あのルイ・ヴィトンが独立時計師と共作を行う。関係者たちの懐疑的な声は、第1作から吹き飛んでしまった。それから3年、ドゥ・ベトゥーンをパートナーに選んだ試みは、クロックを含む壮大なものへと進化を遂げた。

独立時計師とのコラボレーション第3弾。ドゥ・ベトゥーン「DB25 GMT スターリー・ヴァリアス」をベースに、クロックとの同期機構が追加された。手巻き(Cal.DB2507LV)。40石。2万8800振動/ 時。パワーリザーブ約120時間。Tiケース(直径45mm、厚さ14.05mm)。3気圧防水。世界限定12本(内、2本はクロックとのセット)。要価格問い合わせ。
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年5月号掲載記事]
クロック付きを携え、さらなる進化を見せるコラボレーション
2023年に大きな方向転換を果たしたルイ・ヴィトン。もちろん、それまでも良い時計を作ってきたが、以降は時計好きにも刺さるコレクションを展開してきた。「タンブール」「エスカル」、そして「スピン・タイム」や「コンバージェンス」といった派生モデル。共通するのは時計好きの心をくすぐるさじ加減の巧みさだ。現在ルイ・ヴィトンの時計部門を牽引するジャン・アルノーの、時計好きとしての情熱があればこそだろう。

時計をクレードルに収めてクロックに格納すると、自動的に巻き上げと時刻合わせを行うシンパティッククロック。自社製のテンワやヒゲゼンマイに加えて、コンスタントフォース機構も備える。手巻き(Cal.DB5006)。12石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約11日間。Tiケース(幅310mm、奥行き266mm、高さ260mm)。ウォッチとのセットで世界限定2個。
そんなルイ・ヴィトンは、独立時計師とのコラボレーションも行うようになった。アクリヴィアを率いるレジェップ・レジェピに、カリ・ヴティライネン、そしてなんと3作目のパートナーは、デニス・フラジョレらのドゥ・ベトゥーンである。22世紀の時計作りを標榜するこのブランドは、時計業界においても際立ったユニークさを誇っている。青焼きのチタンを用いた内外装、シリコン製の時計パーツ、そして近未来的な造形などなど。年産150〜200本、加えてフラジョレがインタビューに応じたがらないこともあって、このブランドは、時計関係者の間でも畏敬の念を持たれている。ジャン・アルノーはどうやって彼を口説き落としたのだろうか?
「LVDB-03 GMT ルイ・ヴァリアス」と命名されたコラボレーションモデルは、ドゥ・ベトゥーンの傑作「DB25 GMT スターリー・ヴァリアス」をベースにしたもの。既存の成功したモデルを使うのは、コラボレーションとしては正解だろう。青焼きされたチタン製の内外装などもスターリー・ヴァリアスに同じだ。

この時計だけでも語りどころは十分だが、デニス・フラジョレはなんと、そこにクロックを加えたのである。かつて、フラジョレはフランソワ-ポール・ジュルヌらと某メーカーのためにシンパティッククロックを製作した。しかし、フラジョレは納得がいかなかったらしい。「当時の技術では、できることに限りがあった。このノウハウを後世に残したいと思い、私は新しいシンパティッククロックを製作することに決めた」(フラジョレ)。
本誌の読者には言うまでもないだろう。ブレゲの作り上げたシンパティッククロックとは、クロックと機械的に同期してウォッチの時刻を自動修正し、ゼンマイも巻き上げるもの。フラジョレは「LVDB-03 サンパティーク・ルイ・ヴァリアス」のために、カプセル状のクレードルに入れた腕時計をクロックに格納するだけで、巻き上げと時刻合わせを行う新しいメカニズムを考えた。フラジョレ曰く、時計のセッティングが極めて難しかった点と、時計とクロックが対でなければ動かない点を改良したとのこと。

ちなみに、このクロックもドゥ・ベトゥーン製。ヒゲゼンマイやテンワも同様だ。フラジョレ曰く「クロックの精度は日差数秒以内」。加えて、このクロックの外周には、フランソワ・スクイテンによるイラストをベースにした彫刻が、1m以上も彫られている。そして収納するトランクも、このコラボレーションのために製作された全面チタン製(!)と、このクロックにも途方もないサヴォアフェールが投じられている。
腕時計の生産数は12本で、2本はクロックとのセット。価格も推して知るべしとなれば、実物を目にする機会はほぼないだろう。しかしクロックやトランクを含めて職人たちの技を結集した本作は、今まで以上に、ルイ・ヴィトンの本気を感じさせるコラボレーションだ。ここまでやればこそ、時計作りは人の心を打つ。よくぞここまで、が偽らざる気持ちだ。



