オープンリール式のオーディオレコーダーから着想を得たデザインに、ゆっくりと帰零するレトログラード式分表示を組み合わせた大塚ローテック「8号」。これまでなかった“優しさ”を備えた仕上がりだ。
Text by Shin-ichi Sato
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年5月号掲載記事]
レトログラードの見所はゆっくりとした帰零にあり

世界的な注目を集める大塚ローテックの最新作「8号」。オープンリール式のオーディオレコーダーから着想を得たデザインと、ゆっくりと帰零するレトログラード式分表示が最大の特徴だ。自動巻き(Cal.MIYOTA90S5+自社製モジュール)。33石+3ベアリング。2万8800振動/時。パワーリザーブ約32時間。SSケース(ラグからラグまでの縦47.8×横31mm、厚さ10.8mm)。日常生活用防水。99万円(税込み)。
世界的な注目を集める大塚ローテックの最新作は、ゆっくりと帰零するレトログラード式分表示の「8号」だ。スチームパンクと評されることが多かった過去の作品は、機構の都合でデザインが決まっていた時代を思わせ、手強さを感じさせる点が、機械との付き合いの面白さを刺激して魅力的であった。
一方の8号は、同様の世界観の中にありながら趣が大きく異なり、ユーザーへの配慮や優しさが感じられるデザインとなった。デザインの着想となったのは、1970年代まで主流であったオープンリールタイプのオーディオレコーダーだ。ケースの角は丸められ柔らかさがあり、9時側の時針は触り心地がよさそうなオーディオ機器のノブを思わせる形状。各表示がどこを指していて、何を意味するかを語りかけてくる。このような“優しさ”は、3時側の半円型のメーターによるレトログラード式分表示にも反映されている。一般的なレトログラードでは、針が端まで到達すると瞬時に帰零する。これに対して8号は、ゆっくりと帰零する機構を採用している。ブランドを率いる片山次朗は「その意味はない」と笑って答えるが、無機質な機械に優しい印象を付与する重要な要素だ。この作動を実現するのが、ミヨタ90系ムーブメントに自社製モジュールを搭載した機構で、その核となるのが、オープンリールをかたどった時間をかけて回転する弾み車だ。

8号は従来同様のレトロな雰囲気を持ちながら、工業機械が機構優先からユーザビリティーや安全性に配慮される時代へ移っていった歴史を反映しているかのようだ。このような機械デザインの変遷が感じられる点や、その世界観は大塚ローテックの魅力であり、さらなる世界的な人気へとつながってゆくことだろう。



