクォーツ戦略というわけだ。

ニコラ・ボーが言う「単なるジュエリーのミニチュア版ではない」新作。ティファニー ブルーをあしらったパイヨン エナメルを、手首の動きとともに回転するアウターリングに配している。エナメルに埋め込まれたクロス状のモチーフは、ジャン・シュランバージェが1962年に生み出した「クロワジヨン バングル」からの引用である。ジュエリーと時計の融合を図る同社らしく、なんと613石のダイヤモンドがケースに配されている。クォーツ。18KWGケース(直径38mm)。2524万5000円(税込み)。
同社が成功を収めた理由に、ティファニー ブルーの文字盤があることは否めない。あれほど明快なブランドコードはほかにないが、今後どうコントロールしていくのか?「ウォッチメイキングの世界には、長く愛され続ける良い色というものが、それほど多くないのです。実のところ、白と黒は色ではないですね。一方、ティファニーブルーは空の色であり、永遠の色です。ある人はニューヨークの、ある人は東京の空の色と言う。誰にとっても、強い意味を持つ色なのです。また、ラグジュアリーウォッチは、長く愛され続けるものでなければならない。ですから私たちはこの色を一時的なトレンドとして使うことはありません。そうあってはならないのです」。
ティファニーが今、過去のアーカイブを再解釈しているのも、ティファニー ブルーが象徴する、永続性への信頼ゆえだろう。
「私たちが歴史から学んできたのは、ティファニーが歴史的に持っていたジュエリーをウォッチメイキングへと変容させる能力です。宝飾品を時計へと変え、そこに捻りを見いだすこと。これが今、私たちが取り組んでいることなのです」



